幼馴染に彼女が出来た。
嬉しそうに、だがどこか恥ずかしそうに、そう報告してきた。俺は必死に喜ぶ顔を作った。ぎこちない顔を晒してないか、心配だった。アイツに悟られる訳にはいかない。
「よかったな」
自分より背の小さい幼馴染であり、好意を寄せていたレザラの頭をくしゃくしゃと撫でる。
パリン、とガラスが割れるような音が聞こえた。

……痛え……。

◇◇◇


レザラに恋人が出来て数日が経った。
何も変わりはしない、はずだった。
だが、ヘクトールはどことなく自分の体が思うように動かなかった。
熱がある訳でもないが具合が悪い、というにはそれほどではなく、やる気が無いと言うのが正しい。
何も手につかない。食事も、家事も、いつも綺麗にしてある部屋が少し乱れていた。
ヘクトールはため息をつく。今日だけで何度目だろうか。
駆除人からアルカディアの闘士になって半年。安全が確保されたという訳では無いが、強大な化け物相手を退治する仕事よりも自分と同等の相手と試合をする。下手すれば大怪我だが、無駄にストックを使う事は無いのがまだ安心出来る範疇であった。

通信音がなり、それをとる。
相手はハニー・Bだった。
『やっほー、ボンバーちゃん今どこにいる? 』
「あ、今家だが……」
通信器の向こうから明るい声が聞こえてくる。1人でいるよりは少し話をするだけでも心が落ち着いた。
『今から家に行っていい? 』
──今から?
「いや、今日は無理だ」
『っていうか、もう着いてるんだけどね☆』
「は? 」
思わず間の抜けた声が出た。それと同時に呼び鈴が鳴る。トントンと軽くドアを叩く音も聞こえてきた。
「来たよ〜」
「ちょっ」
アポイント、とはなんなんだろうか。慌てて出口に向かい、早急に帰ってもらおうとするが、ハニー・Bの顔を見たら拒否する元気すら無くなってしまった。
「やっほ〜……ってどうしたの」
「……今部屋片付けてねえんだよ」
「別にいいけど」
すんっと真顔で返答したハニー・Bはヘクトールの腕の下をくぐり抜けて勝手に部屋に入る。
「ヤバっ、まじで散らかってるじゃん!どうしたの!? 」
「……だから言っただろうが」
ズケズケと人のプライベートゾーンに上がり込んでは文句を垂れる先輩に文句は言えなかった。
「具合でも悪いの? 」
「いや……つか具合悪かったら帰るのか? 」
「んー…帰らないね☆」
てへっと舌を出しておどけるハニー・B。その手には袋がぶら下がっていた。
「……また"食う"のか? 」
「もっちろーん!ボンバーちゃんの手料理食べたいから買ってきたよ」
ふふふと笑うハニー・Bにはぁと今日何度目かのため息をまたつく。が、誰かといた方が気が紛れる。その点では急な来訪でもありがたかった。
やっとやる気が出たヘクトールはエプロンを着けてハニー・Bの買ってきたものを見る。
「またあれか」
「私といえばそれしかないでしょ」
「つか自分で作……」
自分で作れよ、と言いたかったのだがそうだった。
ハニー・Bは典型的な料理音痴だったということを忘れていた。
バラエティに出始めたアイドルとしてのハニー・B。以前クッキングチャレンジを番組で行った際、黒い煙が立ち上がり、軽いボヤ騒ぎになったことがある。その話を聞いてからヘクトールは一度料理を見ることにしたのだが、ボヤはギリギリ止めることが出来た。だが、何故か目を離したほんの一瞬で黒くて硬いカチカチの何かに変化していたのだった。
ヘクトールは理解が出来なかった。
思わず2度見、いや、4度見くらいはしただろう。
「出来たよ〜」と満円の笑みで言われた時は頭痛がした。黒い物体はプシューと音をたてて焦げ臭い匂いをたたせている。もはや炭だ。思わず頭を抱えた。俺がそれを作ったなら分かるが、何故逆なのだろう、と。
