※暴力流血⚠
※ヘクトールが可哀想
※家族捏造、モブがいっぱいでる

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「レザラくん」
授業を終えるチャイムが鳴り止まない頃、一人の女子がレザラに近づき、声をかけた。
振り向いたレザラはほほ笑みかける。
「どうしたんだい」
「あの、部活が終わった後、体育館裏に来てくれませんか? 」
またか、とレザラは内心ため息を着く。
どうせまた告白だろう。自惚れてるつもりはないが、どうにも告白される回数が多いとだんだん疲弊してくるもので断りたかったが、それだと印象を悪くするため、「わかった」と了承する。
その様子を遠くから見ていたヘクトールの視線に気付くと、苦笑する。それに対して明らかに鼻で笑われたのだった。
「行こう、ヘクトール」
「お前は本当にモテるよな」


──これは彼らが1年生の時の話。


ヘクトールはボクシング部、レザラは剣道部に入部した。レザラが入った剣道部は厳しくも愛ある指導を入れる先輩に恵まれ、レザラも真剣に取り組み、才能を伸ばしていた。
一方、ボクシング部に入ったヘクトールはというと、主に3年生からのイビリが酷く、練習どころか雑用係をされていた。これはヘクトールだけでなく、1年生全員がだった。
だが先輩に逆らう事なと出来ないヘクトールは素直に従うしかなかった。
ハラスメントとしか言えない暴言に次々と辞めていく同級生ばかりだった。10人入ったが残ったのはヘクトールと2人ほどしかいなかった。
「てめえ調子乗んなよ」
理不尽な暴力を受けるが、それを反抗することは許される訳もなく、そもそも支配下におかれた状態のヘクトールに歯向かう勇気などなかった。
「す、すみません……」
「聞こえねえなぁ? 」
「申し訳ありません! 」
泣きながら土下座することも度々あった。正直退部することも脳裏に過ぎったが、逃げてしまえば完全なる負けだと思っていたヘクトールは逃げ道を見ぬふりをしていた。
そんなボクシング部のイジメに先生たちは気付くこともなく、1年生たちも「し、指導ですから」と打ち明ける勇気も無く、ただ揉み消されていく中でヘクトールは疲弊していっていた。

だいぶ暗くなり、片付けを終えたヘクトールはトボトボと正門をくぐろうとすると見慣れた影に思わず立ち止まった。
「レザラ……」
「お疲れ様」
レザラは笑みを浮かべてこちらに向かってくる。もう日も暮れているというのに、待っていたのだろう。ヘクトールは親友の顔を見ると思わず涙で視界が歪んだ。
「ヘクトール!? 」
親友が急に泣き出したことにレザラは慌ててハンカチを取り出す。そしてしゃくりあげた彼を家まで送り届け、ついでに家にあがって落ち着くまでそばにいた。
「ヘクトール……」
「すまねえ……」
落ち着いたヘクトールにレザラは眉を下げながら問いかける。
「部活、辛いのかい」
「……」
辛いというベクトルではないが、弱音を吐きたくなかったヘクトールは黙り込んだ。その沈黙を貫かれたことにレザラはそれは肯定だなと確信した。
「何があったんだい」
「……何もねえよ」
「嘘だ」
「すまん、言えねえ……」
「……そっか」
ヘクトールが黙秘するというのならばそれ以上聞くのはやめておく、と伝えれば頷かれた。
だがレザラは何となく気付いていた。
ヘクトールは確かに人見知りで気が弱いが、指導くらいではめげない人間だということを知っている。もし自分が弱いこと、自分に負けそうな時はちゃんと声に出すはずだと。
だがしばらく元気がないことと黙秘するということは自分自身の問題ではないということだ。
幼馴染故の関係と長年の勘がそう訴えていた。
少なからずヘクトールは話すつもりはないようだ。
「ボクはキミの味方だから」
そう言って優しく抱きしめた後自宅に帰った。
正直不安だったが、家族に心配をかける訳にもいかず、毎日気にかければいい。




そう甘く考えていたのが悪かったと後々気付かされた。




それから数日後、外がやけに騒がしく、10分後には救急車のサイレンがけたたましく鳴り響き、学校に近づくと小さくなった。
サイレンの音は剣道部の道場にまで聞こえていた為、レザラ含めたメンバー全員が手を止め、窓から音のする方を覗いていた。
「あっちって、ボクシング部の方だよな? 」
「まあレスリング部もあるけどさ」
「誰か階段からでも落ちた? 」
「なんかガラス割れたらしいぞ」
周りがそんな話をしている中、レザラは胸がざわつき始める。
ボクシング部──ヘクトールに何も無ければいいのだが。
そんな不安は何故か当たってしまうもので。
委員会があり、遅れてきた3年生が話しながら部室に入ってくる。
「1年のやつが運ばれたらしい」
「あの巨体で赤髪のやつ」
「ガラスに顔面からいったらしいぞ」
1年で赤髪で体の大きい生徒といえばそれはヘクトールしか思いつかなかった。
「レザラ大丈夫か」
剣道部主将が顔を真っ青にしたレザラを心配する。
「ボクの、親友かもしれないです……」
その言葉に周りは驚きを隠せず、「いいから行きな!」「俺だったら飛び出していくわ」「練習どころじゃねえよな、さっさと見舞いにいけ!」とほぼ全員が早退を促してくれた為、レザラは泣きそうな顔で「すみませんありがとうございます」と頭を下げ、急いで着替えて近くの病院に駆け込んだ。

