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女は顔を強ばらせ、高級なカーペットが敷かれた廊下を歩いていた。豪華な装飾の施された館は彼女の知らない世界だった。
目的の部屋の前に立ち止まるとふぅと一息つく。そして覚悟を決めるとドアをノックした。
「入れ」
「……失礼いたします」
キィッと軽い音をたてて扉を開く。女は少し顔を俯かせながら中に入った。微かに震える体を落ち着かせようと何度も頭の中で「大丈夫」と呟いた。
視線を感じているのが痛いほど分かる。だが、目線を上げる勇気はなかった。
カタッと音を立てて男が近づくのがわかった。相手は蒼天騎士団総長であるゼフィラン。
女──アンナはそのゼフィランに呼ばれた娼婦であった。
蒼天騎士団──教皇であるトールダン7世直属の親衛隊である。そんな偉い立場の男に招かれた娼婦として周りの仲間から嫉妬の視線を浴びていたが、アンナにとってそれ以上に無礼を働けば首を切られると思い、その恐怖心から体が上手く動かないのだ。
目の前に立たれてはその圧をジリジリと感じる。
すると、恐怖と緊張から動けないアンナの手をとったのだ。
「そこまで緊張する必要は無い」
それに対し「申し訳ありません」と小さく謝罪した。触れられたゼフィランの手は温かかった。
それからシャワー室に案内され、先にシャワーを浴びることになった。
優遇されているのだろ、シャワー室も人が何人も入れるほど広々としていた。今まで相手してきた男たちが招き入れたシャワー室は安いもので、下手をすればお湯すら出ないこともあった。
だがここは常に温かい湯が出る。それを体に浴びればすっかり緊張の糸もほどける。だがあくまで仕事だ。その事を思い出せば相手を待たせる訳にもいかず、そそくさとシャワーを済ませた。
それから入れ替わりでゼフィランがシャワーを浴びる。その間に準備することがあったが、滅多に入れない蒼天騎士団のプライベートルームに興味があった。だが、ゼフィランの部屋は思っているほど私物が少ない。ベッドと、書類など無い綺麗な机と椅子、高そうな絵画が一つ壁にかけてある。思わずつまらない男、と呟きそうになったのをぐっと堪えた。いつどこで聞かれているか分からないからだ。
しばらくするとシャワー室からゼフィランがバスローブ姿で出てくる。アンナは思わず胸がときめいた。騎士である為鍛えられた身体に思わず目が離せない。普段たるんだお腹か肋が浮きそうなやせ細った男の体しか見ていなかったアンナにとって眼福であった。
下腹部がきゅっと締め付けられる。
──抱かれたい
そんな女の本能をくすぐられる程魅力的だった。何よりゼフィランは整った顔立ちでもある。普段遠くから見ることしかなかった為、改めて近くで顔を見るとトキメキが止まらなかった。
そんなアンナの熱い視線に気付いたゼフィランは「そんなに見つめられては穴が空く」と言う。
顔を真っ赤に染めたアンナは「申し訳ありません」と反射的に謝ったのだった。
そして気を取り直してアンナは確認をする。
「本日はどのような──」
「何もしなくていい」
「えっ」
思いがけぬ言葉にアンナは抜けた声を出す。
ゼフィランはベッドに腰掛けていたアンナを押し倒すと「私のすることをそのまま受け入れればいい」とアンナの纏っていたバスローブの紐を解いた。
そしてバスローブ1枚のみを纏っていたためすぐに裸は露になる。この仕事を何年もやっている為か、裸を見られるのには慣れてしまった。だが、アンナは今日は恥ずかしいと感じている。
見ないで、と言いたい気持ちをぐっと堪えバスローブを握る。
ゼフィランはアンナの体を一通り見ると脇腹をなぞった。するとビクッと大きく体が跳ねる。
「足を開け」
その言葉にアンナは「恥ずかしい」と顔を真っ赤にしながらゆっくりと脚を開かせる。たった数分の出来事だというのに、アンナの開かれたそこは濡れていた。
だがゼフィランは何も言わず、指で触れる。触れられるだけで甘い声が漏れ出る。これは演技ではない。本当に体が喘いでいるのだ。水音が聞こえるだけで腰が浮く。思わず脚を閉じようとするが、それを遮られる。
「閉じるな」
「ひぁっ…」
鼓動か頭にまで響く。十分に濡れたのを確認するとぬるりと中に指が入ってくる。
「あっ」
「感じやすいのか」
ふっと鼻で笑われた気がしたがそんなことを気にする余裕もなかった。1本、2本と指を増やされ、ぐちゅぐちゅと中をかき乱される。
(気持ちいい、指だけでこんなに気持ちいいなんて──)
それ以上の物が来たらどうなってしまうのか。アンナは恐ろしい気持ちと、欲しい気持ちの両方で揺らいでいた。
感度が良いアンナの中を指で犯しているゼフィランは口角を上げ、責め立てる。抜き差しをし、バラバラに指を動かす。すると面白いほどに腰がビクビクと動き、きゅうきゅうと指を締め付ける。
「気持ちいいか」
ゼフィランはちらりとアンナの顔を見る。が、押し寄せる快楽にアンナはその声が届いていないようだった。
指を引き抜けば「んぁっ」と声を出し、ゼフィランの指は糸を引く。速い息を整えゼフィランの方を向くと目があった。
パステルグリーンの瞳はどこか楽しげに見えた。
「ゼフィラン様……っ」
名を呼べば「どうした」と短く返答が帰ってくる。
「どうかお許しください……」
「なにが、だ」
「こんな気持ち初めてで……貴方様のものが欲しいのです……」
「少し待て」