そんなことがあって以来、ハニー・Bはヘクトールに度々手作り料理を頼むようになった(というかヘクトールが心配しているのもある)
しかも彼女の依頼はほぼパンケーキである(余談だがソリューション9の屋台にもパンケーキらしいものは置いてあるぞ)
蜂蜜とバターをたっぷり掛けたパンケーキ。店のやつでもいいのでは?と問いかけたことがあるが
ヘクトールのやつがいい、と絶賛してくれた。悪い気はしないので、なんだかんだ時々作っているが。
ヘクトールが台所にたっている間ハニー・Bは猫たちと遊ぼうとするが、ハニー・Bの凶暴さを本能で感じ取っている猫たちは毎回怯えて隠れているのはいつもの事なので気にしないことにしている。
つまんないの、と不貞腐れたハニー・Bは勝手にテレビをつけて寛いでいた。
台所からいい香りが漂ってくる。その匂いに釣られて隠れていた猫たちも恐る恐る顔を出していた。だがハニー・Bがいる以上、それ以上出てこなかったが。
「出来たぞ」
「ありがとう〜」
運ばれてきたパンケーキは今回も綺麗でフワフワしている。まさにお店に出てきそうなものだった。
「ボンバーちゃん食べないの?」
「……おう、今日は食欲ねえんだ」
ふーん、と受け流すといただきますと嬉しそうに切り分けて口に頬張る。あまりの美味しさに頬が落ちそう、とジェスチャーで示す。
満足気な様子にヘクトールも静かに微笑んで喜ぶ。
「で、まじで元気ないのどうしたの」
数口頬張ったハニー・Bが再び切り込んできた。
まさかの事に構えていなかったヘクトールはビクッと体を震わせる。じとっと見つめながらパンケーキを食べるハニー・Bにさすがにこれ以上黙っていることは出来なかったヘクトールは想いを零した。
「……失恋、したんだよ」
「誰に? 」
容赦なく即突っ込むハニー・Bにヘクトールは口ごもる。しどろもどろになっていると、ハニー・Bは「えーっと、オオカミくんかな? 」新人の、と付け加える。
「何で分かったんだ……」
誰にも言ったことがないはずだ。なぜなら同性である。その思いを伝えてしまえばこれまでの関係が全て無くなることを危惧して秘めた想いを隠してまで祝ったと言うのに。
「だって、分かりやすいもん、ボンバーちゃん」
えっと目を丸くする。そんなに分かりやすかったか……と自分の今までの態度を振り返り反省する。
「オオカミくんと話してるボンバーちゃん幸せそうだよ? もう見てて分かるくらいにさ」
ただ、「そうか……」としか返せなかった。それ以降、黙り込んでしまったヘクトール。2人の間に沈黙が流れる。俯いたヘクトールとそれをじっと見つめるだけのハニー・B。しばらくして口を開いたのはハニー・Bだった。
「辛いのは分からなくもないけど、結局時間が解決するんだよ」
どうアドバイスしたらいいのか分からない彼女なりの答えだった。そうだなと小声で呟くヘクトール。
パンと音を立てて手を合わせて「ごちそうさま! 」と元気よく挨拶すれば食器を洗い出す。
ジャバジャバと水音だけが部屋に響いていた。
それを遠くの方で聞いていたヘクトールはちらりとハニー・Bの背中を見ていた。
食器を洗い終えたハニー・Bは「ま、また来るから」と元気よく帰って行った。
ハニー・Bが帰ってからようやく猫たちも安心したのか隠れている場所から出てきた。
1人と猫たち。この部屋は広すぎるように感じた。
「……やるか」
重い腰をあげて散らかった部屋を片付ける。いつまでもクヨクヨしている場合ではない。たった一人の、勝手な片思いが砕けただけの話。ハニー・Bの言う通り時間が解決してくれる。少しだけ気が楽になったような気がした。


