※パッチ6.0と6.1の間くらい
朝日がカーテンから差し込む部屋の中、ベッドの上でモゾモゾと動く物体があった。その生き物は掛け布団から頭を出すと首をゆっくり左右に振る。
寝起きの瞼はまだ開ききっておらず、「ん〜…」と声を出せば起き上がった。
「ゼフィ……? 」
起き抜けの声はなんとも幼稚な声だった。まだ完全に開かない瞼と眠気に負けそうになりながらも
時間をかけてやっと覚醒する。
隣で寝ていたはずの恋人は既にいなかった。
傍にあった時計を見ればまだ7時を過ぎたばかりだ。
木人叩きに行ったかなぁといつもの彼の日課を思い出せばベッドから降りた。肌寒い空気に身震いする。
耳をすませば、外の方から木人を叩く音が聞こえた。
カーテンを開けば強い朝日が部屋に差し込み、思わず目を腕で隠した。手でかざしながら庭の方を見れば、寒いだろうに薄着で愛用のシャッタードハートと名付けた大剣を振りかざすゼフィランの姿があった。
「ゼフィ〜」
窓を開けて彼の名を呼ぶ。冷たい風が部屋に吹き込んだ。呼ばれたことにすぐ気付いたのか、ゼフィランはすぐに大剣を収めた。そして、何も言わずに部屋へと戻ってくるのだった。
今度は窓を閉めて入口に向かって走る。それと同時に開かれたドアの向こうの人物に飛びついた。
一瞬まさかの事態に受け止めよろめくがなんとか体勢を整える。
「お前は……」
抱きつく恋人に呆れつつも、ほんのり暖かな体を抱きしめた。すると、ツバキは「お腹空いた」と空気を読まない発言をする。
いつまのことだが、憎めないその態度に苦笑しつつ、「朝ごはんにしよう」と抱きしめる腕をほどけばツバキはすぐに暖炉に向かい、火をつけた。
「今日は出かけてくる」
「珍しい」
トーストと軽いサラダを向かい合って食べながらそんな会話をする。ゼフィラン一人で出てくることは最近では珍しいことだった。
彼は表向きは行方知れずとなってしまった以上、表に出ることを控えていた。だが冒険者であり光の戦士であるツバキと同行する以上致し方ないことだが。
世界を終末から救ったツバキ。かつて彼女を屠ろうとした彼は数奇な運命により彼女の恋人になった訳だが。
ゼフィランは一瞬だけ視線を横に向けた。だがほんの少しの間だけだったため、ツバキは気付くこともない。今は目の前のご飯に夢中だった。
食べ終えればツバキは手を合わせて「ごちそうさまでした」と笑顔で言う。ゼフィランもそれを真似して小さく呟いた。
食器洗い担当はツバキの方だ。それを任せると早速ゼフィランは出かける支度をした。
「ゼフィ」
背後から声をかけられ、振り向く。深く被ったフードの越しに目が合った。
「いってらっしゃい」
「あぁ、いってきます」
まともにこの挨拶をしたのは初めてだった。その事を実感すると、なんだかくすぐったい気持ちになったのだった。
──数時間後、ゼフィランが帰宅すると部屋にツバキはいなかった。ツバキが一人で出かけることはたまにあるのだが、手に持つものを渡すタイミングを見計らわなければならない。
帰宅と同時に渡すつもりだったため、少し緊張していたのだが、脱力する。
「どこに隠すべきか……」
てっきり二度寝していると思っていたばかりに油断していた。だが、まあいいかと考えを改めて着替えるのであった。
さらに数時間後に扉が開かれる。
「ただいま〜…ってあれ? 」
ツバキが帰宅するも今度はゼフィランがいない。
まだ帰ってないのかな、と部屋に足を踏み入れた瞬間、
「ツバキ」
「うわぁぁぁ!!」
まさかの横から声をかけられ、酷く大きな声が出てしまった。思わぬ出来事に心臓が破裂しそうな程バクバクと脈打つが、ふと見たゼフィランの手には赤い薔薇の花束があった。
そしてゼフィランは目の前で跪くとそれをツバキに差し出す。
「あっ……えっ」
「今日はダズンローズデーだ」
「……ナニソレ」
「12月12日。12本、1ダースのバラを大切な人に贈る日だそうだ」
"大切な人"というワードが何度も頭の中でこだまする。そして差し出された薔薇の花束を受け取ればゼフィランは立ち上がる。
「わざわざこれを買いに……? 」
「ツバキ」
名を呼べば優しく抱きしめる。
「それこそ最初の頃はお前を何度も恨んでいた」
「……知ってる」
「だが、共に過ごすにつれて、お前という存在が俺の中で大きくなっていった」
「……うん」
ゼフィランの言葉に静かに耳を傾ける。ツバキは感じ取っていた。ゼフィランの身体が微かに震えているのを。いつもなら冗談めした声でその点について突っ込むのだが、いつも以上に真剣なその声に、今はじっと我慢した。
「あの時俺がどれだけ未熟か、痛いほど実感させられた」
ツバキ一人が終焉を謳うものに立ち向かった時、暁と共にラグナロクへ強制送還されたゼフィランもまた悲痛な叫びをあげていたと後に知った。
「今度は、ちゃんと俺に守らせて欲しい」
「いつも守ってくれてるじゃん」
ツバキは贈られた花束を優しく抱きしめる。
「大好きだよ、ゼフィ」
「……あぁ」
揺れ動いていた瞳は瞼によって伏せられた。