イシュガルド下層にあるスカイスチール機工房。そこでは変わらず部屋の中は蒸気で熱され、歯車が忙しく働き、また人も汗だくになりながら動く。年中寒気に包まれたイシュガルドの外気に比べれば暖かいといえばそうだろう。
その中で指揮を取り、自らも設計図を書く青年──ステファニヴィアンの姿があ……るはずだった。
「そういえば工房長はどちらにおでかけですか? 」
「あー……実家に? 」
どこか考えた返事を返した工房員に「そうなんですね」と短く返答すると、荷物を外に運び出した。
かの光の戦士であるココは女性であるが男顔負けの力持ちであり、重い荷物を今日も運んでいた。
彼女の恋人であるステファニヴィアンに心配からやめるように何度か言われたが聞く耳を持たず、結局折れたのはステファニヴィアンの方だった。
ココは冒険者として忙しい傍ら、恋人であるステファニヴィアンが主となって働くスカイスチールの手伝いを常にしていた。
朝からそういえば見かけていないな、とココは振り返る。彼は徹夜で工房に籠ることがあるため、仮眠で不在かと思いきやそうでもないらしい。
(実家……珍しい)
父親であるボランドゥアン伯爵とあまり折り合いが良くない。以前よりは関係は修復されているが実家であるアインハルト家に帰るのを躊躇っている。そんな中で実家に帰省するということは何かあったのだろうかとどこか心配な気持ちもあった。
「そんなたいそうなことじゃねえから心配すんなって」
考え込むココの様子にケラケラと笑われた。それほどまでに深刻な表情をしてしまっていたことに対し、すみませんと謝罪する。
「まぁ、忘れ物取りに行くわくらいのものだから」と言われればホッと安心する。
気持ちの切り替えが出来たココはよいしょと荷物を持ち運ぼうと手を伸ばした時だった。
「ココはいるか? 」
機工房の扉が開かれ、寒気が熱された部屋に吹き込んでくる。一瞬身震いするが、入ってきた人物にココは驚いた。
「ヒルダさん!? 」
黒髪をポニーテールにした赤眼のエレゼン耳を持つ女性、ヒルダだった。彼女はよっと軽く挨拶すると、ココの方に近づく。
「ステファニヴィアンのヤツから伝言を預かってんだ。ラストヴィジルの方まで来てくれってよ」
「私に……ですか? 」
戸惑うココを見るなり、ヒルダは周りの工房員を見渡す。「繁忙期じゃないならアタシがココの代わりに使えるよな? 」と聞けば「もちろん」と全員が喜んで受け入れたのだ。
その様子に工房から離れることに躊躇う様子のココに対し軽く背中を叩く。
「ステファ二ヴィアンが待ってんだ、早く行ってやれ」
にっと笑いかけたヒルダに対し、小さく頷くと工房から走り去っていった。その背中を見送り、静まり返った機工房内では蒸気の音だけが聞こえてきた。
「さて」とヒルダが背伸びすると、「あの二人が帰ってくる前にやっちまうか! 」と意気込んだのだった。

◇◇◇

ココは雪が降る中、走り抜けた。都市内エーテライトを使い、ラストヴィジルに向かう。
だいぶ全力で走ったので息切れを起こしていた。
ここにステファニヴィアンがいると聞いたが、姿は見えなかった。
切れた息が整った頃、ココは辺りを見回す。すると、コツコツと足音が聞こえてくる。
振り向くと、そこにはエレゼン男性──ステファニヴィアンがこちらに向かってくる。
その姿はいつものマシーナリー装備ではなく、暖かそうな、高級なコートを身にまとっている。
そして、何よりもその手に持つものに目がいった。
「急いできてくれたんだね」
そう言って微笑むステファニヴィアンと向き合ったココは見上げる。彼が手に持つ物、大輪の赤いバラの花束と顔を交互に見やった。
「えっと……」
「今日ってさ、ダズンローズデーって言うんだって」
元々美青年なステファニヴィアンだが現在の普段とは違う格好に思わず見惚れ、褒め言葉を口にしようとするも、緊張し言葉が出ない。
その様子を見たステファニヴィアンはふっと笑いかけ目の前にひざまずいた。
そして手に持ったバラの花束を差し出す。
「愛する人に12本のバラを贈る、これが俺からの気持ちだ」
ココは震える手で受け取る。それを片手にステファニヴィアンに抱きついた。
予想外の行動に驚きつつも、抱きとめる。嬉しさのあまり感極まって泣き出したココを優しく慰めるのであった。

「綺麗ですね、このバラ」
「ウチで育てたバラだからね」
思わぬ言葉にココはギョッと目を丸くし、隣に立つステファニヴィアンの方を見上げる。
「そそそそそそそそんな良いものを頂いていいんですか!? 」
「もちろん許可はとったさ。それに、ただ摘み取る物じゃなくて、大切な君に贈るものだと言ったら喜んでくれたくらいだよ」
大切な……という言葉に顔を赤らめるココ。恋人という関係の名前にだいぶ慣れてきたが、それでも嬉しく恥ずかしい気持ちはまだ残っている。
「今日は二人でゆっくり過ごそう」
「えっ……でも」
「むしろそうしろとみんなに怒られてしまったんだ。あのヒルダにもね」
苦笑を浮かべるステファニヴィアン。名前が出たヒルダの顔を思い浮かべれば「行ってやりな」と背中を押してくれた姿を思い出した。
「ステファニヴィアンさん」
「ん? 」
少し屈んで貰えますかとお願いすれば腰を曲げて顔を近付ける。すると、頬に手を添えられ頬に触れるだけの口付けをされたのだった。
「ありがとう……ございます」
顔を赤くして照れをごまかすように笑ったココはまるで少女のように可愛かった。
ステファニヴィアンは瞬き数回すれば口角をあげて「唇のほうじゃないのがココらしいね」と笑ったのだった。
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