とある村に少女がいました。
少女は動物も植物も愛する心優しい子でした。
そんな少女には優しい少年がいつもそばに居ました。
少年は少女を愛し、少女は少年を愛していました。
そして2人は大きくなったら結婚をする約束していました。
2節
ある日、少女は森の中へ出かけます。
果実やキノコなど食べ物を採取しに行きました。
「きゃっ!?」
少女は足を滑らせ、崖から落ちてしまいました。
しかし、運良く大きな樹が少女を受け止めてくれたので
怪我はありませんでした。
「いたたた……」
「ごめんなさい、あなたの大事な枝葉を折ってしまって……」
「でもあなたのおかげで助かったわ。ありがとう」
3節
少女は大樹に感謝を述べました。
すると、どこからか、優しい声が聞こえたのです。
「怪我がなかったのなら良かった」
「もしかして、お話できるの? 」
少女は目を丸くします。
「私はずっとここにひとりでいるの」
「そうなの……それは寂しいことだわ」
少女は大樹と話します。不思議なことに、どこか懐かしい
気持ちになったのです。
「私とお友達になってほしいの」
「命の恩人ですもの。もちろんよ」
少女は大樹と友情を結ぶことにしました。
4節
少女は別れを告げて村に戻ります。
すっかり日が暮れ、皆に心配された少女は大樹の事を
話そうとしますが、なぜか言えなかったのです。
(……あれ?なんでかしら……)
少女は不思議に思いますが、すぐに忘れてしまいました。
5節
少女はよく晴れた日にあの大樹に会いに行きました。
そし村のみんなの話を大樹にするのです。
「羨ましいわ」
大樹はそう呟きました。
「私の恋人にもぜひあなたに会わせたいわ」
少女は少年を紹介したいと話し出します。
大樹はしばらく黙り込みましたが、「ええ」と頷いたのでした。
6節
あくる日、少女は少年を連れて、あの大樹に会いに行きました。
「君は植物とも話せるんだね」
「あの大きな樹だけよ。他の動物や植物とは話せないの」
(普通は樹とテレパシーを繋ぐことが出来ないはず……でも彼女は会話をしている。まさか……)
「どうかしたの? 」
「いや、なんでもないよ」
少年はポケットの中を探って、恐らく大丈夫だろうと確信した。
7節
少年は近づくにつれ、吐き気を催した。
少女は心配するが、なぜか早く会わせたいという気持ちが
芽生えて抑えられなかった。
「ねぇ、早く行こう……」
「待ってくれ……」
少女の繋ぐ手の力が強まる。
少女とは思えないほど強い力で握られ、離れられない。
「……ねえ」
少年はポケットから何かを取り出し、少女に見せる。
「……えっ」
それはマッチだった。
「君は悪いものに取りつかれている」
「例えば……"ドリュアス"とか」
少女の握る手を振りほどき、マッチを勢いよく擦ると
赤い火が点った。
8節
「やめて!! 」
少女は大声をあげて少年から退いた。
「お願い、火を消して!! 」
「彼女から居なくなれば、消す」
少年は意を決っして、少女にジリジリと近づく。
「わ、わかったわ……」
少女とは違う別の声がハッキリと聞こえた。
すると深い緑色の煙が少女の体から消えていった。
少年はそれを見ると安堵し、火を消した。
9節
しかし、葉のついた無数の枝が少年に向かって瞬時に伸びた。
少年はそれに気付くのが遅かった。
「うわぁぁぁ!! 」
少年の体に木の枝が絡みつき、大樹に引きづり込まれる。
少女はそれを呆然と見ることしか出来なかった。
少年は少女の名を叫んだが、虚しく大樹の中へ消えていった。
「どうして……」
「ふふ……ふふふふふ……」
大樹の精霊、ドリュアスは不気味に笑った。そして
「あなたも私の一部になるの」と言ったのが少女の最後の
記憶だった。
10節
ドリュアスに取り込まれた少女は
ナイトメア──ドリュアスになった。
「これで彼と一緒」
どこかで、誰かの言葉が聞こえた気がした。