思わず振り向くと至近距離に声をかけたであろう人物がいた。
「えっと……? 」
顔の近さに思わず後ずさるノア。
黒髪をツインテールにした少女は赤い瞳を輝かせていた。
彼女に見覚えはない。アルカディアの闘士のファンであろうか。
結論的に出した結果を口にする前に目の前の少女は答えを出した。
「あたしはキャリー☆メテオ。アルカディアの闘士だよ☆」
まさかの返答に大きな声で驚いた。
キャリー☆メテオと名乗った少女はどうやらハニー・B・ラブリーの幼馴染とのこと。彼女と同じくアイドルをしているらしい。ついでに魔物の魂はスプリガン。
「へ、へぇ……」
ハニー・Bにゾッコンなノアにとって、キャリーは推しのライバルということになる。一方的にマシンガントークを繰り広げるキャリーの言葉は一応聞いていたが、そこまで関心を得られなかった。
「ハニー・Bとはね、昔一緒にアイドル組もうね?って仲良くしてたんだけどね……」
「そうなんだ」
「だけど、私よりハニー・Bの方が可愛くて……置いていかれちゃった」
酷く落ち込んだ様子の彼女にノアは慰めの言葉をかけようとしたが、どう答えるのが正解か分からなかった。
「あのね、お願いがあるの」
俯いていた顔を急にあげ、手を強く握られる。その勢いに負け、小さな悲鳴を上げてしまった。
「私と戦って? 」
「へ? 」
「私と対戦してってこと☆」
「えっ、えっ? 」
何故そうなる?と疑問符でいっぱいになった。キャリーは続けて言う。
「あたしの人気を上げるためにはまずあたしのことを周知してもらわないといけないからあたしと対戦して、生身の挑戦者と戦った闘士として有名にしてほしいの」
お願いとあざとく首を傾げておねだりする。ノアにとって戦うことはあまり好きではないが、こうも頼まれてしまっては断るに断りきれないのだ。
「う、うん……いいよ」
躊躇いながらも返答すると嬉しさのあまり抱きつかれた。
距離感がバグっているキャリーがどうにも苦手なようだった。
後日、急遽メテムに相談し、特別試合を行うことになった。
『生身の挑戦者、またもや闘士に戦いを挑まれたー! 』
などとメテムの実況に会場は湧いた。実はこの事は誰にも話しておらず、ヤーナにすら相談していないのだ。
つまり、筋トレルームや控え室、街中のモニターに映し出されたキャリー☆メテオと生身の挑戦者ことノアたちの戦いは今知らされたのであった。
「「「は? 」」」
ノアを知る全員がモニターに映し出された光景に唖然とする。
『キュートなバニーは星を降らす! キャリー☆メテオの登場だーーー! 』
「今日も宇宙と更新中〜。みんなの頭に星を浮かべちゃうよ〜☆」
レギュレーターを使いスプリガンの魂を注入する。
彼女のトレードマークのツインテールにさらに生えたふわふわのうさぎの耳、そして黒いシャツとボレロにショートパンツ、腰に花などを添えたポシェット、サイハイソックスにブーツという格好だ。
ノアは7人の挑戦者のデータを呼び起こす。
彼女はスタンスをオンにし大剣を構えた。
「手加減無しでいくよ〜☆」
一方その頃。
『ちょっとどういうことよ! 』
ヤーナはリンクパール越しに聞こえる怒号に耳を痛めた。
「わ、私も知らないんだって! 」
『なんでアイツがノアと戦ってんのよ! 』
「アンタは聞かされてなかったのか? 」
「ほ、本当に知らないというか私もびっくりしてるって……」
「おかちいでちゅね、今日のちあいは入ってなかったはぢゅでちゅけど」
たまたま筋トレルームにいたダンシング・グリーンとシュガーライオットも会話に参加する。
『アイツはね!いっっっっつも私に嫌がらせしてくんの! 』
「あー……なんか言ってたね、変な薬盛られたとか」
『下剤盛られた時は本当にサイアクだったんだから!! 』
うわぁ……と嫌がらせの悲惨さにドン引きする2人。
『今私ライブツアーで忙しいから早くノアを捕まえて!そんでアイツをボコして! 』
「ボコすのは無理だけど、捕まえて保護するのは努力しま……」
『努力じゃねぇよ、絶対しろ! 』
そう怒鳴りつけると同時に通信が途切れた。かなりお怒りのようだ。
「…………」
「だ、大丈夫か? 」
「ダンシング・グリーン、シュガーライオット」
「おう……」「なんでちゅか」
「ノアを今すぐ保護しないと私たちはBセンパイに殺される」
「「ら、ラジャー」」
恐怖に怯えきったヤーナの表情から察した2人はピッと敬礼をしたのであった。
『決まったー! 挑戦者の勝利ーーー! 』
「むきゅ〜……」
パタリと倒れるキャリー。壊滅寸前により疲労困憊の挑戦者たちは勝利に武器を収め、喜んだ。
そして会場から全員が出ると待ち構えていた3人が一斉にノアの元へ駆け寄る。
「「ノア!! 」」
ヤーナだけでなくダンシング・グリーンやシュガーライオットまでいたことには大変驚いた。1番近かったヤーナがノアの手を握り、ノアを引っ張り駆け出す。