総合病院に駆け込む。彼の両親は遠方に勤めており、簡単に来れそうにない。家庭の事情を知っているレザラの母も学校から連絡を受け、先に病院にいた。
レザラを見るなり、学校や部活の心配をしていたが、レザラが真っ青になって駆けつけたことでそれどころでは無いと話題を変える。
今ヘクトールは手術室に入っている。顔から窓ガラスに突っ込み、顔を中心に全身大怪我をしたと聞いた話そのままだった。
レザラはズボンの裾を握りしめ、ヘクトールの無事を祈った。
長い長い時間が経ったような気がした。手術中のランプが消えた。それを確認するとレザラと母親は互いに顔を見合せ、立ち上がる。
そして中から出てきた主治医であろう人に「お母さんでしょうか」と尋ねられ、「いえ、彼の実母は……」と詳細を話し、今はレザラ母が緊急連絡先になっていることを説明する。
「ご両親には連絡は出来るでしょうか」
「ええ、連絡してこちらに向かっているそうで」
話すと医師はここから先はご両親の方に説明いたします。と立ち去ってしまった。
「先生! 」
レザラは思わず大声で医師を引き止める。
「ヘクトールは無事ですか! 」
震えた声で問いかけると、医師は振り向き「命に別状はない……が、おそらく一生治らない傷が出来たとだけ」
そこまで説明すると安心したのかレザラは脱力し、床にへたりこんだ。
ただ、一生治らない傷というのが気がかりで仕方なかった。

その日はヘクトールの両親が来るまで待ち、到着と入れ替わりで2人は帰宅した。


──2日後、見舞いの許可が降り、レザラはヘクトールの病室を訪れた。
その手にはヘクトールが好きなケーキ。久々の再会にレザラは待ち遠しいとばかりにやや早歩きで病室に向かう。
そしてヘクトールの名前が貼ってある病室前に着くと、一呼吸おいてノックし、ドアを開けた。
「ヘク……」
目の前の光景にレザラは固まった。
そして手の力も抜け、持っていたケーキ箱を落としてしまった。だが、それよりもヘクトールの様子にショックが隠せなかった。
「……よぉ」
力無く返答するヘクトールの顔はぐるぐる巻きになっており、まるでミイラ男のようであった。
自分の想像以上の酷さに手が震え、レザラは現実を受け入れられなかった。
「ヘクトー……ル」
「……」
ヘクトールはそれ以上何も言わなかった。
沈黙が流れる。ヘクトールもレザラから顔を背けてしまった。
「どうして……」
やっと声を絞り出せたレザラは震えた声で近づく。そして、やっと手の届く距離に近づくと崩れ落ちた。
「どうしてキミばっかり酷い目に遭うんだ!! 」
心の叫びが、病室に響く。ヘクトールは泣きそうになるのを我慢し、震えていた。
「どうして……どうして……! 」
その問いかけに答えてくれるものはいない。声を出して泣いているといつの間にか面会時間が過ぎてしまっていた。
レザラは無言のまま落としたケーキ箱を拾い上げ、病室から出た。
病院から出てしばらく帰り道をトボトボ歩いていると、汚い笑い声が聞こえてきた。
そいつらは自転車に2人乗りをし、レザラに気付くことなく横を通り過ぎて行った。
何度かボクシング部の近くまで見に行ったことがあった為、とても見覚えがあるその顔を認知すると、人より鋭く尖った犬歯で唇を噛み締め、血が滲む。
「殺す……! 」
その目は赤く染まり、まるで狼のように鋭く光っていた。


さらに数日経てばヘクトールは再び登校してきた。クラスメイトたちは皆ヘクトールを温かく出迎える。
「大丈夫か!? 」
「大変だったな! 」
「もう大丈夫なの? 」
「ノート見るか? 」
クラスメイトたちはヘクトールの顔の傷には気付いていたが、誰も触れずただ心配の声をかけていた。
それをムスッとした顔で見ているレザラにヘクトールは気づいていた。
「悪ぃ、後で見せてくれ」とノートを貸すと名乗り出たクラスメイトにノートを借りて礼をしながらレザラに近づく。
「よぉ……」
「おはようヘクトール」
むっとしたままぶっきらぼうに挨拶を交わす。ヘクトールは何か機嫌を損ねただろうかと焦る。
「……ボクが1番なのに」
「そんなことかよ」
ボソッと呟いた不満はヘクトールにも届いていたようで、レザラは思わず振り向いた。
「俺の親友はお前一人だけだ」
そう言いながら休んでいた間のノートを写していた。
その言葉を聞くと、不機嫌だったレザラは口角をあげて少し下手くそな鼻歌を歌い出したのだった。
結局ヘクトールは退部した。3年たちからのイジメもだったが、2年生たちから金を盗んだ濡れ衣を着せられ限界だったヘクトールは退部を選んだ。その後日、調理実習にて手際の良さを褒められ調理部に誘われることになったのだった。







──次のニュースです。
──先週より行方不明となっていた男子高校生3人の遺体が発見されました。
──10代から20代前半の複数の遺体が川の麓に流れ着いているのを市民が発見し、警察に通報。身元確認の結果、先週行方不明となっていた高校生3名のものと判明しました。警察によりますと3名の体にはまるで狼に襲われた様な傷が残っており──
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