言葉の代わりの花を/光♂×サンソン(+ギドゥロ)

──好きだ

という気持ちはすでに溢れているのだが、それを伝えるのは間違いだろう。
そよ風が吹き抜ける晴天のグリダニア新市街。彼の癖と言ってもいいほど熱心にサンソン大牙士はメモをとっていた。戦歌隊として活動が安定し、上層部にも活躍をやっと認められ、尚の事忙しいのだろう。仕事真面目なサンソンは常に何かしらメモをとっている気がする。
赤髪のヴィエラ族の男──かの英雄と呼ばれた冒険者はその様子を真隣から眺めていた。
今日は双蛇党の帽子を被っておらず、彼の濡羽色の髪がよく見える。メモをとるその横顔から見える深海の様な深い青の瞳、黒く長いまつ毛、綺麗な鼻筋。整った顔立ちに冒険者は見惚れていたのだ。
懸命にメモをとるサンソンをずっと見つめているとさすがにその視線に気付かれた。そしてこちらを向き、困ったように笑う。
「……あまり見られていると穴が空いてしまいます」
「すまない」と謝るが、本人にとって悪気は無かった。苦笑するサンソンに思わず釣られて笑みをこぼす。
「邪魔をするつもりはなかったんだけれどね」
「あなたも物好きですよね、野郎の顔を見ても何も得をしないというのに」
「それは……」
サンソンの一言に言い返そうとしたが、口を噤んだ。これ以上は言わなくても良いだろうそう判断し、黙り込んだ冒険者の様子に気付くと、具合でも悪いのかと顔を覗き込む。
「どうかされましたか? 」
「いや、なんでもないよ」
大丈夫と一言告げればサンソンも安心したようだ。
「邪魔しちゃ悪いからそろそろお暇するね」
と手をヒラヒラさせて冒険者はサンソンの元を立ち去ろうとするがサンソンに引き止められ踵を返す。
「あ、すみません」
「ん? 」
「ギドゥロ見かけたらここに来るように言って貰えますか」
「……分かった」
少し返事を躊躇ったが、冒険者はにこっと笑って良い返答をする。胸がキュッと締め付けられる痛みをわざと見逃して。

「だってよ、ギドゥロさん」
「は? 」
東部森林の木の上で優雅に寝ていたギドゥロに声をかける冒険者。夢現、微睡んでいたギドゥロは急に声をかけられビクッと体を震わせる。
冒険も太く強い木の上に軽々と上り、ギドゥロとは反対側の枝に腰掛けた。
「サンソン隊長がお呼びってこと」
「あー、そういうの知らね」
サンソンの名前を出した瞬間嫌そうな顔をする。そして拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
「君はなんで戦歌隊に入ったんだい」
冒険者はクスクスと笑う。それに対しギドゥロは「さぁな」と適当な返事をする。
神勇隊の問題児、ギドゥロ・ティルドネ。サンソンの戦歌を求める旅に連れ立った同行者。真面目な彼と自由を愛する不真面目な彼とは反りが合わなかったが、いつしか和解していた。お互いのことを理解するほどに。
その仲を取り持ったのは自分だと言うのに、サンソンがいつも口にするのはギドゥロの事ばかりだった。きっと自分のことに興味が無いのだろう。
「お前はよ」
黙り込んだ冒険者にギドゥロは問いかける。
「サンソンのこと好きなんだろ」
冒険者はその言葉にうんともすんとも言わなかった。ただ、眉を下げて笑いかけた。
「……ギドゥロ」
「……なんだ」
「ヴィエラ族って、何年生きると思う? 」
逆に質問を投げかけられ、ギドゥロは思わず「は?」と言葉に出した。急な質問に「普通に100年とかじゃねえのかよ」と答える。その答えに冒険者は首を振った。
「300年くらいなんだ」
「……」
「僕が200歳くらいになった頃には君もサンソンもきっと居ないだろう。いや、彼は命知らずだからもっと早くいなくなるかもしれない。親しい仲間を見送るのは辛い、いつだってそうだった」
冒険者は胸に手を当て、思いを馳せる。ギドゥロの知らない誰かを見送ってきたのだろう。
「だから、この気持ちに名前は付けないことにしているんだ」
すまない、返答が出来なくてとまた悲しそうに笑うのであった。だが、それをただ黙って聞いているギドゥロでは無かった。
「……それで後悔しねえのか」
「……分からない。ただ、失うのが怖いから」
「言うくらいならいいんじゃねえのかよ」
えっ、とキョトンとギドゥロを見つめる。
「思いを伝えるには言葉だけじゃない、贈り物とか詩とか、色々方法はあるだろ」
それにお前いつも苦しそうな顔してるよなと指摘され、苦笑する。
「サンソンと付き合いたいとかねえよかよ」
「……僕は僕が勝手に好きだから、彼の幸せを何より願っているだけで」
「ならよ、尚更好きって伝えていいんじゃねえのか」
「……でも」
「あいつかなりの鈍感だから何とも思わねえと思うけどな」
「……」
「……言わない後悔より言って後悔した方がいいだろ? 」
ギドゥロはよっと木の上から降り、綺麗に着地する。
「詩なら今度教えてやるからよ」
と下から叫ぶと珍しくグリダニアの方へ戻って行った。1人残された冒険者は考えた。

そうか……恋人関係にならなくてもいいのか

冒険者はずっと恋人関係になった後の事ばかり考えていた。種族による寿命差を何よりも考えてしまっていた。だがギドゥロの言う通りサンソンは真面目すぎるが故の鈍感でもある。
一方的に好きなら、想いを伝えるだけなら許されるだろうかと考えを改めることにした。

次の日から冒険者はサンソンの元へ訪れると花を一輪渡していった。ギドゥロのアドバイス通り、言葉ではなく物を贈ることで好意を伝える。
「……ありがとう、ございます? 」
サンソンは毎回受け取る度に「何故俺に?」と首を傾げていた。
最近真面目にサンソンと働いている(というか冒険者の様子が気になってそばに居る)ギドゥロはその様子を遠目から見て「まじか……」と冒険者の素直さと天然な所に笑いを必死に堪えていたのであった。
book / home