以前ヤーナに「裏手の方は注意しな。変な輩ばっかいるから」と言われていたのをノアは痛みに耐えながら思い出した。
いつものようにハニー・Bに会いに行こうとすると数人の男に囲まれ、暴力を奮われた。左頬へのストーレートで口の中を切ってしまい、痛みに耐えていると手を捕まれ、性別の力の違いにより、呆気なく裏手に連れ込まれてしまう。
「てめえ生意気なんだよ、Bちゃんに手を出しやがって」
ノアは彼らの顔に見覚えがあった。ノアと同じくハニー・B・ラブリーを応援しているファンだ。力強く押し倒され、打ち付けられた痛みに耐えていると、普段着ているネオイシュガルディアン装備ではなく、ルーズストリート装備だったため、服を乱雑に脱がされた。
ノアは固まった。頭が回らない。自分の身に起きている事実を受け入れられないのだ。
普段戦闘で予期せぬことも瞬時に対応出来るというのに、さすがに自分の下半身を丸出しにされることは無い。恐怖が勝った。生憎武器もない。
「分からせてやらねえとなぁ?」
ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべる男たち。固まっているノアの両腕を横にいた男が縛り上げ、パイプに括り付けた。そして正面に立つ男がノアの下半身を触る。
「……っ!」
「おいおい、声も出せねえのかよ」
脚を広げられ、抵抗するまもなく痛みが走る。
気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い触らないで!
と、叫びたいのに声が出ない。喉から絞り出た声は痛みに耐える震えた声だった。
「まあどうせすぐ気持ちよくなってあんあん喘ぐさ」
脇腹にいた男がノアの上着をまくり上げ、胸を揉む。大きくはないが柔らかさに恍惚とした笑みを浮かべた。
歯をガチガチと鳴らし、恐怖と痛みに耐える。たすけて、と声を出したいのに怖くて詰まった声しか出せない。
敏感な突起を触られ、ノアは本能的に感じてしまう。じわりと愛液が溢れてきたのだろう。太い指で抜き差しされた秘部からジュポジュポと音がなる。
「感じてんじゃねえか」
気味の悪い笑いをだす男をノアは睨みつけた。秘部を触る男は自分のズボンをずらし、反り立ったものを取り出す。
「バッキバキじゃねえか」
仲間が笑う。男はノアの両足を持ち上げ、恥ずかしい部分を開放するように広げると宛てがい、中に挿入した。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
ノアは処女だった。ハニー・Bと交わった事実もあるが、中に挿入されたことは初めてであり、痛みに悶える。はぁと挿入した男は大きく息を吐いて痛みで締め付ける中を感じた。
仲間の男たちが「どうよ」と聞きながらノアの胸をひたすら触っていた。「これはいいな」などと恍惚とした顔で腰を動かす。血が出たであろう。愛液とは違う生ぬるい液がより滑りを良くさせる。
「ん?こいつ処女か? 」
ノアは痛みに悶えていた。痛い、とやっと声が出るようになった。男は反応を見るなり鼻で笑い、ノアの、腰を掴んで卑猥な音を立てて腰をうちつける。
「っ、いた、い、からはなせ……っ! 」
「生意気なんだよてめえ」
カシャと光と同時に音がする。ノアはハッと音のする方へ顔を向けると、写真を撮られていた。それに気づくと青ざめる。
「や、やめ……」
「これは上等だな。挑戦者の無様な格好をみんなに知らしめてやらねえとな」
男たちは笑う。ノアはもう殺してくれと涙を流した。情けない姿を想い人であるハニー・Bに見られたくない。知られたくない、嫌われるなら死にたい気持ちでいっぱいだった。
もう、いいや……と脱力し、抵抗をやめた、その時だった。
「おい、てめえら何してやがる」
男の背後からドスの効いた声が聞こえる。その声は聞き覚えがあった。へっ……とその場にいた全員が情けない声で声の主の方へ向くなり顔を真っ青にする。
「ぶ、ぶ、ブルートボンバー!!??」
「……おい、そいつは」
「ひ、ひぃぃぃさーせん!許してくだせぇぇぇ!!」
背後の主がライトヘビー級闘士のブルートボンバーだと気付くなりノアから離れ、逃げていった。
ノアは唖然としていた。ブルートボンバーはほぼ裸であるノアを見るなり一瞬動揺したが、自分の着ていた上着を被せ、拘束されていた両手を解放する。そして上体を起こした。
