ヤ・シュトラの一言にギクッと擬音をつけんばかりに体が固まるノア。
ソリューションナインの傍らにあるバックルームにて集った者でお茶を飲んでいた。久しぶりに会う面々もいる。そんな中、真っ先にヤ・シュトラがノアの変化に気づいたのだ。先日あった謎の空間に彼女の想い人であるハニー・Bと閉じ込められ、致し方ないことではあるが、流れで体を重ねたこと。それを思い出すとゆでダコのように真っ赤になった。
「最近お前ずっとアルカディアに入り浸っているもんな」
「ちょ、ラマチ……! 」
「体をなまらせない為にも戦闘するのはいいけれど、無理は禁物だよ」
意外と鈍感なアルフィノに自身の心配をされてホッと胸を撫で下ろしたノア。つかの間、彼女のことを尊敬している2人がさらに気づいた。
「ねえ、あなたリップ変えた? 」
「それに甘い匂い……これは」
「な、なななななんでもないよ、うん」
「本当に? 」
グ・ラハとアリゼーに気付かれさらに慌てるノアにトドメの一言をエレンヴィルが刺してくる。
「随分おたくも執着されているようで」
ふっと珍しく意地の悪い顔をしたかと思えば自分の首をトントンと指で指す。そういえば赤い跡が残っていたのを忘れていた。
「へ〜〜〜〜〜〜〜〜〜????」
アリゼーが詰め寄ってくる。ノアは恥ずかしさのあまりに横に座っていたクルルに抱きつき、泣き出してしまった。
「みんな、あんまりノアさんを虐めないであげて」
苦笑しつつも、よしよしと小さな手で撫でてくれる。
その場にグルージャも居たが、シェールが賢いからこそ逆に変なことを聞かせまいとばかりにグルージャの耳を塞いでいたのでグルージャはポカーンと様子を見ていたのは余談である。
「かの英雄に恋人が出来るなんて、とても素晴らしいことだと思うよ」
アルフィノがフォローしてるのかしてないのか分からない発言をする。
アリゼーは席に座り直し、紅茶をまた飲むと差し入れされていたお菓子をむしゃむしゃと食べる。
グ・ラハはノアが泣いてしまったことに罪悪感があったのか「すまない、そんなつもりは……」とオロオロしつつ謝罪する。
発端とトドメを刺した2人は悪びれる様子もなかったが。
ウクラマトは何が起きてるのか把握しきれていない様子だが、アルフィノの言葉を理解して「いい事じゃねえか! 」とニコニコしていた。
冷静さを取り戻したノアは「まだお付き合いしてないよ……」と衝撃の発言に場を凍らせた。
その場にいた全員が今度は固まる。グルージャに余計なことを聞かせまいと配慮していたシェールでさえその一言に唖然としていた。
「え? 私てっきり恋人が出来たのかと……」
「誰よ、どこの誰か言いなさい! 」
「あ、アリゼー落ち着いて。ここは冷静に」
「へえ、意外だな。おたくも変なやつに好かれて大変なこって」
「なるほどね……でもここで話すことでは無いけれど、私の目には変化が見られたからそうかと思っただけよ」
「まあでもどっちにしろお前を付き合ってないにしろ、好きなやつなんだろ? それは普通に気になるよな」
「あ、えっと……みんな、ビックリすると思うんだぁ……」
ノアは恥ずかしそうにしもじもじしながら呟く。
「大丈夫よ、私たちはあなたがどんな人を好きになろうと敵にはならないわ。純粋にノアさんが好きな人と幸せになれることを願っているの」
クルルの一言にノアはじわっと胸が熱くなり、口を開いた。アリゼーはどこか燃え尽きたようずるずると腰が下がっていくが。
「アルカディアの闘志でね、ハニー・Bっていう子なんだけど」
「ちょっと待ってください」
今まで見守るだけだったシェールが会話に入ってきた。全員シェールの方に振りむく。
「僕もノアさんの恋路を邪魔するつもりはないんですが、一応確認したいだけです。彼女、ハニー・Bって"劇毒の愛 ハニー・B・ラブリー"で間違いないですよね」
「うん」
「……魅了の魔法にかかっていませんか? 」
シェールのその確認にアリゼーが「アルフィノ!今すぐノアにエスナかけて! 」と急に胸ぐら掴んで脅しをかけたが、ノアは「それはないと思う。最初は私もなんだろうこの子、ぶりっ子じゃんって思ってたの」と話し出した。
初めて会った時、正直そこまでいい印象は抱かなかった。まあ敵だと認識していたのもあるかもしれないけれどね。
でも対戦しているうちに彼女の仮面が剥がれて、本性が出た時に「この人は可愛くあろうと努力してるすごい人なんだ」って気づいたら、私には出来ないことをしている人だな、すごいなってどこか憧れの気持ちが芽生えてて。
私のセコンドになってくれたヤーナっていう子が筋トレルームに連れていってくれた時にハニー・Bちゃんもそこにいて、本当は可愛い格好で居たかっただろうけど、汗を流して筋トレに励んでいる姿を見ちゃったらもう、応援したくなって。
気づいたら好きになってた。
あ、意外と世話焼きでね、私の唇が切れてたのを気づいて新品のリップクリームもくれたんだよ、良いやつだから高そうなのに、気を使ってくれるし、優しいんだよ。そういう所がすごく好き。
と、長々と惚気を垂れ流すノアの顔は幸せそうで「そんな顔初めて見た」とその場全員が思った。
一方、ヤ・シュトラは「彼女とは違うエーテルが混ざって見えてるって言おうとしたけど余計な事よね」とふふっと大人な対応でこれ以上は黙っていることにした。