「ゼフィっ!! 」
名を呼ばれ、振り向いた。その時に広がったのは赤い、紅い──……
「ツバキっ!!!」
アリゼーの声が聞こえる。グ・ラハ、アルフィノ、面々が 俺の傍に駆け寄る。
身体が固まっており、視線を動かすことしか出来なかった。下に目を向けると、白い雪の上に、真っ白な服のツバキが、鮮やかな赤色を散らして倒れていた。
「……っ」
声を出そうにも喉が震えて声が出せない。アリゼーが酷くしゃがれた声でツバキの名を何度も呼ぶ。アルフィノ、ウリエンジェが必死に手当する。
「おい、しっかりしろ! 」
「酷い出血……このままじゃ……」
「イヤよ!お願い! 」
「……ツバ……キ……」
ようやく動いた体は膝から崩れ落ちた。そして、倒れた細い体を抱きしめる。だんだんと冷たくなっていく身体を温めようと必死になった。
「ゼ……フィ……」
血を吐きながら名を呼ぶ。困ったように笑いかけられ、ツバキにも自分にも、苛立ちが収まらない。
「何故私を庇った!? 」
あれほどと、また叱りそうになるとツバキは震える手で私の頬に触れた。その手は雪のように冷たかった。
「……ごめんね……」
「もってくれ……頼む……! 」
「大好き……だよ」
「だめ!ツバキ!しっかりして! 」
「ツバ……キ……」
「いけません!しっかり気を持ってください! 」
ツバキはふっと笑うとゆっくりと目を閉じ、頬に触れていた手が滑り落ちた。
「ツバキ、しっかりなさい! 戻ってきて! 」
「嫌、嫌よ! 」
「おい、ツバキ!ツバキ!! 」
「しっかりしろ!相棒! 」
身体が冷えていく。徐々に固くなる身体を受け入れられなかった。

──何故彼女が死んだ?

「……! ゼフィラン! 」

──何故、俺じゃないんだ

「ゼフィラン、待て! 」

──あぁ、

「ゼフィラン……あなた! 」

──神は

「待って、ゼフィラン! 」

──イナイノカ

視界が徐々に暗くなる。体の中から燃えるような痛みが走る。ただただ彼女の身体を強く抱き締めた。


◇◇◇


ゼフィランを包んだ黒いモヤはいずれ風を巻き起こし、周囲にいたものを吹き飛ばした。
次の瞬間、暁が目にしたものは、翡翠の瞳の真っ白な竜だった。

「嘘……」
「あいつまで化け物になりやがった」
その異常さにすぐに立ち上がり武器を構える。
白い竜はその口にかの光の戦士を咥えていた。
そしてその竜はそのまま赤く燃える空へ飛び立って行ってしまった。
「待て!! 」
「待ちなさい!! 」
「クソッ!! 」
その飛び上がるスピードは高く、竜騎士であるエスティニアンですら追いつけなかった。
その竜はどこへ向かったのか誰も分からない──……。


◇◇◇

長い旅を経て白い竜が見つけたのは、草花が茂るまるで天国のような場所だった。
白い小さな花畑の上に降り立ち、口に咥えていたそれを地面に寝かせる。時間が経ったにも関わらずそれはあの日のままだった。竜は固く動かなくなったそれに鼻を擦り寄せる。そしてまるで卵を温めるようにそれを翼で寄せ、丸くなって眠った。

竜は遠い記憶を夢に見た。
──ゼフィ

それが自分の名前かどうかすら覚えていない。
ただ、その名を呼ぶ少女を愛していたことだけはずっと覚えていた。

──大好きだよ

その竜は光に包まれ、だんだんと身体が小さくなる。やがて人の形になったそれは金色の髪を持つ青年へと変貌する。
翼は無くなり、人間の両腕が現れる。
そしてその手で安らかに眠る少女を抱き締めた。
言葉を忘れた青年は声をかける代わりに優しく口付ける。唇が離れると自身も横に倒れると、手を握り、そっと目を閉じる。
そして少女の最期の言葉を何度も思い出しながら安らかな笑みを浮かべて永遠の眠りにつくのであった。
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