※Lv100クエ後
※ヒカセンはひろし(でも不在)
━━━━━━━━━━━━━━━
月が静かな街を照らす時刻。トライヨラの片隅にあるワチュメキメキ繁華街。そこに店を構えているシューニェ、及び住み込みで働いているウヴロも住居スペースにて眠りについていた。
ウヴロは尿意を覚え、目を覚ました。そして眠気に襲われながらもふらふらとトイレに向かう。トイレを済まし、また寝床に戻ろうとしたその時だった。自分ではない影が視界の動いたのだ。ウヴロは眠い目を擦り、影の主を見た。それは雇い主であるシューニェであった。彼は店の外へと出かけて行った。夜中であるというのにどこに行くのやら。半分好奇心、半分彼への心配の気持ちを抱えて後を付いて行った。
足音をたてないよう、隠れながらついて行くとシューニェは砂浜まで歩いていた。ウヴロは不穏な気持ちを抱えながら見守っていると、シューニェは砂浜に腰を下ろし足を広げ、寛いでいた。
シューニェは何をするでもなくただトライヨラから見える月を眺めていた。やましい事など何も無いことに安心したウヴロは背後から近づく。
「シューニェ」
「うわぁ!? 」
さすがに暗い中、背後から声をかけられれば誰でもびっくりするだろ。いつもより大きな声で驚き勢いよく振り向く。そして声をかけた主がウヴロであることを確認するとホッと胸を撫で下ろしたかと思えば眉を下げて「明日も仕事ですよ、早く寝ないと……」と他人事のように言う。さすがのウヴロも「それはお前もだろう」と突っ込まれてしまった。
隣いいかと聞けばどうぞとあっさり返答を貰いウヴロもシューニェの隣に座りあぐらをかいた。
昼間は賑やかなトライヨラでもさすがに夜になれば静寂に包まれる。五感を刺激するのは月の光と波の音、そして本当に微かなどちらとも言えない呼吸の音だった。
夜の海も悪くないなと呟く。シューニェもそうですねと軽く返答するだけであった。それだけ短い会話が交わされるとすぐ沈黙が流れた。
しばらくして沈黙を破ったのはシューニェの方だった。
「……どうしようも無い気持ちなんです」
突然発された言葉にウヴロは動揺する。どうしようも無い、とは。主語がない言葉に"何に"や"何が"などと相手に聞く以前に考えを巡らせる。そんなウヴロを横目にシューニェは言葉を続けた。
「こんなに綺麗な星空の、ほんの一つの欠片が命を奪うなんて」
そういうことか、と納得した。
シューニェの里とは言えど小さいものであったが、そこに住んでいた家族を襲った隕石。旅に出て留守だったシューニェ以外全員亡くなっていたこと。たった一夜の出来事が彼を深い悲しみに追いやった。その真実を自分と、かの冒険者の協力で知り得、約50年かけてシューニェ自身薄々気づいていた真実にやっと向き合えたのだ。
「家族を奪った星が、こんなに目を奪われるほど綺麗で……」
星を見る彼の声は微かに震えていた。かける言葉が見つからなかった。慰めの言葉も励ましの言葉も今は彼にかけるべき言葉ではないとウヴロは考えた。
また波の音だけが聞こえていたが、しばらくして空気を重くしてしまったことに対し、シューニェは「すみません、忘れてください」とはぐらかした。が、ウヴロはシューニェを見てこう言った。
「お前が感じた事は何も悪いことでもないし、恥ずかしいものでもないと思う」
ウヴロの言葉に目を丸くする。シューニェを真っ直ぐ見ながら言葉を続けた。
「お前が家族を失った辛さとか悲しみとかそれも本当であるし、今こうやって星を見て綺麗だと思うことも何も悪いことじゃない」
「……そうですね」
シューニェは深い悲しみに溺れ、大事なことを忘れていたことを思い出したような気がした。
はっと思い出した顔でウヴロは何か取り出した。
「これ、あいつから」
懐から取り出したのは白い砂が入った砂時計だった。
「これは……砂時計でしょうか」
「この砂ってさ、月の砂らしい」
「月……? 」
冒険者から貰った砂時計について話を聞いた。彼は月まで自由に行き来が出来るらしい。彼いわく試作品だが、割と上手く出来たのでウヴロにと渡してきたのだ。
「月……ですか」
「すげえよな、あんな遠い月まで行き来出来るなんて」
シューニェはサラサラと落ちる月の砂時計を月にかざして見た。
照らした光に反射して白い砂に僅かに金色の光が纏っている。目を奪われるほど美しかった。
「気に入ったみたいだな」
「ええ」
「シューニェが貰ってくれ」
「でも、あなたにと渡されたのでは? 」
「俺じゃなくて、お前にってさ」
ウヴロは口角をあげた。なら遠慮なくとシューニェは大事にしまった。
そろそろ戻りましょうか、と立ち上がろうとするが、それを阻まれバランスを崩した。
「ウヴ、ロ……? 」
すっぽりと収まった温もりにシューニェは困惑の顔をうかべる。ウヴロに手を引っ張られ、彼の上に倒れたが今は抱きしめられている。
「……なぁ、シューニェ」
「はい……? 」
小さな声で名を呼ばれた。その声はいつもよりも深く、耳をくすぐる声だった。
「俺と家族になってほしい」
ウヴロの言葉に理解が追いつかなかった。家族になって欲しい、ウヴロと私が……?
