東部森林の奥にそびえ立つ十二神大聖堂。
ここでは神々の祝福を受けた二人が久遠の絆を結ぶ──エターナルバンドの式場だ。
エターナルバンドは男女だけでなく、同性同士でも挙げられることで有名で、婚姻の絆だけでなく、生涯共に背を預ける相棒との絆を誓うことも出来る。

控え室にて光の戦士、ツバキは不機嫌そうに口に含んだ飴玉を転がしていた。
真っ白な髪と白い肌に負けないほど純白なドレスとヴェールを身にまとった少女は今日の主役であるのだが……
「お腹空いた」
燃費の悪い体質なツバキは空腹に苛立ちを覚える。お菓子を食べたかったのだが、もうすぐ式の寸前ということもあり、1番汚すことが少ないであろう飴玉──しかももう5個目を口に含んでいた。
傍にいたスタッフも思わず苦笑してしまう。
イライラを隠せないツバキは控え室のソファーに座り、腕を組みながら時間が経つのを待っていた。
「ツバキ様」
傍にいたスタッフが声をかける。チラリと見やるとしゃがみこんでツバキの顔を見た。
そのスタッフはエレゼンの女性だった。彼女は小声でこう呟く。
「私事で申し訳ありませんがお尋ねしたいことがあって」
「何」
「ツバキ様のお相手のゼフィラン様は……あの蒼天騎士団のゼフィラン様でお間違いないでしょうか」
ツバキは固まる。そして赤い目を丸くした。
ゼフィラン……否、蒼天騎士団全員は行方不明だと彼の母国であるイシュガルドには伝わっている。だが、現状唯一ゼフィランだけ本当は生存しているのだ。

なぜならツバキが助けたから。

その事を指摘され、顔を青ざめる。
焦りを誤魔化すように小さくなった飴玉を歯で噛んでゴリゴリと音を立てる。
無言は肯定、と受け取ったのかエレゼン女性のスタッフは微笑んだ。
「……無事……だったのですね」
意外な言葉にツバキは更に驚いた。
「ゼフィのこと知ってるの? 」
飴玉を砕いて飲み込んだツバキは問いかける。すると女性は静かに頷いた。
「私は数年前までイシュガルドに住んでいました。……私はゼフィラン様を慕っていました」
その言葉にツバキは何も言えなかった。いや、何も返せないというのが正しいだろう。それでも女性は続ける。
「ですが、お近付きになる事を私は望んではいませんでした。ただ、あの孤高なあの方がどうか幸せになって欲しいと心から願っていたのです」
そう言うと女性は自分の胸に手を当てる。
「そう……」
「あなた様といるゼフィラン様はとても幸せそうな顔をしていらっしゃって……私はとても嬉しい限りです」
そう言って顔を上げた女性の表情に嘘偽りは無かった。
好きだったのに、それでも幸せを願う女性はとても美しかった。
「ゼフィラン様の幸せが私の幸せです。どうか、永遠の幸せがあなたに訪れるよう心から願っています」
その言葉にツバキは口角を上げて頷いた。
女性は手を差し伸べてツバキを立ち上がらせる。
「そろそろお時間です。あなた様にハルオーネの加護を」
「私の守護神はリムレーン様だけどね」
イタズラな笑みを浮かべると女性も釣られて笑う。
「あなたにも幸せがあることを願ってる」
「……ありがとうございます。いってらっしゃいませ」

控え室を出たツバキは女性に見送られた。そして式場に向かうと既にゼフィランが待っていた。
純白なテイルコートに身を包んだゼフィランはまるで一国の王子のようだった。
てくてくと歩いてくるツバキに「遅かったな」と呟けば「まあね」と上機嫌に笑った。
「何かいい事でもあったのか」
「ん〜まあ、秘密! 」
口元に指をたててニッと笑った。

入場の案内が流れる。そして式場の扉は開かれた。
2人はゆっくり歩く。
まるで、今まで旅してきた道のりを一つ一つ思い出すように。

片方は村を焼き両親を殺した。片方は死んだと知らされた以上2度と家に帰ることが出来ない。
この空間にいるのは神父とゼフィランとツバキの3人だけ。

招待客は誰もいない。暁たちにも内緒で挙げている。2人だけの特別な式場だ。
だがそれでいい。それを望んだのは本人たちだから。
拍手は聞こえない、ただBGMが流れる静かな式だった。
指輪交換と久遠の誓いの署名をする。
淡々と進んだ式はあっという間に終わってしまった。

「お腹空いた」
「俺もそろそろ腹が減ったな……」
無事式を終えた2人はいつもの服に着替えて、大聖堂を後にする。グリダニアに戻り、カーラインカフェにでも行こうと話をしていると、ツバキは立ち止まった。
「……ツバキ? 」
「……ううん、何も無い!気のせい」
と笑って誤魔化したのだった。

十二神の印を象った門飾り、その上に2つの長いスカートがひらめく影があったが、2人は気づかなかったようだ。

かつて両親から愛されず怒りの果てに自分の炎で村を焼いた悲劇の少女と、
神の代弁者に仕える使命の為自らの正義の心を砕いた男。

数奇な運命により2人は巡り会った。
時にすれ違い、喧嘩をしそれでも失いかけた事により、互いが大切だと気付かされた今、もうこの手を離したりなどしない。

愛に満たされずぽっかりと空いた心と砕いて散った心の破片を2人で共に拾い集めた先にあったものは永遠に続く幸せの道だった。
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