鈴の鳴るような声の少女に声をかけられ、青年は声の主の方を見る。
そこには姿形こそはヘイザ・アロ族だが、瞳の大きさが明らかに違う、似て非なる少女が立っていた。その手には青年が落としてしまったであろうブルートボンバーのチケットを握っており、それを差し出してくれた。
「ということは、あんたも? 」
「うん、Bちゃん……ハニー・Bの応援に」
自分と同じ白髪の少女は照れながら頷いた。
「どうせだから一緒に行かないか」
マイトは自然と出た言葉に思わずハッと後悔した。初対面の女性にナンパと間違えられても仕方の無い言い回しをしてしまった事を慌てて訂正する。
「あっ、いや違……」
「大丈夫だよ」
「えっ」
青年は予想外にも快く受け入れた少女の反応に戸惑う。そして少女は「私もブルートボンバーくんの試合気になってたから」と言ったのだった。
「そ、そうか……俺もハニー・Bの試合、一緒に見に行っていいか」と様子を伺いながら問うと花が咲いたように笑顔を見せて「もちろん!」と返答が来た。
年齢も恐らく近いであろう2人はすっかり意気投合した。
「俺はマイト。あんたは? 」
「私はノア。ノア・リゼ。あなたはソリューション9の人なの? 」
先にハニー・Bの試合があり、ハニー・Bの試合は彼女の毒に当たると事故が起きるため、モニター越しの観戦となっている。
空いているテーブル席に着き、会話を弾ませる。
「いや、俺はここの住人じゃない。いわゆる外の世界の人間だ」
「そうなの!?私も一緒! 」
「あっ、生身の挑戦者たちじゃねえか! 」
つい声を張り上げてしまったことで、周囲にバレてしまった。2人は困惑した顔で互いを見つめる。
「今日はオフだから……」
「一個人として見に来てるの、ごめんね」
と周囲に説明すると納得したようで、同時に始まった試合の方に注目が移動したことにより事なきを得た。
画面の中からかつて戦ったことのあるハニー・Bの声が聞こえてくる。それからリング内に響き渡る歓声とモニター前にいるハニー・Bを応援する皆が黄色い声援を送る。
それに圧倒されるマイト。もちろん隣に座っているノアもいつの間にか黄色いペンライトを腕が引きちぎれるのではないかとばかりに振り回していた。
「Bちゃーーーん!今日も可愛いよーーーー! 」
周りに負けずノアも大声を出す。意外と熱烈なファンであり、先程までのお淑やかな印象とはギャップがありすぎた。
モニターに齧り付くはいわゆるガチ恋勢であろう者達で占めており、ポカーンと呆気にとられるマイトのことなど眼中にもない。
彼女の劇毒の愛という二つ名は間違っていないようだ。
可愛らしい様相と声は自然と耳に残る。だが、彼女も結構負けず嫌いな為、本性を出してもそれも含めてファンは愛しているのだろう。
結果としてはハニー・Bの勝利であった。モニター前は大騒ぎで、ノアも立ち上がって喜んでいた。
「すごいな……」
熱気溢れる会場に押されたマイトは人酔い状態になり、観戦部屋から出たのであった。
外に出ると大きく息を吸った。圧迫感のあった部屋から解放され、体調はすぐに戻った。
「マイトくん! 」
背後からノアの声が聞こえてきた。
「ごめんね、具合悪かったの気付かなくて」
「いや、すぐに治ったから平気」
「Bちゃんのことになると周りが見えなくなっちゃって……」
「その気持ち分かるな」
ふふっと笑いかけると、ノアは何か閃いたようだ。
「ボンバーくんの試合ってまだ時間あるよね」
「ん?あぁ、まあ……」
「モザイクコーヒー行かない? 」
気分転換の促しだろう。断る理由もなかった為、2人はモザイクコーヒーに向かった。
ノアは甘いキャラメルラテ、マイトはコーヒーを頼んだ。ノアが「さっきのお詫び」といい、マイトにコーヒーを奢ったのだった。
近くの席に座り、一息つく。静かな時間が2人を包んだ。
ほんのり香るコーヒーと甘いカフェラテの匂いが漂っていた。
「ねえマイトくん」
「ん? 」
「あなたは何故冒険者になろうと思ったの」
ノアの問いかけにマイトは考えた。どう答えればいいのだろうかと悩んでいるとノアは焦った様子で「あ、急に聞かれても困るよねごめんね」と謝った。しばらく間を置いて「私はね」と話し出した。
「私は……災害でお母さんと左腕を無くして、それから生きている意味が分からなくて、それでも助けてくれた人がいたからその人が後悔しないようにって生きてきたの……。それでね……」
そこまで呟くと黙って俯いてしまった。だがマイトは催促はせずにじっとノアの方を見つめていた。
「俺は……俺も両親と妹を霊災で亡くした。俺1人になったから後を追うつもりだった。だけど、いい死に場所が見つからなくて、気がついていたら旅をしてた」
マイトの言葉にノアは顔を上げる。
「マイトくんも辛い思いしたんだね……」
「あんたもな」
二人とも苦笑を浮かべる。
「でもさ、あんたも長い旅をしてきたんだろう。それで、推しってやつに出会えたんだよな」
「……うん、Bちゃんは私にとって太陽みたいな人。自分を見失っていた私に希望をくれた人なの」
「そうだな……俺も、ブルートボンバーに出会って、世界が変わった気がするな」
ぼんやりと変わらない空を見上げる。
「俺たちってさ、なんなんだろうな」
「え? 」
突然の質問にノアは目を丸くする。マイトは乾いた笑いを浮かべ、「俺"たち"は世界を救った。もちろん1人でじゃない。だけどよ……みんなに頼られて、手助けするのが当たり前になっちまったよな」
ノアにも心当たりがあった。胸に手を当て、思い返す。
「俺たちが出会いたかったのは、英雄として扱わない相手だったのかもな」
「そう……だね」
「おっと、悪ぃそろそろ行こうぜ」
マイトは立ち上がると振り向き、ノアに手を差し出す。差し出された手を握ると引っ張られ立ち上がらせられた。そしてそのまま手を握りながら会場へ走り出した。