[chapter:01:歪曲]
「ただいま、ヘクトール」
レザラは自室に帰宅するなり、そう言葉を投げかけた。だがそこにはヘクトールはいない。暗い部屋を突き進み、奥にある寝室を開ける。
大きなベッドが1つ。そこに大きな男が四肢を鎖に繋がれた手錠で拘束され、大の字になり身動きを取れずもがいていた。
赤髪のガタイのいいヒューネ族の男──ヘクトールは口にタオルを巻かれ、声を出すことすら出来ずヨダレを口端から垂らしていた。また長い時間金属に擦れた手首と足首は赤く腫れ上がっている。
それを見下ろしたレザラはベッドに腰掛け、ヘクトールに声をかけた。
「イイコにしてた? 」
うっとりとした表情で藻掻くヘクトールを見下ろす。だがヘクトールはオッドアイの瞳でレザラを見るなり、顔を歪め睨みつける。
「んーーーーっ!」
何か言いたげに叫んでいるが、口を塞がれていては何も聞こえない。すっかり唾液で濡れたタオルをレザラはヘクトールの口から外すと第一声が「てめえいい加減にしろ!」と罵声を浴びせたのだ。
その勢いにレザラは呆気にとられる。ヘクトールはガチャガチャと金属音をならし暴れる。
「いい加減解放しやがれ! 」
「なんで?キミは逃げるじゃないか」
ヘクトールの大声に対し、ドスの効いた低い声でそう言い放った。
ヘクトールはヒュッと喉を鳴らす。滅多に怒らないレザラの機嫌はすこぶる悪い。ヘクトールを見つめる赤い双眼に覇気はない。じっとりと、まるで獲物を狙う狼……否、蛇のように。
「あぁ、ヘクトール。キミが素直にボクのものでいてくれたらこんなことにはならなかったのに」
「……レザラっ」
舌打ちし負けじと睨み返すヘクトールだが、拘束された四肢を繋ぐ手錠は頑丈で、どんなに暴れても壊れることはなかった。

『現在、アルカディア闘士であるブルートボンバーの行方が分からなくなっておりす。アルカディア支配人曰く、自ら引退を志願しに来たとの事。しかし先日の試合を直前に行方を──……』