「……あ、」
「大丈夫か」
正直大丈夫ではない。が、リング上での雰囲気とは全く違う話し方に違和感しかない。
「立て……そうにねぇな、お前あれか。ハニー・Bの……」
「Bちゃんには言わないでっ」
急に大声が出てノア自身もブルートボンバーも驚いていた。しばらく固まっていたブルートボンバーも「分かったけどよ、さすがにこのまんまって訳にはいかねえだろ」と頭をかいた。
「……言わないで、お願い」
「言うわけねえだろ。リング上での試合とプライベートはちげぇんだ。ましてやこんな理不尽な扱いされてよぉ……」
ブルートボンバーは以外にも冷静で常識のある人だった。やはりあのヒール(悪役)気質なのはリング上のみか。
ノアは一気に緊張の糸が解れ、泣き出した。泣かれて焦るブルートボンバーもオロオロとする。「連れてくからよ……どこに行きゃあいいんだ」
「……ヤーナのとこ……せめて」
「ヤーナ……? あぁ、もしかしてブラックキャットか」
そうだ、彼らは基本的にリング名で呼びあっているため、本名を出されて困惑したのだろう。ノアは脱がされたズボンと下着を手に取ると同時にブルートボンバーに姫抱きされた。下半身は彼の上着で隠されているので大丈夫だろう。
なるべく人目につかないルートで行く。と声をかければノアは小さく「ありがとう」と呟いた。
どうにか切り抜け、ヤーナがいるであろうトレーニングルームにたどり着く。ハニー・Bは運良くいなかったが、ノアを抱えたブルートボンバーの姿にヤーナは酷く驚いた。
「ノア!?それにお前……」
「説明は後でするからこいつをシャワールームに連れてけ」
とヤーナに声掛けすると、「歩けるか?」とノアに声をかける。うん、もう大丈夫と頷いたため、腕から下ろされる。
ヤーナは目を丸くした。ノアはズボンを履いていない。両手に持っており、もう片方にはブルートボンバーが着ていた上着を持っていた。さらに驚いたのは白い足から垂れる血だった。
「どういう事だ……っ! 」
「俺様じゃねえよ、こいつが襲わてるとこに遭遇しちまっただけだ! 」
「上着、洗って返すね……。ヤーナ、大丈夫。ボンバーさんは助けてくれた人だから」
「……分かった。あとで詳しく聞かせろよ」
とまだ震える足でよたよたと歩くノアを支えるヤーナ。シャワー室へ消えていくのを見送ると背後から殺意を感知し、ゾッと震えた。
「……お前」
「あれはどういうことかしら」
背後から聞こえた低い女の声。明らかに怒りを含んだ声はこの世のものとは思えないほど殺意に満ちていた。
※
ヤーナに手伝ってもらい、シャワーを浴びたノアはやっと落ち着いた。だが、触られた感触は拭えず、未だに張り付いているような感覚だった。
「大丈夫……じゃねえよな」
「……大丈夫、私の不注意だったから」
いつも元気なノアの声に張りがなかった。ヤーナはそれをとても悲しく思った。それと同時にノアに酷い目に合わせた輩を許せずに拳を握る。
「ノア、私のベッド使っていいからゆっくり休みな」
「でも……」
「いいんだ!ちゃんと毎日洗濯してるから綺麗だしな」
ヤーナもヤーナなりに、気を使ってくれているのだろう。ノアは言葉に甘えることにし、ヤーナのベッドに横になった。疲れからか、睡魔はすぐに襲って来て、眠りに落ちた。
一方、ノアを襲った男たちは震えながら隠れていた。また写真をどうするかも話していた。
「ブルートボンバーに見られちまった……」
「もしかしたらチクられるかもしんねぇ」
「こんばんはお兄さんたち」
震えた声の中、高い少女の声が聞こえる。へっと振り向くとそこには彼らが応援しているハニー・Bの姿があった。
「び、Bちゃん!? 」
「Bちゃんこんなところ危ないから帰った方がいいよ」
彼らは憧れである彼女の姿を見るなり目をハートにして近寄る。が、ハニー・Bの目は笑っていなかった。
「なんかね、ヘイザ・アロ族の女の子を襲った男3人がいるって聞いたんだけど〜知らない? 」
「し、ししししし知らないよなあ? 」
「おう、知らない知らない」
男たちは明らかに動揺していた。ハニー・Bはそれをニコニコと笑って見つめる。
「ふーん? じゃあその手に持ってる写真はなぁに? 」
あざとい声で現像された写真をひらりと奪い取った。手に取った写真の裸の少女は確かにノアだった。