「ボンバーちゃんも可哀想だな〜……」
帰り道、ハニー・Bはそう呟いた。
ハニー・Bは知っている。ハウリングブレードがブルートボンバーに向ける視線もまた好意──あくまで友愛以上に感じる。愛おしそうに、見つめていることを。
「あんなお互い好き好きって視線向けながら彼女作るなんてそりゃないでしょ」
新人くんもめんどくさいひとだなぁ〜とボヤいた。

◇◇◇

あれから数日、いや、1週間は経っただろうか。
レザラとは会っていない。会う機会もなく、特に連絡も取り合うこともなかった。
彼女と交流に忙しいのだろう。彼と話せない寂しさ半分、忘れるようとする為に話したくない気持ちが半分だった。
忘れようとすると余計辛くなる。だから他のことに没頭した。残念ながらほとんど試合のことだが。
自分が料理が出来ることを知ってるのは恐らくハニー・Bとレザラくらいであろう。ハニー・Bもあの日以来仕事が忙しいのか、彼女もまた連絡が来ないが。
結局一人なのだ。
こうなる事は分かっていたはずだった。
レザラは顔が整っており、また爽やかな性格が女子にモテる要素であろう。悪玉役(ヒール)の自分に対して彼は善玉役(ベビーフェイス)なのだから。
だが、ヘクトールは知っている。
実は怖いものが嫌いでビビりで、好き嫌いも多い。だが自分の料理だけは頑張って食べてくれていることも。猫にもモテそうな顔して、見向きもされないこと。朝に弱いこと。無理やり起こせばイケメンはどこへやらというしわくちゃの顔で起きてくること。頑張り屋で負けず嫌いでそれから……。
──俺の方がレザラのことを知っているのに、何でポッと出の女に取られなきゃいけないんだよ。
それを思わず口にしそうになったが飲み込んだ。
首を振り、邪念を取り払う。
そんな時だ。着信音が響く。思わずビクッと体を跳ねた。またハニー・Bか? と出ると、
『ヘクトール、今いいかい? 』
ドクンッと心臓が跳ねた。
レザラだ。
「お、おう……」
どぎまぎした返答になったが、たぶん声は震えてないだろう。久々にこの声を聞いたな……。
『今夜、そっちに行っていいかい』
「えっ」
突然の訪問に声が裏返った。どこかのセンパイとは違ってレザラは「実はもういるんだけどね」とか抜かした事は言わないことは知っている。
ヘクトールは返事に困った。部屋は片付けた。いつも通りのはずだ。だが、気持ちが追いつかない。
『ヘクトール……? 』
返事がないヘクトールにレザラは心配で声を掛ける。「大丈夫だ」と言ったのはあくまで今は平気だ、という意味だったが、レザラは弾んだ声で「じゃあまた今夜」と言って切ってしまった。
しばらくしてヘクトールは状況を理解した。だが、断る理由も見つからなかった。
まあいいか、と半分諦めたヘクトールはどこか期待の気持ちを膨らませていた。

夜、どこかソワソワとした気持ちで部屋の中を彷徨いていると呼び鈴がなる。
ヘクトールはこれがレザラだとすぐに察し、出迎える。
「やぁ、邪魔するよ」
ニコッと爽やかな笑顔で現れたレザラ。彼は何も変わらないのだ。その事に安心したヘクトールは眉を下げて中に入れる。
「飯も作った」
「おっ、ヘクトールのご飯か! 」
背後から喜んだ声が聞こえる。ヘクトールは台所、レザラはリビングに向かう。
「手ぶらで来るのもあれだからさ、たまにはアルコールでもって」
「冷やしててくれ」
はいよ、と軽い返事をすれば冷蔵庫に2缶入れる。その後ヘクトールお手製のご飯を並べれば2人はそれに手をつけた。
夕飯もたいらげ、食後のアルコールを入れる。
しばらく飲むのに夢中になり、酔いが回って来た頃、ヘクトールは口にする。
「彼女とはどうだ」
自分にとって地雷であることを敢えて聞くのは、平然を装いたかったからだろう。レザラに何も知られたくないからこそ敢えて聞きに行くのだ。
それを聞いたレザラは「ん〜……」と考え込んだ。
その様子にヘクトールは思わず片眉を上げた。
「どうした、上手くいってねえのか」
どうせ惚気がくるのだろうと構えていたが、そうでも無いらしく、意外な反応に不意をつかれた。レザラはしばらく「ん〜…」とうなっている。
(あ、これは酔ってるな)
長年の付き合いだからこそ分かる。酔ったレザラは甘え出すのだ。
「ん〜…」
「レザラ」
「んー? 」
「寝ろ」
「やだ」
「……襲うぞ」
思わず出た本音、2人ともシラフじゃないからこそポロッと出てしまったのだろう。思わずやっちまったと焦るが、きっと明日には忘れている。そう思っているヘクトールは誤魔化す様子もなかった。
「んーいいよ」
「は? 」
手に持っていたコップを落としそうになった。ヘクトールはレザラから目を話せなかった。
いつもキリッとした爽やかな青年が柔らかな笑みを向けている。
バクバクと心臓が高鳴る。手が微かに震えている。
──ダメだ