抱きしめる力が強くなる。少し苦しい。
「ウヴロ……」
「分かってる。分かってるが、これ以上お前を放っておけない」
「苦しいです……」
シューニェの言葉にすまない!と抱きしめる手を離した。そして、慌てた様子で目線が泳いでいる。
「あっ、とその……だな……」
恥ずかしそうに頬をかき、言葉を濁す。シューニェは茶化すことなく真剣な眼差しでウヴロの言葉を待った。シューニェは分かっている。ウヴロは冗談でそんなことを言うわけが無い。年上だからと未だに失態を犯すと土下座しそうになるくらい真面目な青年だと。だから先程の言葉も彼なりの思いなのだろうと。
「なんつうか、俺はお前に世話になっている……」
「まあそうなりますね」
「その恩も返したい気持ちも確かにある」
「ふふ、とてもありがたいですよ。ですがすぐ素寒貧になるのは何故でしょうかね」
「う……っ」
何も言い返せないとばかりに頭を抱えている。が首を振って言葉を続ける。
「でもそれ以上にシューニェを1人にしておけない」
「……」
「1人を望む気持ちと、孤独とは違うと思ってる。俺も1人で旅をしてきたが、1人は寂しい」
「……はい」
「お前も1人で、寂しい気持ちを抱えながらその……頑張って……」
「……そうかもしれませんね」
「だから、俺と家族になってほしい」
ウヴロの手は緊張からかとても震えていた。シューニェは体勢を向き合うように座り直した。
「それは恋人になってほしい、ということでしょうか? 」
真正面から見ると、ウヴロの顔は真っ赤に染まっていた。白い肌だから尚更分かりやすい。ぷっと思わず噴き出してしまった。笑われたことにショックなのか、恥ずかしさなのか口をあわあわしながら何か言いたげに眉根を寄せていた。
「ウヴロ、ありがとうございます」
「じゃあ」
「ありがとうございます。ですが、お答えすることはできないです」
「……」
「あなたはまだ若い。だからこそ他の」
「俺は……俺はお前がいい」
困りました……と苦笑するシューニェ。
本当はウヴロの気持ちに答えたい。だが、未来ある若者が私などと共に生涯を過ごすことでいいのだろうかという気持ちもまたあった。だから断りを入れたつもりだと言うのに、真面目な人間は、珍しく食い下がってくる。
「本当に私でいいんですか」
「あぁ、シューニェがいい」
「あなたも物好きですね」
「……俺の気持ちに嘘偽りはない」
「そういう所が私も好きですよ」
「俺はシューニェの支えになりたい」
「……なら、1つお願いがあります」
今度はシューニェからウヴロに抱きついた。抱きつかれた瞬間、胸が高鳴った。震える手で抱きしめ返す。
「私を置いていかないでください」
ウヴロは強く、だが優しく抱きしめた。
「もちろん、俺は置いていかない」
その言葉にシューニェは幸せな顔を浮かべ、ウヴロの胸に埋めた。
この砂も空から落ちてきたものだろうか。
何万光年の旅を経てここにあるのだろうか。
ウヴロもシューニェも、互いに出会うための運命だったのだろうかと、温もりに目を閉じた。