※弱りサンソン
※漆黒のニーアレイド、希望ノ砲台:「塔」へヒカセン着いて行った if ギドサンの話(ニーアレイドのネタバレ少しあります)


ギドゥロとサンソンは冒険者に連れられて塔で敵を討滅し終えた。終わったのだ、これで全て。
激しい戦いだった為、全員息がだいぶ荒かった。深呼吸をして落ち着かせたあと、サンソンは槍を、ギドゥロは弓矢を収めた。
冒険者も武器をしまい、2人に感謝を述べてさっさと電脳空間から出ていってしまった。
他のメンバーもそそくさとお疲れ様と会話を交わして出ていき、遂に2人だけになった。
白い空間、淀んだ空気の中、少し灰色がかった見慣れない建物が下に広がる。
「ギドゥロ」
先に口を開いたのはサンソンだった。いつもならギドゥロが口を開いて冗談を交えた言葉を紡ぐのだが、珍しいこともあるものだ。
ギドゥロはサンソンに目線をやる。するといつも釣り上がっている眉は垂れて、口角は反対に少し上がっていた。そして名前だけを呼んでサンソンは歩き出した。先には何も無い。無闇に進めば落ちてしまう。ギドゥロはサンソンの名前を必死に呼んだ。
だがサンソンはギリギリのところでとまり、座った。あぐらをかいて、広がる景色を見ているようだった。
急にどうしたものかと、焦りを覚えバクバクと脈打つ心臓は落ち着き、サンソンの隣に座った。
「いったいどうしたんだ」
急に名前だけ呼んで、座って、それ以上何も話さないなど、サンソンらしくない。ギドゥロは眉間にシワを寄せて、しばらく観察した。
「俺たち、だけだな」
「……? 」
「何も、ないな。本当にここは」
突然ぽつりぽつりと独り言のように話し始める。そしてもう一度こちらを見て名前を呼んだのだ。
「なあギドゥロ」
「どうした」
「……俺たちさ、戦歌隊としてやっと認められて、こうやって、恋人という関係になって……すっごい幸せなんだよ」
それはこちらも同じだ。ギドゥロとしては戦歌隊に引き抜かれた当時はやる気はなかったが、サンソンの意志の強さと心に惹かれて彼に着いていき、力になりたいと思ったのだ。
だが、今日はその粋ないつものサンソンではないことはギドゥロも分かっていた。
「……サンソン」
「だからさ……たまに思うんだよ。こうやって二人だけの世界があればいいのに、って」
そう呟いたサンソンの声は酷く小さく震えていた。泣きそうな恋人の声にギドゥロはサンソンを横から抱きしめた。
「すまない、気づけなかった俺がバカだった」
こいつは不器用で頑固だけど、それ以上に真っ直ぐで素直で、我慢強いやつだから。それを知っていたはずなのに──。
だからこそ、我慢をしすぎて溜め込んで、壊れかけてしまうサンソンがいるのに。
「ギドゥロ……」
「あぁ、俺はここにいるぞ、サンソン」
自分の名を呼ぶ恋人の声はどんな歌声よりも自分の心を震わせる。刺激的で甘くて、何とも幸せな詩だろう。
「ギドゥロ……」
「泣くな、サンソン。いや……今だけはその哀歌を俺だけに聞かせてくれ」
サンソンは歯を食いしばり、大粒の涙を流した。その間、ギドゥロは泣き止むまでずっとサンソンを抱きしめていた。

白い空間にただ2人。
戦いの間のほんの少しの2人だけの世界。
互いの温もりだけがそこにあった。
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