「そ、それは誤解だよ!」
「ご、か、い? これが? 」
震える男たちの目の前でビリビリに小さく破り捨てる。そして怒りの頂点に達したハニー・Bの笑顔がすんっと真顔に変貌するとドスの効いた声でこう言った。
「てめえら全員ぶっ殺す」
※
悪夢を見たノアは冷や汗をかき、眉間にシワを寄せながら目を開いた。見慣れない天井にここはどこと頭をまわす。そうだった、私ヤーナのベッドで……と記憶を辿ると右手に触れているものを感知し、見ると、ハニー・Bが膝立ちでベッドに顔を埋め、ノアの手を握りながら寝落ちしていた。すやすや眠る想い人に愛おしさが増したが、一睡する前の出来事をふと思い出した瞬間、握られていた手を瞬時に離した。ドッドッと心臓の脈打つ感覚が酷く感じた。青ざめた顔で握られていた右手を隠すように技師である左手で握る。
──そうだ、逃げなければ
無意識にそう思ったノアはベッドから静かにゆっくりとハニー・Bを起こさないように慎重になりながら離れようとしたが、随分長い間寝ていたのか、足が痛みそれで声が漏れ出た。
「ん……」と小さく声を出して、ハニー・Bは起きた。ノアは完全に逃げ腰でそろりそろりとどうにか部屋から脱出しようとする。しかし、ハニー・Bに見つかった以上「どこに行くの」と声を掛けられればびくっとしっぽを立てて震える。
「ノア」
ダラダラと流れる汗。ドアノブに手を伸ばそうとするが、背後から近づいた手に握られ制止される。
「ノア」
再び名を呼ばれる。今は会いたくない気持ちでいっぱいだった。あのことを知られたら嫌われてしまう。そう直感的に思ったノアは必死に抵抗した。まさか抵抗されるとは思わず、握る手に力が籠るハニー・B。
「ちょっと、ノア! 」
「やだっ! 」
まさかやだと言われるとは思わずフリーズしてしまった。ほんの少し力が緩んだ隙に振り払い、逃げようとするが足が絡まり派手に転んだ。ハッと転んだノアを心配するように駆け寄り、揺さぶる。
「ノア、大丈夫!? 」
「やだっ」
「ちょっ……」
「お願い……っ」
やだとまた言われ2回目はさすがに効かなかったが、泣き出されハニー・Bは戸惑うが、すぐに頭を撫でた。
「ノア」
今度は優しい声で名前を呼ぶ。大丈夫、と続けて言えば嗚咽を漏らして大声で泣いた。
「大丈夫、大丈夫よ。どうせ嫌われるとか考えてるんでしょうけど、そんな理由で嫌いにならないわよ」
床に突っ伏して泣いているノアの体を起こして座らせる。涙でぐちゃぐちゃになったノアの顔を見るなりハニー・Bは優しく抱きしめた。
「ノア……」
「びぃ……ちゃ……」
「私の事嫌いになった? 」
ハニー・Bの問いかけにブンブンと首を振る。「そんなことあるわけない」と涙声で答える。ふふ、ブサイクな顔とハニー・Bは笑う。ノアは鼻を啜り、「ひどい……」と一言漏らした。
「きらいにならないで」とついでに漏らせば、「何よ、何で嫌いになるのよ」とぷんぷんと拗ねて見せた。
「だって……わたし……」
「あまりにうるさいお口は塞いぐわよ」
ふふっと笑うなりノアの唇に触れた。同じリップクリームを塗っているため、甘い蜂蜜の香りが漂う。ノアは泣きすぎて鼻が詰まっているが。唇同士が離れるとハニー・Bは今度は額同士を引っつける。
「嫌われたとか汚いとか考えないの。私嫌いになったらこんなに世話焼かないわよ」
ノアは、安心した。嫌われていない。その事実だけが何よりも嬉しかった。
ズビズビに鼻をすするもので、ハニー・Bはヤーナの私物のティッシュを勝手に持ち出し、ノアに鼻をかませた。
「本当は上書きしたいんだけれど……部屋が部屋だしねぇ」
ん〜とあざとく考えてみせる。チラリとノアの方を見るなり、いい事思いついたと悪い笑みを浮かべれば床に座ってるノアの前にしゃがみこみ、顔を寄せたかと思えば、首筋に舌を這わせ、「いっ!? 」ガブリと強く噛みつき、強く吸った。赤く咲いた花は白い肌にとても映える。しかも今度は見えるところに、だ。
「とりあえず、これでね」
満足気な笑みにノアは顔を真っ赤にした。ノアはハニー・Bによって立ち上がり、手をがっしり握られヤーナの部屋から連れ出されたのであった。
都市内モニターに緊急速報が入った。
──次のニュースです。昨日より男性3人の行方が分からなくなっています。現場には3つのレギュレーターだけが残されており……──