長い夢を見ていた気がした。ふと目を覚ましたゼフィランは瞬きを数回。霞んだ視界が開けると、ふと横を見る。
横には白い髪の少女が無防備に寝ていた。ゼフィランは髪を一房取り、持ち上げるとサラサラと指からこぼれ落ちていく。雪のように白く綺麗な髪だった。
ゴロリと寝返りをうった少女の顔がこちらに向く。むにゃむにゃと言わんばかりに今日はいい夢を見ているのだろう。時々口角が上がる。
それを見つめていたゼフィランは白い首に指をかける。
軽く力を込めれば一瞬で少女の顔は歪んだ。
ヒューヒューと喉笛がなる。
まだ、死にはしない。ゼフィランは少女の顔を見下ろしながらさらに首にかける力を強める。
「がっ……!はぁ……! 」
少女は口を開き、空気を求める。さすがに目が覚めたのか血のように赤い瞳がこちらを睨みつける。少女は自身の首を絞める手を握り、抵抗する。
ゼフィランはあっさり首から手を離せば、少女──ツバキは拳をゼフィランに振りかざしたが、ぱしっと音を立ててそれは阻まれた。
「……燃やされたいの? 」
「貴殿の炎では燃え尽きるとは思えないが」
顔を青ざめ、睨みつけながら首を触るツバキをゼフィランは鼻で笑った。
ツバキは息を整えるとはぁとさらに大きくため息をつく。せっかく楽しい夢を見ていたのに、最悪……とゼフィランに背を向けて再び寝ようとする。
ゼフィランも仰向けになり、目を閉じた。
しばらく沈黙が流れる。が、口を開いたのはツバキだった。
「……ゼフィ」
顔を少しツバキの方に向ける。シーツの擦れる音が返答の代わりだった。
「朝ごはんフレンチトーストがいい」
「……また面倒なものを」
「甘いものが食べたいの」
「死んでいなければな」
ゼフィランのその言葉に「私は死なないよ」と呟いた。
すぐに寝たのを察してゼフィランは背を向けるツバキの後頭部をじっと見つめていた。
(本当に作らねば暴れられかねん……)
ゼフィランは再び目を閉じた。
そして朝日が昇る前に起きたゼフィランは約束のフレンチトーストを作るとツバキはにひっと笑い、かぶりついた。まるで子供のように。
それを片目にコーヒーを啜る。
──穏やかな一日が始まる。
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