ライトヘビー級王者となったノアはヤーナから次はクルーザー級への挑戦になる、と説明を受けた。
「で、問題が1つあるんだけど……」と頭を抱えるヤーナにノアは首を傾げる。「うーん」と唸るヤーナを横目に彼女の妹であり、サポートしてくれているネユニが口を開く。
「ノアさんって、ハニー・Bさんとお付き合いしているんですよね」
「……えっ、うーん……」
正確にはお付き合いしているとは言えない。なぜなら彼女はアイドル、みんなのハニー・B・ラブリーだからということと、好きだとはお互い認知しているがそれが交際ということになるのか分からないからだ。
「こんなにでっかい蜂刺されしてて、Bセンパイはまだ告ってないのかよ……」
「!? 」
ヤーナは自分の首を指さしした。ノアは首にキスマークが残されていたことを思い出し即座に隠すと真っ赤になる。ヤーナは「大丈夫、今は見えてないから」と笑う。その事に安心すると、何が問題なの?と2人に問いかける。
「実は、クルーザー級の1人がハニー・Bさんに言い寄っているんです」
「えっ」
「ダンシング・グリーンつってな、チャラいシャトナ族なんだよ」
まあBセンパイは毛嫌いしているみたいだけどね、と追加する。
「……ライバル? 」
「うーん正確には違いますけど、ノアさん個人としては厄介な相手かもしれません」
「まあノアは強いからコテンパンに叩きのめせばいいさ! 」
拳を突き出して励まされる。
「そうです、ダンシング・グリーンさんは戦うことよりもダンスの方が好きみたいなので、ノアさんが思ってるほど強敵では無いと思います」
ネユニが微笑みかけ、それに自信を持てた。
「やっほー」
噂をすれば明るい声が部屋に舞い込む。ハニー・Bが入室してきた。3人はタイミングの良さに驚く。その様子を見てハニー・Bは不機嫌をあらわす。
「なーに? 3人で良くない話でもしてた訳? 」
ぷんすこ、と頬を膨らませ腕を組む。ヤーナは「違うんだ」と慌てる。「ダンシング・グリーンの話をしててだな」と話題に出した瞬間、ハニー・Bは眉間にシワを寄せる。
「なに、アイツの話? 」
「今もハニー・Bさんに言い寄っているんですよね」
「そう! しつこいのアイツ。オレと踊らない?って!こちとら仕事で忙しいっての! 」
はぁと頭を抱えるハニー・Bにノアは「私がボッコボコにするからね」と力こぶを作って見せた。
その様子にハニー・Bは「何それ」ふふと笑う。が本人は真剣だったようで、笑われたことにショックを受ける。だがハニー・Bが笑ってくれたことについては嬉しかったようだ。
「ところで、何か用があったんじゃないですか? 」とネユニが問いかける。ハニー・Bは「ううん、暇が出来たから遊びに来ただけ」と一言。ノアは恐る恐る問いかける。「Bちゃんいつまで時間空いてるの? 」と。
多忙なことはわかっているが、それでも好きな人と一緒にいたい気持ちはあった。少しでも長くいたい。そう思っていたノアにハニー・Bは微笑みかけ、「明日まで休み貰えたからどこか行く? 」と誘ってくれたのだ。
ノアの顔が晴れる。それを見たヤーナとネユニも自分の事のように喜び「あ、私試合入ったから」「じゃあ私もお暇しますね」とさそくさと出ていってしまった。
ハニー・Bとノア、2人だけ残され、お互い顔を見合った。
「呆れた、もうちょっと空気の読み方って無いのかしら」
ハニー・Bが苦笑すると、ノアはおずおずとハニー・Bの手を握る。
「嬉しい……」
恥ずかしそうに、だが嬉しそうに笑うノアに「可愛いなぁ」と心の中で呟いた。
「ノア」
「ん?」
「アタシんち、泊まる? 」
急に寄ってきたかと思えばそんな一言を囁かれる。
「ふぇ!? 」
「なーんてね☆」
てへぺろと言わんばかりに舌を出すハニー・Bに顔を真っ赤にしたノアは怒る。
「冗談言わないでよ! 」
「冗談じゃない方が良かった? 」
「そ、……そうじゃないけど」
ハニー・Bはノアをからかうのが楽しくて仕方なかった。表情がコロコロ変わる彼女が好きだから。
「なら今回はお泊まりなし、明日待ち合わせしよ」
ハニー・Bの提案にそれならと承諾するノアであった。

が、バックルームに戻ってきたノアはずっと考えていた。それを見かねたクルルが声をかけてくる。
「ずっと何か考えているみたいだけれど、どうしたの? 」
「クルルさん……」
ノアはハニー・Bとの件について話した。明日デートだが、向こうからお泊まりの事も提案されたこと。だが、自分が渋ってしまって、忙しい彼女と一緒に過ごせる時間を短くしてしまった事に対して後悔していることを。
それを聞いたクルルは少し悩んだが、慰めの言葉をかける。
「大丈夫よ、きっと向こうも分かってくれるはず」
「そうかな……」
「会えない時間がある方がお互いのことを考えられて、より親密になれるのよ」
クルルは続ける。
「ハニー・Bさんも本当は緊張しているかもしれないし……それにノアさんが"今回は"断ったかもしれないけれど、"また今度"って言ってくれたならいつでもチャンスはあると思うの」
「……うん」
「ノアさんのことがすごく好きなことは聞いてて伝わってくるわ」
「そう、ならいいんだけれど」
クルルの言葉を聞いて少し安心したようだ。ありがとうクルルさんとお礼を申すと「いいのよ」と軽く返事してくれた。
緊張しすぎて寝不足にならないようにね、とまで釘を刺された。
お見通しなんだなぁ、と思わず苦笑が出てしまった。

