※にわかが思いつきで書いただけなので誰かええ感じに書いてください。

それは些細なきっかけ──も、なかったはずだ。
本当に唐突に訪れた事件。
否、もしかするとそれは遅かれ早かれ起きていたことかもしれなかった。
変化に早く気づいてやれれば、なんて情けない自分を何度責めただろう。

「ぼっちゃま大変です! 」
早朝から仮眠部屋で寝ているステファニヴィアンの部屋の戸を激しく叩きながら呼びかける女がいた。
ステファニヴィアンはジョイに呼び起こされ、ふらつきながらドアを開けた。
「どうし……」
「お休みのところ申し訳ございません、ですが緊急事態なんです。ゼフィラン様が── 」
まだ脳みそが起きていないため、半分寝ぼけながら聞いていたが、次の言葉を聞いた瞬間、メーターが振り切ったように覚醒した。
「今どこに」
「工房のすぐそばです! 」
「分かった」
二つ返事でジョイの後を走ってついていく。
工房を出てすぐ傍だった。数人の男たちが必死に押さえつけている。
「落ち着け! 」
「う゛ぁぁっ」
「ゼフィラン卿! 」
「ボン!」
ステファニヴィアンの元で働く数人の男たちは暴れているゼフィランを地面に押さえつけていた。ゼフィランは普段冷静沈着な男だ。だがしかし、今は唸り、複数人に抑えられてなお大人しくする様子が見られない。
「何があった」
「急にこの方がうずくまったので介抱しようとしたら、襲われて……」
チラリと視界に映ったのは座り込んでいる工房員の1人だった。もう1人が必死に看ているようだが随分ぐったりしている。
「ゼフィラン卿」
ステファニヴィアンは立ったままゼフィランを見下ろす。
ギロリと睨みつけたその目は赤く染っていた。
唇を噛み締めているのか口端から血が流れていた。
彼は明らかに異常だった。
「ゼフィラン」
声をかけても唸り声をあげるばかりで返答がない。
「どうしたんだい、君はそんな男じゃないだろう」
そう言うと、ゼフィランは目の前の工房員の腕に噛み付いた。
「うわぁぁぁ! 」
ちょうど露出されていた素肌に歯型をつけられ、痛みから飛び退いてしまう。他の男たちも耐えられず、ゼフィランが勢いよく起き上がった衝動で後ろに尻もちをついた。そしてゼフィランは手に持っていた小刀を握り、ステファニヴィアンに向かって突進する。
しかし動揺することなく、刃を向けたその手を握り回避した。ほんの少し切っ先が耳に当たり、小さな傷を付けじわりと傷口は広がり、血が少量滴る。
それも気にすることなく手を捕まれ抵抗するゼフィランを落ち着いて見る。
「……テンパードの後遺症かな」
「ぼっちゃま……」
敵意はステファニヴィアンに向けられた事で、負傷者の手当も含め工房員は一旦引き下がる。
だがステファニヴィアンはアインハルト家の息子であるため、数名はいつでも止めに入れるように警戒する。
唸り声をあげながら掴まれた右手をどうにか振り払おうとするが、どうにも出来ないゼフィランに対しステファニヴィアンは声を張り上げた
「ゼフィラン・ド・ヴァルールダン 」
その声量は街中に響いた。周囲の者だけでなく、己の名を呼ばれたゼフィラン自身も体を震わせる。
「君は誇り高き騎士だ」
優しく諭すように、だが敬意は忘れない。ステファニヴィアンにしか出せない声色にゼフィランの力が緩まる。
「ステファニヴィアン卿……」
「……おかえり」
自分を取り戻し、落ち着いた様子のゼフィランを見るなり優しく微笑んだ。何が起きたのか自分でも理解したのか、持っていた小刀を手放せばカランと地面に落ちる。そして顔を酷く顰め、
「私、は……私は……っ」
「大丈夫だよ、君が自分とずっと戦っているのは分かっているさ」
涙ぐんだゼフィランを優しく抱きしめる。ステファニヴィアンの胸の中で静かに泣いた。
「ゼフィラン卿、もし俺が止めなかったら君はウチの工房員を殺していたかもしれないし、その時はさすがの俺も怒りで君に酷いことをしていたかもしれない 」
「……その時は貴殿の手で……」
「いいや、そんなことは出来ないさ」
抱きしめた手は微かに震えている。そして感情が昂ったのか抱きしめる力は増した。それでもステファニヴィアンは冷静さを取り繕う。
「例え君が俺を殺したなら殺したことに対して尚のこと後悔するだろう? 」
「あぁ…きっとそうだろう」
「……死なないよう努力はするよ。君を止めることが出来るのは俺だけだからね」
さあ体も冷えたから工房に戻ろう!と明るく振る舞い、離れた。ゼフィランはあぁ、と小さく返答すれば先に工房の中へ入っていった。
その背中を見送った後、ステファニヴィアンは彼の手を握っていた手袋を見つめる。
そこには乾いた血の跡があった。そして、固い床にも数滴の血の跡が。

きっと暴走する自分を必死に押さえ込もうとしたのだろう。
真面目な彼のことだ。被害が及ばないように外に出て、自ら傷つけ血を流したのかもしれない。
彼は工房員を、他人を傷つけないように努力したのだ。

(今のゼフィに必要なのは、自分に優しくする心かもしれないな)

12年前にすれ違った時に、教皇猊下に対し曇りなき眼で見つめていたのを思い出した。
彼の生きる標となっていた猊下はもういない。
それなのに奇跡か偶然か、それでも彼は復活した。そんな奇跡を起こしてしまったのは自分自身だった。
テンパードとして消えない痕を残したまま彼はこのまま生きていく。
きっとこの先も自分自身と戦いながら生きていくだろう。

──それでも俺は……

「おーい、ボン! 風邪ひくぞ〜」
「あぁ、今行くさ」

拳を握りしめ、工房に駆け込む。
すると皆が暖を取りながら温かなスープを飲んでいた。もちろんその場にゼフィランもいる。余程寒かったのか鼻の先が赤くなっていた。
スープをすすりながらチラリと見た彼と視線が合う。

(俺がこれからは守る)

そう誓うと和の中に入った。



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余談
本当は剣を握ったステファニヴィアンとゼフィランのタイマンを書きたかったんですけど解釈違い起こしそうでやめました。というかそこまで書く技量が無かったので、誰か書いてください。フリーイデアです。
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