モニターから流れるニュースキャスターのニュースを耳障りのように感じたのかレザラはリモコンを取るなり、プチッと電源を落とした。
そうしてにっこりと笑顔をヘクトールに向け、ヘクトールの顎に指を添えて口付ける。
「キミを心配する輩が多いのは致し方ないけれど、キミを愛していいのはボクだけだ」
ヘクトールはそれを拒むことなく受け入れた。ここで抵抗すれば何をされるか分からないからだ。
レザラは数回に渡り口付けると満足そうに唇を離す。そして、手袋を外すとほぼ全裸であるヘクトールの中心に触れる。敏感なそこを触られヘクトールは小さく喘いだ。ほぼ抵抗も逃げることも出来ない状態でゆっくりと上下に動かされれば身体は反応し、徐々に反り立つ。唇を噛み締め、快楽に堪える。だが、ヘクトールは眉間に皺を寄せ、別の場所が反応するのを無視したかった。
「ヘクトール」と愛おしそうに名を呼ぶレザラ。ゆっくりと上下に扱き、腰がビクビクと動くのを楽しげに見ていた。しばらくすれば先走りが出てくる。それを指で掬い絡ませ、再び握ると少し動かす手を早める。
「気持ちいい?ヘクトール」
ヘクトールは首を振る。ヘクトールは嫌だ、と拒んでいる。その様をレザラは悲しそうに見つめた。
「る……せぇ……」
「キミは素直じゃないね」
そう言うと、レザラは反り立ったヘクトール自身に顔を近づけ、口に咥える。その瞬間ビクッと大きく体が跳ねた。
「おい、レザ……ラァ……! 」
舌を裏筋に這わせ時折優しく噛む。添えた手で扱きながら先っぽをいじめる。ヘクトールはそれには敵わなかった。吐息混じりの声が我慢できずに漏れ出る。時折チラリとレザラは見上げる。ヘクトールの弱点を知っている。口に咥えられることと、それから……。
レザラは添える手を変えて右手を離すと、ヘクトールの内腿に手を添える。するとビクッと更に大きく跳ねた。ゆっくり指先でなぞれば「うぁぁぁっ! 」と大きく反応を示した。
レザラは股間の方へ手を動かすと袋を優しくなぞり、目的の場所へ更に手を下ろす。
ヒクヒクと呼吸と共に動く秘められた場所へ指で触るとまた大きく反応する。
「う……あっ……」
我慢しているのだろう。だが今更の話である。
2人は何度か身体を重ねた。だが、そこに愛はあるのか、と問われれば肯定は出来なかった。
あくまで性処理──否、心の寂しさを互いで埋めていたのもまた事実である。
2人はいつの日か互いを好きになっていた。だが、それは互いに知らない。秘めた恋心を抱え、それを抑えながら共に過ごしてきた。
『オレたちはずっと一緒だ』
そう言ったのは駆除人時代のレザラだった。その言葉にヘクトールは少し悲しそうな顔をして「おう」と頷いた。
レザラはその時確信を持てなかった。だが、今なら確信を持てる。
──ヘクトールはボクの事が好きだと。
だが、駆除人からアルカディア闘士へ歩みを変えた2人はその思いを封じ込めた。
レザラは元々の戦闘力をクルーザー級まで上り詰め、ヘクトールはライトヘビー級で努力していた。
いつしか時間が合わなくなった2人はそれぞれの時間を過ごすようになった。
レザラは女性によくモテた。告白される度に一応付き合うがなかなか長続きしなかった。
『いつもブルートボンバーの話しかしないね』
そういう理由で別れを告げられる。
(そうだよ、だって本当は──……)
ずっと一緒に居た幼馴染が好きで好きでたまらない。それは友愛ではなく醜い独占欲に育ってしまった。
そんなヘクトールの傍には男がいた。ヘクトールは本当はシャイなので、絡まれても困りながら愛想笑いを浮かべていた。だがライトヘビー級王者ということもあり、羨望はあるんだろう。
色んな男に絡まれる姿に嫉妬していたのだ。
(そこはボクのものなのに)
そうやっていつの日か抑えていた醜い感情は膨れ上がり、今に至る。
だが唯一心を許した人がいる。それはヘクトールがブルートボンバーとなったきっかけになった少女だった。幼い子だった為、ヘクトールを取られる心配は無かったというのもある。
彼女と交わした約束はまだ守っている。
記憶の中の3人は楽しそうに笑っていたのだった。

そんなことを考えていると口の中にどっぷりと粘液が放り込まれ、その瞬間意識を現実に戻す。咥えていたヘクトールのものがビクビクと脈打っており、フェラでイったようだ。
レザラはずっとなぞっていた秘孔に指を入れた。
ココ最近ずっと弄っていた為、ほぐれている。何なら数時間前まで指より太いものを咥えていたばかりだ。
レザラはその状態を確認し、満足すると身体を起こし、ジャケットとズボンを脱ぐ。そしてパンツも脱ぐとヘクトールと同じく全裸になった。
「やめ……ろっ……」
「どうして抵抗するんだい? 」
「こんなことしたって……」
息を切らしながら言葉だけで抵抗するヘクトールにレザラは黒いモヤがかかった。
どうして、どうしてボクを拒絶する? 何故?どうして?
だんだん苛立ちを覚えたレザラは顔を顰めて、無理やりねじ込んだ。
「あ゛ぁぁぁぁ!? 」
尻から激痛が走る。慣らしているとは言えど、潤滑油もなしに挿入されれば裂けた様な痛みがまるで身体を貫いたように走る。
痛みに声を出しているがレザラは容赦なく腰を振る。ぐちゅっぐちゅと粘液が擦れる音が部屋に響く。赤い液体が結合部から垂れ落ちた。
レザラは痛みに叫ぶヘクトールに構わず腰を動かす。己の黒い気持ちをぶつけるように。
性行為とは結局突っ込む方だけが快楽を得られるのであって、挿入される側への愛情が試される行為でもある。
ヘクトールは擦れて腫れ痛む両手足の事とねじ込まれ切れた尻と全身から痛みから逃げたかった。
だがレザラはそれを許さない。
「気持ちいいね、ヘクトール」
絶叫を喘ぎと勘違いしているほどにレザラはただ目の前にいるヘクトールを犯すことだけを考えていた。
腰を打ち付ける音とヘクトールが暴れる度に金属が擦れる音が響いた。
「あ゛ぁぁぁっ!! 」
「はは、可愛いねヘクトール」
ボロボロと涙をこぼす。ヘクトールはただこの地獄が早く終わって欲しい一心で願っていた。
痛みで中を締め付けるが、レザラにとってはそれは気持ちよくて咥えていると解釈したようだ。
「そんな締め付けて……口は嘘つきだね」
「い゛っ……あ゛っ! 」
尻の穴こそ切れて痛いがヘクトールの前立腺をヘイザ・アロ族特有のトゲのある男根で犯され、喘ぎ始める。頭では拒否しているというのに身体は求めていたもので貫かれ、喜んでいる。
「うっ、あっ、れざ……」
「可愛い……」
頬を赤らめ、喘ぐヘクトールに舌なめずりするとぐっと奥まで入れ込む。
「あ゛ぁぁぁぁ〜〜! 」
「ヘクトール、締め付けないで、イっちゃうじゃないか」
「う゛っ……」
潤滑油を足しながら腰を動かせば滑りが良くなりヘクトールの喘ぎも苦痛がとれてくる。
ヘクトール、と名を何度呼んだ。ヘクトールはただただ喘ぐばかりで応えることはなかった。
「ヘクトール、出すよ……っ」
「あうっ、あっ、んっ……! 」
うっ、と小さく呻くとビュルルとヘクトールの中に出した。
だがヘクトールはイけていない。レザラはそれに気付くと、再び中を犯した。


