吐息混じりに名を呼ばれ、ピクっと反応する。
エレンヴィルにとってその名は呼ばれることが少し恥ずかしく、あまり呼ばれたくなかった。だが目の前にいる男は愛おしそうに微笑みながらその名を呟いた。
「なぁ……」
「ん? 」
「普通にエレンヴィルって呼んでくれないか」
エレンヴィルは男──カイトにそう懇願した。その名を呼ばれ始めたのは付き合ってから。2人きり時、ましてや体を重ねる時に多かった。
エレネッシパとは故郷での呼び名、いわゆる本名みたいなもの。だが里を出て都会に馴染むためにエレンヴィルと名乗っている。
今やエレンヴィルと呼ばれる方が多く、それに慣れてしまった彼にとって本名で呼ばれることはくすぐったい気持ちになるのだ。それに対し、カイトは「んー…」と首を捻った。しばらくすると口を開き、「だってよ、お前の大事な名前だろ」と答えた。
その言葉に目を丸くした。そんなエレンヴィルを見てカイトは目を細め、額に口付ける。顔を近づけたことにより体も寄り添い、エレンヴィルの中に入っているカイトの物が奥へと進む。
中を擦られ「んっ」と思わず高い声を出してしまった。顔が熱くなる。ただでさえ呼ばれ慣れていないエレネッシパ呼びに困惑しているというのに。
カイトは額や頬に愛おしそうに口付けながら腰を打ち付ける。
「んっ、あっ」
「エレネッシパ」
ほどよく低く、いい声で呼ばれれば繋がったそこをきゅっと締め付ける。カイトは懲りずにしつこく「エレネッシパ」と彼の名を呼んだ。その度に締め付ける。
(本当は嬉しいくせに)
などと意地の悪い思考になりながら彼の中を食い尽くした。
2人とも体力が尽き、息を切らしながらベッドに横たわる。カイトは満足げに硬い腕でエレンヴィルに腕枕をしてあげていた。
「……名前嫌なのか? 」
カイトは問う。それに対し、伏せられていた金色の瞳が薄ら開き、長い睫毛越しに向けられる。
「別に嫌という訳では無い……ただ、恥ずかしいというか……」
語尾が小さくなる。そんな理由?と軽く笑うとエレンヴィルを抱き寄せた。
「エレンヴィル」
「……なんだ」
「エレネッシパ」
「……っ」
からかうように名を呼ばれ、エレンヴィルの眉間にシワが寄る。突き放そうとしてもビクともしない。普段ガンブレイカーを振り回しているだけある。いやそんな感心している場合ではない、と抱き寄せられた体をどうにか突き放そうとする。
そんなモゾモゾしていると、
「だってさ、おふくろさんから貰った大事な名前じゃん」
エレンヴィルは抵抗することをやめた。その話を出されるとは思わず、力が緩む。カイトは頭の後ろと腰に手をやり更に密着させた。
肌と肌が触れ合う。元々温かい体質のカイトの熱が伝わってくる。エレンヴィルもしぶしぶ腕を彼の背中にまわした。
「マガモくん」
「それはやめろ」
「ごめんって……でもさ、俺にとっては素敵な名前だと思う」
そう言われるとエレンヴィルは顔を彼の胸に擦り寄せた。
「お前は空を、俺は海を旅して世界を知って欲しいって願われたんだ」
名前とは人生で初めて貰う贈り物だと誰かが言っていた。名前の由来はマガモであることは知っていた。だが、それに込められた意味は、名付け親である本人──カフキワの口からやっと聞き出せたのだった。
「……おふくろさんにロクに挨拶も出来ずにお前と付き合ってるからさ、大事なひとり息子の名前を代わりにたくさん呼んでやりてぇんだ」
「……それとこれとは関係ないだろ」
エレンヴィルはカイトの白い胸板に歯を立てた。彼なりの対抗心なのだろう。イテッと小さく呻くカイトはよしよしと頭を撫でた。