ソリューション9の一角にあるモザイクコーヒー。そこに立ち寄っていたヴィーゼは背後から声をかけられた。
「……?? 」
ヴィーゼは軽く挨拶する背の高い男に見覚えが無かった。真っ白なフード付きパーカーに白いラインが入ったズボン。全身隈なく見渡し、フードの隙間から見える派手な黄緑色の髪でようやく分かった。
彼は以前アルカディアで対戦した相手、ダンシング・グリーンであるということを。
名前を呼ぼうとしたが、しーっと指を唇に添えられ制止される。そして小声で「今はオフなんだ」と話し、ぱちっとウインクする。
状況を理解したヴィーゼは自身の指に触れている指に意識が集中する。そしてだんだんと真っ赤に染まっていった。
「アンタは暇か? 」
「う、うん……」
鼓動が早まる。ダンシング・グリーンは平然とした様子でコーヒーを頼む。ヴィーゼも甘いアイスラテを頼んでいた。
「2人で話したい気分なんだ」
ヴィーゼはまあ今は何も依頼もないからいいか、とダンシング・グリーンに付き合うことにした。
モザイクコーヒーから離れ、人気の無いところに移動する。甘いラテをちびちびと飲む。隣からふんわりとコーヒーの香りと、彼のつけている香水の香りが漂ってきた。
いつもの姿──ダンシング・グリーンとしての派手な衣装とは裏腹に今は落ち着いた格好で、どの角度で見ても様になっている。
何よりサングラスをかけていないことが新鮮に思えた。
「ん、どうした? 」
「あ、いや、別に……」
ギャップというのだろうか。いつものパリピ振りとは真逆の落ち着いた雰囲気と彼自身から漂う色気というものに頭が追いつかなかった。
「そういや」「あの」
2人同時に話出そうとする。そしてお互い見合わせて譲り合ったが、折れたのはヴィーゼの方だった。
「最近、大丈夫? 」
「何がだ? 」
「その……闘士を辞めて、上手くいってるのかなって」
心配になっていたというのは嘘では無い。それは同じくシュガーライオットも同じだ。ハニー・Bに関してはよく彼女が映る広告を見ているので、彼女の人気ぶりに安心している。
久々に会ったからこそ心配な点ではあったのだが、それをよそにダンシング・グリーンは鼻で笑った。
「まあ"ダンシング・グリーン"っつう闘士は引退したけどよ、前にも言ったが、一応他にもオレの居場所はあるんだ。前ほど忙しい訳じゃないけどよ、それなりに仕事もあるしな」
「……なら良かった」
生きる為に闘士を辞める選択をしてくれたことに何より安心した。そして、それを聞けて満足したヴィーゼは「あなたは? 」と聞き返す。
ん?とダンシング・グリーンは指摘され、数秒考えた後「あー…」と思い出したように呟く。
「その格好も可愛いなって」
「へ」
可愛いと言われ、声が裏返る。今日のヴィーゼの格好はネオンストリートジャケットにミニスカート、ディアンドルパンプスという可愛らしい格好だった。
「あ、ありがとう……」
完全にオフの格好だった為、たまにはミニスカートもいいかと思い履いてきた。まさか真正面から褒められるとは思わず真っ赤に染まる。
「……なぁ、ヴィー……」
「そこにいたのか」
照れ隠しで顔を下に向けていると、聞き馴染みのある声が聞こえ、思わず顔をあげる。
そこにはエレンヴィルが立っていた。
「え、エレンヴィル……」
「そっちは? 」
エレンヴィルはダンシング・グリーンの方を見やると目を細めて警戒を露わにする。
だがダンシング・グリーンは察すると余裕の笑みを浮かべ、ヴィーゼの肩を抱き寄せる。
「初めまして、ヴィーゼの彼氏でーす」
「えっ!? 」
ダンシング・グリーンの言葉に思わず大声をあげた。するとエレンヴィルはあからさまに不機嫌を顔に表した。
「ちょ、冗談はやめてよっ」
「ごめんごめん、オレらそのくらい仲良いからさ」
ケラケラと笑い、肩を抱き寄せた手を離す。そしてエレンヴィルの様子を伺い、煽るように笑みを浮かべる。
「そりゃ大層仲がいいことで。だがそちらの英雄様は独り占め出来るような存在じゃないんだがな」
「ふーん……」
2人は火花を散らすように睨み合った。間に挟まれたヴィーゼは慌てる。
「え、エレンヴィル、何か用があったの? 」
「いや、別……にっ!? 」
「へ? 」
エレンヴィルは名を呼ばれ、一瞬視線をヴィーゼに移したその瞬間、ダンシング・グリーンはヴィーゼの持っていた甘いラテのストローに口をつけ、一口飲んだ。
「甘……」
ペロッと人より長い(恐らくトードの魂を取り込んだ副作用だろう)舌で唇をなめずると「んじゃごちそーさん」と嬉しそうに立ち去っていった。
嵐が去ったように2人は呆然とダンシング・グリーンの背中を見送った。
しばらく固まっていたエレンヴィルがハッと我に返り、ヴィーゼの持っていたラテを手に取った。
「ちょっ、エレンヴィル!? 」
「捨てる一択だっ!」
普段冷静なエレンヴィルが珍しく怒りMAXの模様様。ヴィーゼは「エレンヴィル落ち着いて〜! 」と彼に抱き着くが、仮にも男性の力に勝てる訳もなく、エレンヴィルに抱きついたままずるずると引きづられていくのを人に見られていたという。