それらを丁寧に手入れをする十四松とトド松。そんな弟2人の姿を見守るのは長のおそ松だった。彼は畳に寝そべり扇子で仰ぎ、あまりの暑さにうだうだと愚痴を零していた。
「なんでこんな暑いのー。」
「知るか。」
上から聞こえた声におそ松は「げっ」と情けない声をあげると同時に拳はおそ松の腹に直撃する。
「ぐえっ!」
「暑いのはみんな一緒だ。働けおそ松。」
拳を振り下ろしたのは弟であり若頭であるカラ松だった。弟には甘く、兄に対しては手厳しい。だがそれは彼なりの愛情である。
「十四松とトド松がな、これに行きたいと駄々をこねているんだが。」
ぴらりと顔に降ってきた1枚の紙をとりなんだこれと読み上げる。
「……赤塚盆祭り?」
「あぁ、今年も神社でやるらしい。」
「別にいいんじゃね?行ってこいよ。」
赤塚盆祭りとは、お盆の3日間開かれる。もちろん目的は帰ってきた死者との交流……らしい。おそ松たち妖怪にとっても祭りは楽しみで、たまにこっそり祭りへ出かけたりする。
だが、暑さのあまりに思考能力が定価しているおそ松は興味がないとばかりに紙をカラ松に押し付け返す。カラ松はいいのか?と驚いた表情でおそ松を見つめる。
「あー、土産買ってこいよ?」
「あぁ、もちろんだ。」
許可が降りたことにカラ松は思わず素の笑顔を浮かべ、許可が降りたことを2人に報告しに行く。
「じゅーしまぁつ!とどまぁーつ!おそ松が金出してくれるらしいぞ!」
「うんうん、……って、はぁぁぁ!?そこまで言ってねぇからな!?」
カラ松の余計な一言に怒ったおそ松はドタドタと足音を立てて走っていく。庭でじゃれ合う4人の姿を見たチョロ松はため息をついた。
「今日もウチは平和だね……。」
蒸し暑い庭で水遊びを始める4人。それを縁側で涼みながら見守る真ん中2人。今日のおやつはスイカだ。スイカをむしゃむしゃと頬張り、遊び疲れた上2人と下2人は子供のように眠る
。
暑い夏が1日1日過ぎていく。
08月14日、祭りの準備は着々と行われていた。
――8月15日。結局松野家全員で赤塚盆祭りへ行くことになった。
妖怪であるとバレないようにそれぞれお面をつけて。
カラ松と十四松とトド松はさっさと屋台の方へ掛けていった。まるで人間の子供のように楽しそうに人混みに混ざり、すっかり姿は見えなくなってしまった。
「ったく……。」
元気な弟たちにため息をつくと、隣のチョロ松と一松もおそ松を置いてさっさと屋台の方へ行ってしまった。
「はぁ!?お兄ちゃん無視かよ!」
憤ったおそ松は叫んで脱力する。
そうだった、こいつらが兄弟に無関心なのはいつもの事だった。はぁぁ……と長いため息をつけば一人フラフラと立ち並ぶ屋台でたこ焼きやりんご飴などを購入する。そして人混みから避けた場所に座り、寂しそうに買ったものを口にした。
美味しいけど、何だかいつもより美味しいと感じない。何故だろうと考えるおそ松の胸のモヤモヤは消えてはくれない。
「おそ松兄さん……?」
ふと声をかけられて顔を上げる。そこにはチョロ松にそっくりな青年がいた。それにしてもチョロ松の雰囲気が違うことがすぐに分かった。まずお面を付けていないこと。それから彼は甚平を着ている。
「んは、同じだけど違うんだよねぇ。」
「え、あ、すみません。人違いでしたか……。」
「お兄さん、とりあえずこっち座ってよ。」
と、おそ松はチョロ松を手招きして隣に座らせる。チョロ松はどこかよそよそしく座った。おそ松はポケットを探ればトド松に持ち歩くよう言われていた絆創膏を取り出した。
「ほら、靴擦れして痛いんでしょ?」
「いいんですか?」
「使って。俺はたぶん要らないし。」
チョロ松はありがとうございますと礼を述べれば鼻緒で擦れた所に絆創膏を貼った。
「何か食べる?」
「いや、いいです。お構いなく。」
丁寧に断ればおそ松はそう?とりんご飴を食べ始めた。チョロ松はちらりと見る。提灯の灯りに照らされたりんご飴は美しく儚く輝く。
「俺ね、この辺に住んでるから知ってるんだけど。湖の近くにね、ホタルがいるの。」
「え?こんな時期にホタルですか?」
「梅雨の時期に見るのはゲンジボタル。少し遅れてヘイケボタルが見れるんだよ。」
へぇ、と興味深そうに頷くチョロ松。何なら少し見に行ってみる?と誘えばおそ松はチョロ松を引き連れて湖の方へ向かった。
湖は人気がなく、遠くから聞こえる祭りの音と虫の音だけが響く。今日は満月。空から月の光が辺りを照らす。
二人は湖に着くと歩みを止めてじっとホタルが出るのを待つ。
「ここは割と綺麗な水が流れているから結構ホタルが見やすいと思うよ。」
おそ松はそう呟けばピューっと口笛を吹いた。
昔から口笛を夜に吹くな、と言われていた為、何のためらいもなく口笛を吹いたおそ松にチョロ松は驚いた。そして眉間にシワを寄せる。だが次の瞬間、驚くべき光景が目の前に映る。
ホタルたちがふわふわと現れ、優しい光を点滅し始めたのだ。まるで先程のおそ松の口笛を合図に。
「すごい……!」
「綺麗だろ?」
わぁ、と子供のように嬉しそうに笑うチョロ松に得意げに笑う。ホタルの数は増え、幻想的な光景を生み出したのだ。
「なんで僕に教えてくれたんですか……?」
チョロ松はふと疑問に思っていたことを彼に問いかける。するとおそ松は優しく微笑み、こう答えたのだ。
「俺の弟に何となくそっくりだったから。」
――え?
次の瞬間、強い風が吹き、思わず瞼を閉じる。そして風が止み、瞼を開くとそこにおそ松はいなかった。そして、ホタルの光も見えなくなっていた。
「もう、兄さんどこ行ってたの。」
「お前らが置いてったんだろ!?」
再びおそ松は兄弟達と合流することが出来た。カラ松はふと気付く。
「何かいいことでもあったのか?」
それを指摘されたおそ松は少しビックリするも「お前らには内緒」と誤魔化したのだ。
彼らがまたこの日に再会するまであと――……。