ヘクトールは頭の中の警笛が聞こえた。

──戻れなくなる

理性を働かせて必死に堪える。
レザラは固まったヘクトールに近づく。
甘い罠に誘い込むように、微笑んでくる。

──ダメだ、やめろ、近づくな

今更冗談で言ったことを酷く後悔している。
酔いはすっかり醒めてしまった。
ひやりと冷たい手が頬を撫でる。
「ヘクトール」
甘い声で自分の名を呼ぶ。思わず頬に触れる手を握り目を閉じた。
「レザラ……」
「ん? 」
「お前は……幸せにならなきゃいけねえんだよ」
震えた声で呟いた。目頭が熱くなる。雫がこぼれ落ちた。
静かに泣き出したヘクトールを見るとレザラは驚いた顔をするとすぐに眉を下げてヘクトールを自分の胸に抱き寄せた。
「ヘクトール」
鼻をすすりながら、震える自分より大きな背中を優しく撫でる。
「また一人になったから」
レザラは優しく語りかける。その言葉に思わず涙が止まった。
「どういう、ことだ……」
「そのまんまの通りだけれど」
顔を上げて問いかけるヘクトールに対し罰の悪そうに苦笑するレザラ。「別れたんだよね……」と、衝撃的な発言をする。
「つか、お前……」
「ごめん」
酔ったフリをしていた事に今気づいた。どうりでいつもより飲む量が少ないのに随分早く酔っていたなと。単に疲れていたからか、とこじつけた理由を適当に考えていたが。
「……さっきのはナシだ」
「えっ」
「は? 」
涙なんかとっくに引っ込んだ。さっきの襲う発言は撤回だ。そう言うと、レザラは驚き、悲しそうな顔をする。
「……しないのかい」
「……お前、あれは冗談で流してくれや」
「冗談? 」
ヘクトールの右手を掴み、そのまま押し倒す。頭を少しぶつけたが目の前には天井をバックにレザラの顔があった。
「あれが冗談なら、ボクは許せないね」
それに…と右手でヘクトールの股間を触る。
「っ! 」
「……嫉妬してくれたなら、ボクは嬉しいよ」
微笑むレザラの目は笑っていなかった。


それからの記憶は薄らとしかなかった。
気付いたら全裸のレザラがヘクトールの上に跨り、レザラの尻に反り立ったそれが中に入っている。いわゆる騎乗位、というやつでレザラは上下に動き、腰を振っている。
「…っは、うっ……」
ヘクトールは何度もこれは悪い夢だ、と自分に言い聞かせた。だが悪い夢にしては現実味がありすぎるし、何より気持ちがいい。
「へク……ヘクトール…」
苦しそうに名を呼ばれれば、反応するのが分かる。レザラは分かってて名前を呼ぶのだ。その声で、名を呼ばれることがどんなに嬉しいかを知ってて。
「気持ちいいかい……? 」
彼のつけているネックレスが揺れる。薄く焼けた肌にネックレスが輝いて見えて尚色気を増していた。
ヘクトールはただ見つめることしか出来なかった。されるがまま、だ。
だが何もしないままというのも落ち着かず、雰囲気でレザラの腰に手を添える。掴む、というより本当に触れるだけ。
するとレザラはふふっと嬉しそうに微笑み、「腰、振って」とおねだりしてきたのだ。
だが、抵抗があった。無理やりねじ込んで辛いであろうにさらに本当に自分が腰を振れば負担をかける。心配な気持ちが勝ったヘクトールは首を横にふった。
「大丈夫、だから……」
潤滑油もろくに付けずに勢いだけで挿入したそこはいやらしい音などせず、ただ腰を落とした時の肌と肌がぶつかる音だけが虚しく響いた。
「痛えだろ」
「平気」
「無理すんな」
「ボクがしたいから」
やめさせようとしてもレザラは上手くかわしてやめようとしない。無理に引き抜こうとしても向こうも力が強いため、拮抗するだろう。
正直気持ちいいが、それが申し訳なさ過ぎて萎えそうになる。
「…これは夢だよ」
レザラが呟いた。「全部悪い夢だ、だからボクのせいにすればいい」その言葉にヘクトールは眉間のシワが解けた。
そうか、これは夢だ。そう言い聞かせれば少しは気が楽になった。
ヘクトールと名を呼べば顔を近づけ、唇に触れる。その唇は薄く柔らかかった。啄むように、何度も口づける。
腰に添えていた手に力が入った。痛くないように、だがしっかりと掴んで腰を振る。
「うっ、ぐっ……」
レザラから呻き声が漏れ出る。だが、辞めるつもりはない。キスをしながら必死に腰を振った。
「んっ、ぐぅ…ふっ」
きゅっと締め付ける。本来挿れる場所では無いはずだが、何故か密着してくる。押し寄せてくる快感にヘクトールも考えることをやめた。
「んあっ、うっ、あっ…ヘク、トールっ」
唇が離れれば喘ぎ声が出る。いつもの爽やかな青年はどこへやら。今は自分の上で乱れる女のように見えた。
「あっ、ぐっ、はげ…しっ」
下から腰を振ればレザラの全身が揺れる。ジャラジャラと音を立てて激しく揺れる。
煽ったのはそっちだからな。ヘクトールは無我夢中になっていた。だが、満足しない。
腹筋を使い、上体を起こす。「へあっ」と情けない声を出すレザラの顔がなんともマヌケで笑えた。
目と目が合った。そしてヘクトールはレザラの後頭部に頭を添えるとそのまま形勢逆転、レザラを床に押し倒す形になる。
「へっ」
驚きのあまり変な声を出していたが気にしない事にした。両脚を開かせ、上に覆い被さる。
「ヘクトォ……あぁっ!? 」
ずるっとギリギリまで抜いて一気に貫く。すると痛みなのか快感なのかどちらとも言えない大声を出す。
「まっ、てヘク…」
「待たねえよ」
悪い夢なんだろ、とニヤリと笑えば腰を打ち付ける。
「あっ、がっ、んっ……! あっ、あっ」
逃げようとするレザラをしっかり掴まえる。そっちが先に言い出したことだ。半ばヤケクソになったヘクトールはもう止まらない。
「ひっ、あっ、ああっ…んっ、あっ」
「っ……ぐっ」
両者共々声が漏れ出る。レザラは拳を握り、快楽から逃げようとするが、スイッチが入ってしまったヘクトールはさせまいと激しく打ち付ける。
「いっ、ぐっ……ヘク……いぐっ」
レザラは再びヘクトールの頬を撫でる。今度はヘクトールから口づける。
「ん〜っ、んっ、んんっ! 」
ヘクトールも限界が来ていた。レザラが先に絶頂に達すると、その後を追うようにヘクトールも中に出した。