淡々と答えるゼフィランにアンナはほっと安心する。良かった、拒否されたらどうしようかと思った。ゼフィランもバスローブを脱ぎ、共に裸になる。そして顕になった下半身は勃っていた。思わずそれに見惚れるアンナの視線に気付いたゼフィランは「舐めるか」と言う。アンナは頷き体を起こした。
意外にも食いついてきたことに少々驚きつつもゼフィランは膝立ちになる。そして四つん這いになり、そこに顔を寄せたアンナは慣れた様子で舌を出し、裏筋を舐めた。
「あまり上手くはないですが……下手でしたら押さえつけても構いません」そう言って小さな口を開き咥えた。
舌先で裏筋を舐めながら軽く吸えば後頭部に手が触れる。そしてその手を前後に動かされたことにより、撫でられていることがわかった。
アンナは必死に奉仕した。仕事であることもだが、何よりも夢中になってしゃぶっていた。
無様な顔を見られたくないが、どんな様子か気になり、目線を上にあげる。すると感じているのが顔を顰め、息を詰まらせていた。
今までにない気持ちになり、喜んで喉奥まで迎え入れる。苦しい、吐き気がするが彼のものならと必死だった。
中でビクビクと脈打ち、上下に揺れるそれが愛おしくてたまらなかった。
「すまない」
上からそう告げられれば、ぐっと頭を押さえつけられ、喉奥まで彼のものが侵入してきた。
「うぐっ……! 」
強い吐き気を我慢しながらされるがまま、性処理として扱われることでさえ興奮したアンナは涙を零しながら受け入れた。
上から吐息混じりの声が聞こえ、それでさえアンナの下腹部を刺激する。自ら右手を下半身に伸ばし、ヒクヒクと刺激を求めるそこに触れる。
イラマチオをされながら自慰をするなど、どんな変態だろうかと嘲笑いながらも熱は収まることなく、刺激を与え続けた。
時に敏感な膨らんだ実をこねれば達しそうになった。
「ふぐっ、うっ……!」
イきそう、と思った瞬間頭を離され空気を大きく吸い込む。
「限界か」
そう言うゼフィランも獣の様な瞳で見下ろしていた。アンナは自分が何をしているのか一瞬忘れたが、ハッと我に返り、言い訳を取り繕うとするが言葉が出ず、脇に手を入れらればそのまま後ろの方へ押し倒される。ゼフィランも限界が近いのか眉間にシワを寄せながらスキンを取り出し、膨れ上がっ息子に着けた。そしてアンナの股をひらき、十分に濡れ、欲しがるそこへ侵入する。
「あぁ……っ! 」
指なんかよりも圧迫するそれに思わず悲鳴に近い喘ぎ声を漏らす。ゼフィランも前に乗り出し、顔を近づける。
「痛いか」
その問いに首を振る。そしてゼフィランの首に腕を回せばアンナの肩に顔をよせ、腰を振った。
それから時間を忘れるくらい互いを求めあった。
ゼフィランもアンナを気に入ったのか足りない、とスキンを何度か変えた。アンナはヘトヘトになりながらも求められることに嬉しさを覚え、気絶していた。
気付けば一晩経ってしまっていた。
まさかこんなに盛り上がるとは思ってもいなかったアンナはよく眠るゼフィランの寝顔を拝んでいた。だが、眠りが浅いのかすぐ気付かれた。
「……具合はどうだ」
「だ、大丈夫です……」
気を使ってくれるゼフィランにアンナは恋をしてしまったと自覚していた。だがあくまでこれは仕事の関係だと言い聞かせると、同時に失恋した。
それから身を清め、相場より多めに貰って部屋から出た。
──数週間後、再び彼の元へ訪れることになった。その時もまた長い時間彼の部屋にいた。
そして3回目の訪問時、ゼフィランはこう言った。
「明日から居なくなる。だから最後だ」と。
衝撃的な別れに動揺を隠せないアンナ。
仕事だからと割り切っていた心をズタズタに刻まれたような感覚だった。
「……そうなんですね……」
ただ出た言葉がそれだけであった。
二人の間に沈黙が流れる。
そしてアンナは顔を上げた。
「ゼフィラン様、お願いがあります」
顔を歪ませ涙を零しながらアンナは顔を上げた。
数日後──トールダン教皇の崩御がイシュガルドに伝わった。
また、蒼天騎士団12人の行方も分からないと同時に伝えられた。
それを耳にしたアンナは雨が降り出す中、声を上げて泣いた。
それから3年の月日が経ち、娼婦を辞めたアンナはウルダハに住処を逃げるように移した。
今はとある富豪の家政婦として働いている。主人たちは優しく恵まれた環境でイキイキとしていた。
アンナは買い出しに出るとふと足を止める。
前方に立っているフードを被ったエレゼン族の男に目が止まったのだ。
フードの隙間から見える金色の髪。
「ゼ……」
「ゼフィ! 」
アンナが声を出そうとしたその瞬間、背後から大きな声にかき消されてしまった。そして背後から走り抜けた少女に肩をぶつけられた。
「あっ」
リンゴが一つ地面に落ちてしまった。それを拾おうとすると「ごめん、お金払うからそれ貰っていい? 」としゃがんで顔を合わせた少女に言われ、返答する前に少し余るくらいのお金を置いてリンゴを拾ってエレゼン族の男の元へ走っていった。
綺麗な銀髪に赤い瞳の綺麗な少女だった。
アンナは立ち上がると、ふとエレゼン族の男と目が合った。綺麗なパステルグリーンの瞳だった。
「行くよ」
リンゴを持ちながら少女は男を引っ張っていく。
その様子をただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
愛したゼフィランはもういない。
彼は口付けを最後にいなくなったのだから。