「受けから嫌われてると思ってる」攻めと「攻めを好きなことを認めたくない」受けを「2時間後ろからハグしてないと出られない部屋」に入れたときのアデWoL

※診断メーカーより



「こりゃ参ったね……」
アーデンはため息を漏らした。真っ白い部屋の中、先程彼は目を覚ました。そして隣にはアーデンの意中の相手であるウォーリアオブライトが横たわっていた。安否を確認すると気絶しているだけのようだ。安堵するのもつかの間、突然真っ白な閉鎖空間にウォーリアオブライトと2人きりである。幸いにもウォーリアはまだ目を覚まさない。アーデンは辺りを見渡し、ここから本能的に出ねばと考える。そして武器を召喚し何度壁を傷つけてもビクともしない。困った、と首を傾げていると出口と思わしき扉が突然浮かびあがる。その上に書かれていた看板の文字に困惑していたのだった。

『2時間後ろからハグしてないと出られない部屋』

アーデンはちらりとウォーリア見る。まだ彼は目を覚まさない。何か魔法でもかけられているのか?と心配になるがその様子は無かった。
一先ず扉のドアノブに手をかける。僅かに動くが、とても開きそうになかった。
「強い魔法掛けられてる……とても俺じゃ解けそうにないな」
無理やり開ければ怪我するだろう。下手に触らない方が懸命だと察するアーデン。致し方なく、ウォーリアの元へ戻る。まだ起きないウォーリアの顔を覗き込むようにしゃがむ。
「ホント、綺麗な顔……」
透き通った肌に、日に当たれば光る銀色の髪。まつ毛でさえも綺麗だ。男とは思えないくらい綺麗な存在だ、とアーデンはずっと印象に残っている。闇に染まった自分とは正反対で正義を掲げた勇者様。あまりにも綺麗すぎて汚したいとさえ思う。
思わず頬を撫でようと手を伸ばしたその瞬間、ウォーリアは目を覚ました。
「……やっと起きた」
「…………ここは、どこだ」
目の前にアーデンがいることはすぐ理解したようだ。ムクリと起き上がり真っ白な部屋を見渡す。
「よく分からないけど、なんかしないと出られないんだってさ」
アーデンはため息をまたつくと看板の方へと指を指す。ウォーリアは指された方を見ると、しばらく黙った。
「出口はあるけど強い魔法がかかってて物理的には無理そう。何の目的でわざわざ俺たちをここに閉じ込めたんだか」
アーデンはおかしな様子に今更笑いが込み上げてくる。ウォーリアは目を細めて何か考えているようだ。
「でさ、ここから出るにはどっちかがどっちかにハグしないといけないんだってさ。君はどっちがいい? 」
アーデンの問いかけにウォーリアは困惑した表情を浮かべる。
アーデンはウォーリアに片思いをしている。なので、ハグをしようがされようがアーデンにとってはどちらでも嬉しい。だが、ウォーリアは恐らく自分を嫌っていると思っている。最初こそは敵意むき出しだった。それでも心の距離は取られていると感じている。アーデンは一応相手の判断に任せようと提案したのだ。
ここから出られないことも不便だし、彼には仲間という存在があるので心配しているだろうと焦ると思った。だが、返答は意外なものだった。
「……考えさせて欲しい」
「へ? 」
斜め上の返答に声が上ずり間抜けな声が思わず出てしまった。
「まあ嫌だよね、こんな男とハグなんて」
普通に考えればそうだ。男同士、自分はいいがウォーリアは異性が好みなんだろう。向こうの女神様に忠誠を誓っているくらいだし、とアーデンは苦笑いを浮かべ、背中を向ける。
静かで真っ白な世界の中にいるのも気が狂いそうだ。自分のためにも早く出たいが、向こうからの返答が一向にない。しばらくするとようやくウォーリアが動き出したかと思えば、カチャカチャと金属音が聞こえる。ん?と振り向くとウォーリアは背中を向けて鎧を脱いでいた。兜も取り、癖のついた銀髪がふわふわと舞う。アーデンは思わずギョッとその様子を見ていた。
「えっ……と? 」
ウォーリアくん? と呼びかける。上半身と腰周りの鎧が外れ、黒いスウェットと腰巻といういつもとは違う薄い装備は見慣れずアーデンはドギマギする。ウォーリアは振り向くと、少しだけ顔が赤い気がした。
「私はどちらでもいい」
「……というか、寒くないの? 」
アーデンはスカーフとコートを咄嗟に外すとウォーリアに掛けた。ウォーリアは咄嗟に受け取るのを断ろうとするも、コートごと前から抱きしめられる。
「…っ! 」
「このまま、我慢してて」
ウォーリアの顔は真っ赤に染まる。だが、アーデンは気付くことなく抱きしめる力を強める。お互いの匂いが鼻をくすぐる。心臓の音が聞こえる。そのくらい2人は密着している。ウォーリアは行き場を無くした手で拒むことはしなかった。
「あ、アーデン……その……」
「……ん? 」
「う、後ろからではないのか? 」
アーデンはウォーリアの言葉であ、と気付く。後ろからハグしないと条件は満たされないのだ。アーデンはそっと離すと顔を真っ赤にしているウォーリアに気付く。おや? と意外な反応に目を丸くした。アーデンはてっきり嫌われていると思っていたからだ。
だが、目の前の顔を真っ赤にしている男の反応はそうとは思えない。
「後ろから抱きしめるからさ、そのまましててよ」
アーデンはウォーリアを反対側に向かせると再度後ろから抱きしめる。ウォーリアは小さく返事するとそのままの体勢でいた。


──カチャと鍵の開く音が聞こえる。長いようで短い2時間だった。
「鍵、開いたね」
アーデンはウォーリアから離れ、扉に近づく。そしてドアノブがしっかりまわり扉が開くことを確認した。
「皆が心配している」
ウォーリアはどこか寂しそうに呟きながら鎧を再び装着していく。「俺は先に行くからね」とアーデンは背中を向けながら扉を先に抜けた。ウォーリアも少し遅れて扉を抜ける。すると異質な空間は幻のように消えた。


残り香は彼に纏う。あの2時間は少しだけ幸せな時間だったような気がした──。


「進展、やっとしたみたいね」
「全く無自覚も世話がやけること」
魔術師たちは木陰から見守りクスッと笑った。
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