これは、彼女がナイトメアになる前のお話。
彼女の名前は、ユノ。
彼女は孤児だった。
教会の前に捨てられていた彼女は
神父に育てられ、シスターとして育てられる。
「今日も神に祈りを」
神父はユノを大事に育てた。
ユノは美しく真っ直ぐな女の子に育った。
「神は見ていてくださる」
「人々の祈りも、神なら叶えてくださる」
「だから、私は祈りを捧げる」
2節
「ユノ、今日もお疲れ様」
「おと……神父様、体の方はいかがですか?」
神父は最近体調が良くないらしい。
彼は風邪だと言う。
「大丈夫だよ。心配は必要ない」
「ならいいのですが……」
ユノは神父の為に仕事も家事も頑張った。
昼も夜も、彼女は働いていた。
3節
ユノの限界はすぐにきた。
疲労に魘われ寝床に伏せる。
ちょうどその頃、
街で流行病の噂が広まる。
人々が倒れていく。
街は黒い闇に覆われていく。
(このままでは……みんなが……)
ユノは力を振り絞って起き上がり
神に祈りを捧げた。
「神よ……どうか救いを……」
4節
ユノの祈りは届き、人々は回復する。
「ユノは本物の神の使いだ」
神父はユノを褒め讃えた。
ユノの力で流行病は収まったと
街の者に広まる。
いつしかユノは天使と
呼ばれるようになった。
「ユノ様!どうか、私に商売繁盛の力を!」
「え、えっと……」
「ユノ様、この子に良い巡り合わせが来るよう
御加護を……」
(街の人は勘違いしている……)
(私はそんな力を持っていないというのに……)
「ユノ様!」
「ユノ様!」
5節
ユノの噂は隣町までと広まった。
ある日、黒い車が教会の前に止まる。
「すみませーん、ここにユノ様っていますかー?」
黒いサングラスをかけた明らかに悪そうな
男が入口に立っていた。
「おや、新しい入信者様ですか?」
「あ?なんだこのクソジジイ!」
男は神父を蹴り飛ばした。
「お父さん!」
ユノは神父に駆け寄る。
男たちを睨みつけるユノだが
男たちはニヤニヤと笑っていた。
6節
「神父様を殺して欲しくなけりゃ、俺たちについてこい!」
「ユノ……ダメだ……ぐぁっ!」
「やめて!」
「……分かりました」
神父はユノの名前を叫んでいた。
「ユノ!ダメだ!私の…大切な……!」
「……っ!」
だが、ユノは大切な人を守りたいが為、
大丈夫と神父に笑いかけ、
男たちに連れ去られた。
7節
男たちに連れ去られた場所はとある廃村だった。
「お前ならここの龍神様を呼び起こせるはずだ」
「天使だと聞いていたからな」
「早くやってみろ!」
男たちに背中を押され、倒れるユノ。
言われるがまま、湖の縁に跪き、祈りを捧げた。
しかし、ユノがいくら祈りを捧げても何も起きない。
「神よ……なぜ来て下さらないのですか……」
痺れを切らした男は舌打ちすると、
ユノを縛り、そのまま湖に突き落とした。
「ぐはぁ!?」
突然の出来事にユノは身動きすることも出来ず
湖の底へと沈んで行った。
8節
暗く冷たい水の中、神父との思い出が
走馬灯のように頭の中を駆け巡っていた。
「……ダレだ」
低く、鼓膜を揺さぶる大きな声。
だがハッキリと聞こえた。
私は──……
「チカラがホシイか? 」
ユノは目を閉じこくりと頷いた。
ナラバ、チカラをサズケヨウ!
9節
目を開けると男たちの悲鳴が聞こえた。
辺りを見渡すと、血溜まりの
中にユノは立っていた。
息をしていない男たちと
気づくと握っていた黒い鉄の棒。
それには赤い血がビッシャリと濡れていた。
「オトウサン……」
ユノは屍を踏んで、自分の街へと急いで戻った。
10節
「火事だ!!」
街の人々が教会に向かいながらそう叫んでいた。
ユノもすぐに教会に向かう。
教会は火に染まっていた。
「オトウサン……!オ父サン! 」
ユノは左手で力を込めて、
龍神に貰った力で鎮火させた。
「ユ……ノ」
「お父サン!」
神父はユノに抱きしめられ
穏やかな顔で息を引き取った。
ユノは神に祈りを捧げる。
父と慕った彼が天国へ逝くことを──