何でって?そういうのが見えるのおれら3人くらいじゃん。
トド松、別にこれ怖くないから。とりあえず聞いて。
あれは確か高校時代だったかな――……。
そう、高校2、3年の頃。明確には覚えていないけどおれが猫の餌やりを日課にし始めた頃。
あの大きな交差点がある……そうそう、パチンコ屋通るところの。
そのビルの路地裏に猫の集会所があったんだ。
十四松は覚えてる?白くてふてぶてしい顔の……いかにもボス猫ってやつと、その横にピッタリとくっついてた黒いメス猫。そう、あの子はとびきりの美人だったねヒヒッ。
……そうそいつらが今回話す不思議体験の重要人物?……じゃなくて猫。
当時野球部だった十四松を夜遅くまで待って帰る途中に路地裏に寄って餌をやっていたんだ。
そのボス猫が一番先に食べてから残りはその黒猫含めた他のやつが食べる。
ボス猫は愛想悪く、食べたらすぐにどこかに行ってしまうが、その黒猫はお見送りとばかりにその交差点まで着いてきてくれた。
ニャー
ボス猫とは反対に愛想のいい黒猫は見送りの度におれらの方を見て「バイバイ」と言わんばかりにニャーと鳴くのだ。
「またね。」
「また明日!」
俺らを見送った後、いそいそと集会所へ戻っていく姿を何度も見た。
おれは何となく勘づいていた。
あの黒猫はボス猫の嫁なのだと。
ボス猫の2、3歩後ろをついていく姿はまるで昔の夫婦の様だった。
あんまり黒猫に構いすぎるとボス猫に無言で引っかかれるから擦り寄る黒猫に頭を撫でるくらいしかしなかった。
ある日悲劇は起こった。
朝、交差点の端(いつも黒猫が見送ってくれる場所)に黒い塊があった。
その美人な黒猫が無惨な姿で倒れていた。その近くのガードレールや電柱には窪みがあった。
後々知ったことだがその交差点には飲酒運転をした車がぶつかったらしい。それに黒猫も巻き込まれたようだ。
突然のことにおれは理解が追いつかず素手で黒猫を触ろうとしたのを十四松が止めてくれた。
「……兄さん、行こう。」
そう言ってくれた十四松の声もいつもより覇気のない震えた声だった。
帰りにいつもの集会所に寄るといつもは奥で寝ているはずのボス猫が出迎えていた。
ダミ声でニャーと鳴くボス猫に俺は思わず泣いた。動物の死というものはなかなか辛いもの。その時珍しくボス猫は泣き出したおれの足元に寄り添ってくれた。
そのボス猫もあの交差点で脇見運転の事故に巻き込まれて死んだ。
おれが轢かれそうになった時だ。
偶然、なのかは分からないがおれの身代わりになってくれた。
確かに後ろに襟を引っ張られた感覚はあった。
それと同時にあのふてぶてしい体でおれの前に飛び出した。
あまりの一瞬の出来事で記憶は定かではないけど。
でも嘘をつかない十四松が言ったのだ。
「猫の恩返しかもね。」
恩返しもクソもないとおもうけど。
だっておれは何もしていない。
だが確かに感じるのだ。
あの交差点の、黒猫が見送ってくれたあの場所にボス猫と黒猫が寄り添って見守っていることを。
ね?あんまり怖くなかったでしょ?
そうそう特にあそこを通る時には運転には気をつけた方がいいよ。
危険運転したら、おぞましい数の猫の集団がフロントに飛びかかってくるって。
一松でした。