「ちょっ、ヤーナ!? 」
「Bセンパイに呼び出されてるんだ! 」
(Bちゃんが……? )
何か急用だろうかと疑問に思いながらもノアはのんきに会えることに喜びを抱いていた。
控え室に駆け込むとあとから遅れて2人もやってきた。全力疾走をした為全員が息を整えていた。
ようやく落ち着くとヤーナはリンクパールで誰かに連絡をとる。
「何とか保護できた……」
うん、うん、と相槌をしばらく打って通信を切る。
何故3人も自分の元へやってきたのか分からず顔を見ているノアにヤーナは口を開く。
「ノア」
「うん」
「キャリー☆メテオとどこでであったんだ」
「えっと、向こうから声をかけられて……それで、売名目的の為に私と試合したいって」
「まじか……」
「とりあえじゅ、なんか変なことを企んでるようではなかったでちゅね」
「ったく……お人好しなんだからよ……」
久々に走ったせいか随分項垂れているダンシング・グリーンとシュガーライオットの2人は安心の笑みを浮かべた。
「なんで、そんなに慌てて……」
「あんたが緊急試合してたのを全員見ててBセンパイから"ノアを今すぐ確保しろ!じゃないとぶっ殺す"って脅された」
この説明何も間違っていないのである。
ヤーナはもうすぐハニー・Bが来ることを伝えるとノアは彼女に会えることをとても喜んだ。
「そろそろ俺たちも試合あるから」
「あ、ありがとう二人とも」
「もうへんなことはしないんでちゅよ! 」
2人はじゃっとノアとヤーナに手を振り自分たちの試合会場に向かった。
「とりあえず、キャリー☆メテオには気をつけなー?Bセンパイの恋人である以上はね」
「なんで……? 」
「そりゃBセンパイのライバルアイドルだし、それに……」
「あー!ここにいたー! 」
背後から大声が聞こえ思わず体が跳ねる2人。
振り向くと、ニコニコと笑顔を浮かべたキャリー☆メテオが立っていた。
噂をすればなんとやら。まさに話をしていた相手が登場したことに焦りを覚える。だがキャリーは気にもせず、ノアの隣に座り抱きつく。
「ノア探したんだよ〜? さっきの試合楽しかったね〜? それにやっぱりノア強かった〜。まるで別人みたいにかっこよかったし〜 」
まるで猫のようにノアに頬を擦り寄せる。その光景にヤーナも口出ししようかと思えば、ギロリと赤い瞳はこちらを見つめてくる。
「邪 魔 す ん な」と口パクで言われその恐ろしい形相に縮みこみ何も言えなかった。
「あ、そういえば美味しいクッキーとジュースの差し入れ持ってきたんだよ〜」
「えっ」
ノアは差し入れに喜びを隠せなかった。純粋故に疑問も持たないのだろう。キャリーはノアにクッキーの入った袋とジュースを差し出す。
「ふたりでカンパーイしよ☆」
「えっ、でもヤーナの分は……」
「いいからいいから☆」
ヤーナのことは眼中にない。そこにいるのに存在を無視されている。ヤーナにとっては屈辱でしか無かった。
「で、でも」
「はい、飲もう〜☆カンパーイ! 」
ノアの言葉など遮り、無理やりドリンクをぶつけてキャリーは二口ほど飲む。
勢いに負けたノアも恐る恐る口をつけようとした。
その時だ。
「待ちなさい! 」
聞きなれた声が聞こえ、全員が入口を見る。
そこには鬼の形相のハニー・B・ラブリーが立っていた。
「Bセンパイ……! 」
「Bちゃん! 」
ヤーナは安堵から泣きそうになり、ノアは恋人が来たことに純粋に喜びを表した。
一方キャリーは……。
「何〜? 今からふたりでイイコトしようとしてたのに〜? 」
「アンタ……ノアにまで薬盛る気!? 」
ズカズカと近づいてきたかと思えばノアからジュースを取り上げる。そして、それをドンッと机に叩きつけるように置いた。
何も分からないヤーナとノアはビクッと体を震わせるばかりだ。
「別に〜? ちょっとまたたび入れただけ〜」
「盛ってるじゃん!! 」
「飲んでふわふわなってるノアとイチャイチャするつもりだったんだけどね〜☆」
「ぶっ殺す……」
殺意に満ちたハニー・Bのレギュレーターは赤く光機械音を出す。それを察知した2人は必死に止めた。
「Bセンパイダメだって!」
「Bちゃん落ち着いて! 」
「離して!コイツ1発殴らないと気が済まない! 」
暴れるハニー・Bを2人がかりで押さえつける。それを見たキャリーはくすくすと可笑しそうに笑った。
「アハッ、無様☆」
「キーーーっ!! 」
ハニー・Bが2人に押さえつけられてる間にキャリーはその場から立ち去った。
しばらくして落ち着いたハニー・Bと疲れ果てた2人はぐったりとしていた。
「……ノア」
「ひっ!……は、はい……」
ドスの効いた声で名前を呼ばれ飛び上がる。
するとニッコリと笑みを浮かべて、「今日は私の部屋に来なさい」と言ったがその目は笑っていなかった。
普段ならお泊まりに喜んで行くノアだが、今日は断りたかった。しかし拒否権はなく、「はい……」と受け入れるしかなかった。