あれから数時間経てば2人とも散々射精し疲れたのかクタクタになっていた。
汗だくになり、額に張り付いた前髪をかきあげる。レザラはビクビクと痙攣するヘクトールを見下ろし、両手足の手錠を外す。
「痛かったね、今から手当するよ」
摩擦でミミズ腫れになっている両手足を優しく撫でると包帯を取りに行った。
意識はギリギリ保っていたヘクトールは何故こんなことになったのかぼんやりとする頭を回転させて思い出していた。

──レザラに彼女が出来た。
そうだ、あの時だ。
レザラから彼女が出来たんだと嬉しそうに報告をされた。
一瞬動揺したが、それを隠すように「良かったな」と喜びを偽った。するとレザラは素直に「ありがとう」と受け取った。
今まで2人でいた時間は、だんだんと少なくなっていた。正直に言うと寂しい。
試合後の食事も、映画鑑賞する時間も、たまに泊まりにきてくだらない話をしながら何故かレザラからキスされた時間も。
戯れだとは分かっていた。だが親友という枠から外れた歪な関係だった。レザラはあくまで親友として好きなのだろう。それでもヘクトールはその胸の内を一切明かすことは無かった。
レザラにはレザラの幸せがある。それを願ってヘクトールは身を引いた。ヘクトールから何かしら誘うことは元から無かったが、それ以降もヘクトールから声を掛けることもなかった。
「幸せになれよ」
それは親友として、嘘偽りない心からの願いだった。

だが、なんだこれは──?

数日前、レザラの方から飲みに誘われ、少し強めの酒を飲んだ。ヘクトールはそこまで酒に強く無いが、飲めないことは無い。
だがその日飲んだ酒はいつもと違う。既に飲み込んだ後に気付いた違和感。しかしそれに気付いた時には既に遅かった。
目の前がぐるりと回る。バタリと派手な音を立てて床に倒れて気を失った。
そして最後に一瞬だけ見えたレザラの笑み。
それを思い出したヘクトールは全て謀られたのだと、気付いた。

レザラの温かい手が触れると同時に現実に引き戻された。赤く腫れた手首に包帯を丁寧に巻いてくれている。
「……レザラ」
彼の名を呼ぶと「ん? 」と上機嫌に返答する。
「なんでこんなことしやがる」
絞り出した声で問いかける。答えを聞くのが正直怖かった。だが疑念は膨らむばかりだった。
レザラはにこやかに答えた。
「キミの事を愛しているから」
「……は? 」
意外な返答にヘクトールは抜けた声が出た。俺の事を愛してる? レザラが?
頭の中でその言葉がぐるぐると巡る。だがレザラはその後「冗談だよ」などと言うことが一切なく、ただただ静かに愛おしそうに見つめていた。

──狂ってやがる

こんなレザラは知らない。元より少し強引な所はあったが、ここまで酷くはなかった。
何より自分は女(恋人)作っておいて俺(親友)に愛してるというのはおかしいものだった。
それに何故自分を犯した。そこにお前の語る愛などないくせに。ヘクトールは吐き気がした。
そんな事も知らずレザラはただただ静かに両手足首に包帯を巻いていた。
book / home