そこで昨日の記憶は途切れている。


体がやけに痛い。目が覚めた時には体がバキバキになっており、痛みに耐えながら体を起こした。周りを見渡せば、全裸のレザラが丸くなってスヤスヤと寝ている。
しばらく考えたヘクトールは、とりあえず体を拭いてあげ、自分のベッドに寝かせた。
これは完全に無意識でやっていた。後から羞恥心と後悔が押し寄せてきたが。
あれは夢じゃない。現実であったことを再認識すると、自分の童貞とレザラの処女を奪い奪われた事になる。
根が真面目のヘクトールはその責任のことを考えると胃が痛くなった。何が何だかよく分からねえが、良くないことをしてしまったのはまた事実だ。ただ誠心誠意謝ることだけを考えていた。

──数時間後、目をシパシパさせながら不機嫌なレザラがのっそりと起きてきた。相変わらず素っ裸なのはどうにかしてほしい。
「……」
寝起きかつ目がまだ開いていないせいか睨まれているが、それは昔からなので慣れたヘクトールは「よう……」とだけ声をかけた。
「んー…」と低い唸り声をあげながら目を擦るレザラ。まるで子猫のようだ、と申し訳ないが可愛いとさえ思ってしまった。
「なんか食うか? 」
「んー…」
「レザラ」
「んー……? ヘクトール…? 」
ようやく目が覚めたのか、自分を認識したようだ。シパシパしている目を数度瞬きし、ヘクトールと目を合わせる。しばらくして状況を理解したのか顔を真っ赤にする
「あー……とりあえずおはよう……」
だいぶ語尾が小さくなっていたが、きっと昨夜の記憶はあるようだ。ヘクトールはため息をつく。
「もう二度とあんな真似すんなよ」
「えっ」
ハッキリと聞き返すレザラに思わずレザラを見る。その顔はキョトンと、すごく驚いた顔だった。
「……ボクたち両思いじゃないの? 」
「は? 」
「……言ったよね、ボクはフリーになったって」
そ、それは確かに聞いたが、と逆に焦り出すヘクトールにレザラは詰め寄る。
「ヘクトールはボクの事が好きだろう? 」
「えっ」
「ボクはずっとキミが好きだったんだけれど」
衝撃の告白に開いた口が塞がらない。不機嫌を顕にしたレザラは頬を膨らませる。
「なのにキミは"ちゃんと彼女作れよ"だの、"幸せになるんだぞ"とか言ってくるし」
「えっ……は?? 」
「ボクはずっとヘクトールのことしか好きにならなかったのに、ヘクトールもボクのこと好きってオーラが出てるのに、隠そうとするし突き放してくるし、一人で全部抱え込むし」
「ま、待ってくれ、どう……はぁ!? 」
「どうもこうも、ボクらはずっと両思いだってこと」
まさかの事実に頭を抱えるヘクトール。
悩んでいた全てが馬鹿みたいに思えてきた。
「もうあんなこと言ったら今度はボクがヘクトールに突っ込むからね」
ニッコリと笑うレザラの目はやっぱり笑っていなかった。
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