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ハウリングブレード(NPC)/アルコンエッグパラソル
「傘? 」
とある日のソリューション9。生身の挑戦者ことミナトに呼び出されたハウリングブレードは彼女に差し出されたもの──黄色い可愛らしい傘を受け取った。
「うん、イベントで貰ったの。良かったら使って」
「ありがとう、でも知ってるかと思うけれど生憎ここは雨は降らないんだ」
「うん、でも何となくあなたにあげたいと思ったから」
目の前のヒューネ族の女は微笑んだ。それを見るなりハウリングブレード──否、レザラは素直に受け取った。自分を救ってくれた恩師でもある彼女の好意を無下にはしたくないのもあったからだろう。
「あ、レザラくんあのね」
ミナトはこっちこっちと手招きする。
レザラは首を傾げながら近づくと、耳を近づけてと指示され言われた通りに少し屈む。
するとミナトは小声でレザラに何か囁いた。
その内容を聞いたレザラは耳としっぽをピコン!と音がするくらい跳ね、顔を赤くする。恥ずかしそうに苦笑するレザラとニコニコと微笑むミナトの2人はお互いを見て笑いあった。
「……全く、キミには敵わないな」
と一言零す。ふふと笑うミナトは「じゃあ頑張ってね」と別れを告げ、去っていった。
──数日後、ユトロープがアルカディアに帰還していることを知ったレザラは恐る恐るユトロープに連絡を入れる。何度かコール音が鳴ったあと、ユトロープは出た。普段通りの挨拶を少し交わす。恋人の声を聞くのも久々で少し緊張していたが、後日直接会って話がしたい旨を伝えると向こうも会いたいと願っており、それを伝えてくれたことに胸を撫で下ろした。
約束の日当日、アルカディア・ソサエティの噴水広場でユトロープと待ち合わせの約束をしていたレザラは約束の30分前に到着し、どこか落ち着かない様子で辺りを彷徨いていた。
そして10分前に現れたユトロープの姿を見るなり嬉しさと緊張で鼓動が止まらない。レザラは一度呼吸を整え、顔を上げると歩き出した。
「……久しぶり、ユトロープ」
絞り出した声は緊張で少し震えていたかもしれない。思った以上に小さい声だったがしっかり耳に届いたようで、名を呼ばれたユトロープはこちらに振り向く。少し驚いた表情を浮かべたのもつかの間、直ぐに口角を上げた。
「レザラ……」
対面する恋人に両者とも愛しさで胸が満たされた。ユトロープからレザラに近づき、公衆の面前ということも忘れ、2人は抱きしめあった。辺りに人がいなかったのは幸いな話だ。
しばらくハグをした後、照れた2人は笑い合う。
そしてレザラからユトロープの手を指を絡めて握った。
しばらくベンチに座り、会えなかった間の話をする。すれ違ったことは互いの幸せの為を思っての行動だということを再認識し、仲直りをする。
「ごめんなさい」
「ボクもごめん」
謝罪を述べ互いを許した。そしてユトロープは気づく。
「レザラ、あなたのそれ」
「ん? あぁ、これはあの人から貰ったんだ」
あの人……生身の挑戦者であるミナトの事だろう。その事を理解した瞬間、モヤッとした気持ちがユトロープの中に芽生えた。
「勘違いしないで欲しいんだ、彼女には指輪を交換した相手がいるから」
「そう……」
それなら少し安心したと眉間にシワが寄っていたが、すぐにほぐれた。レザラは誤解を招く発言をしてしまったことに反省しつつ、何かを思い出したように明るい声で発する。
「ユトロープ、付き合って欲しいことがあるんだ」
レザラのこんなテンションの高い声を聞いたのはもしかしたら初めてかもしれない。いつもクールで落ち着いた彼が珍しく子供のようにはしゃいでいる。見たことの無い一面を見れてユトロープは嬉しくなる。
「あそこの中を傘をさして2人で歩こう」
そう指を指した先にあるのはアーチ状の噴水だった。
ユトロープの手を引連れて歩き出すレザラ。珍しく積極的なとても彼に驚いていた。
すぐ目の前にあるアーチ状の噴水は膝まで濡れるが、レザラは気にする様子もなく入っていく。ユトロープは少し抵抗がありつつもレザラに着いていった。
レザラは傘をさし、ユトロープを中に入れる。傘自体が小さい為かなりくっつかないと濡れてしまう。いつも以上に密着していることにユトロープは鼓動が早まった。
「……どうしたのレザラ」
あなたらしくない、と言いたげに見上げる。が、表情そのものはいつもの知っている彼だった。
「……ここってさ、雨が降らないよね」
そうね、と今更何をと言いたげな口調で呟く。
10年以上この街に居るのに、と言いたげなユトロープは彼の真剣な顔を見つめる。
「……あの人が教えてくれたんだけどさ」
レザラの口からまた彼女をさす言葉が出たが今度は何も思わなかった。
「今こうして2人で傘に入ってることを相合傘って言うらしいんだけど」
──相合傘をした2人は幸せになれるんだって
レザラは微笑みながらこちらを向く。しばらく2人は目を合わせていた。
「……そう、なのね」
ユトロープが先に顔を背ける。目頭が熱くなったのを誤魔化すように。
2人はしばらく傘に降り注ぐ水音を聞きながら互いの熱を匂いを感じていた。