次の日、ノアはいそいそと出かける支度をする。
ヒップストリートジャケットにアイルファーマー・カットオフボトムで爽やかに決める。靴はカジュアルシューズだ。普段は化粧をあまりしないが、今日はほんのり色付ける。もちろん、リップクリームは以前ハニー・Bに貰ったやつを塗って。荷物を手に取り、ソリューション9に向かう。待ち合わせ場所はモザイクコーヒーだ。
焦りすぎて何度か躓きながらもたどり着く。
約束の30分前に到着し、キョロキョロと辺りを見回す。特に見当たらない。
とりあえず座って待とうと、モザイクコーヒー内にある空いている席を探そうとした瞬間、喧嘩している声が聞こえた。
声のする方へ視線を向けると、そこには背の高い男性と怒りを顕にする女─2人ともフードを被っている─の姿があった。女は手を振ってまで拒否している様子だ。ノアはこれはいけないとばかりに仲介に入ろうとした。
「──……だから今から待ち合わせなんだって」
女のその声を聞いた瞬間、ノアは目を見開いた。そして、2人に近寄り、女を庇うように男の前に立ち塞がる。
「あの、彼女困ってるのでやめてもらえますか」
ノアは男に睨みをきかせる。すると男も女も黙り込んだ。
「の……あ? 」
ハッキリと自分の名前を呼んだ。ノアは確信する。この女は待ち合わせ相手のハニー・Bであると。ノアはもう大丈夫だよとハニー・Bにほほ笑みかける。すると、その様子を見た男は笑いだした。
「まさかアンタが噂の挑戦者ちゃんだなんてな」
笑いだした男に再び警戒心からか睨みつける。
「……いい加減しつこいわよ、ダンシング・グリーン」
ハニー・Bの言葉にノアは驚いた。
「あなたが……」
ヤーナとネユニから聞いていた、クルーザー級初戦の相手であり、ハニー・Bにしつこく付きまとっているという男だ。
ノアは尚更男からハニー・Bを離そうとする。
「まあまあそんな警戒すんなって、俺はただこの子をダンスに誘っているだけだからよ」
「あんたのダンスに誰が乗るかっての」
「……ということでお引き取りください」
当たりが強ぇと顔に手を当てるダンシング・グリーン。が、しばらく考えたあと、ハッと閃いた様で、今度はノアの手を握り、目を輝かせた。
「今度俺と対戦だろ!? ならアンタが踊ってくれればそれでいいぜ」
「「は? 」」
2人声を合わせて呆れた。対するダンシング・グリーンは気にすることなくよっしゃ決まりな!とガッツポーズをすれば喜びをステップで表しながら立ち去っていった。
残されたハニー・Bとノアは呆然と立ち尽くす。しばらくしてハッと我にかえったノアは服の裾で握られた手を拭いた。
「ありがとうノア」
ハニー・Bが礼を申すと、「何も無くて良かった」と安心の笑みを浮かべる。が、ハニー・Bは暗い顔をしていた。
「それにしても厄介なことになったかも」
「なんで? 」
ノアは首を傾げる。ハニー・Bはため息をつくと、「ノア、あなた目をつけられたわよ」と告げたのだった。
その後のデートはモザイクコーヒーで休憩したあとショッピングをメインに楽しんだ。
デート、というには十分すぎる1日だった、とノアはその日を振り返った。

◇◇◇

──後日、クルーザー級初戦、ダンシング・グリーンとの対戦だ。
ノアはいつも通り暗黒騎士で、メインタンクをつとめる。
召喚された過去の挑戦者のデータと共に対戦に挑んだ。
『ウィーッ! パーティーを始めようぜ! 』

多少の被弾、ダンス失敗による転倒はありつつも、何とか初戦突破。試合後、ヤーナが駆け寄る。
「お疲れ! 」
ぴょんぴょんと飛び跳ね、ノアの勝利を喜んでくれた。
「何とかなりましたね! 」
隣にいたネユニも喜んでくれる。
ノアはダンシング・グリーンとの試合を振り返り、「ダンスをするとは聞いていたけれどまさかあんなことになるなんて……」と、緊張が解けてかへなへなと椅子に座るノア。
そんな3人の元に開かれたドアから現れたのは先程対戦したばかりのダンシング・グリーンだった。その姿を見るなり、ヤーナはノアを守るようにダンシング・グリーンの前に立ち塞がる。
「まだなんか用があるのかよ! 」
「そんなカリカリすんなって」
俺が用があるのは挑戦者ちゃんの方だしな。と椅子に座り込んだノアの方を見る。
「アンタのダンス、見惚れるほどすごかったぜ」としゃがんで目線を合わせてそう言う。
ノアは「あ……どうも……」と適当に流そうとしていたが次の瞬間。
「俺はアンタに惚れちまったみたいだ」とノアの手をとり、手の甲に口付けた。
その瞬間、ミコッテもといヘイザ・アロ族の3人は驚きのあまり耳としっぽをピーンとたてていた。
「は……はぁぁぁぁ!!?? 」
「ハニー・Bは同じくダンスというパフォーマンスをする仲間だから俺のダンスに誘っていたが、アンタはノリノリで踊ってくれた。俺はアンタに一目惚れしちまったんだ」
真剣な顔で口説くダンシング・グリーンにノアはフリーズする。しばらくして、我に返ると首をブンブンと振り、手を払うと「無理です! 」と走り去ってしまった。
残されたヤーナ、ネユニ、そしてダンシング・グリーンはぽつんと立ち尽くす。そしてダンシング・グリーンは落ち込むかと思えばそう簡単に諦めねぇぜと無駄に闘心を燃やしていた。


──数日後、事件が起こると誰も知らずに。
book / home