※死ネタ

クガネにあるとある和風豪邸。そこに家主の息子であるリクとその嫁になったリリエがいた。
縁側でリクはリリエに膝枕をしてもらい、目を閉じ気持ちよさそうに仮眠をしている。
秋風がそよそよと頬を撫でる。庭に植えている紅葉が風に揺れ、いくつか散っていく。
それを眺めながら自分の膝枕で穏やかな表情を浮かべるリクの頭を優しく撫でるリリエである。
屋敷にはたくさんの人が従事しているが、息子夫婦の部屋にはなるべく近づかないよう指示をしている。
そんな中、リクは瞼を開け、血のように赤い瞳をリリエに向ける。視線に気づくと見つめ合い、ニコニコと微笑んだ。
そして、リクも微笑んだ後、口を開く。
「俺が死んだ後、どうする」
穏やかな空気を割き空気が冷える。リリエはリクの言葉に体を強ばらせ、思わず視線を逸した。
リリエは長寿種族と呼ばれるヴィエラ族だ。対してリクはヒューラン族。ヴィエラ族はヒューランの2〜3倍は長生きするという。
ましてやリクは命の危機に瀕する場面に遭う事も多い。それが無いよう、なるべくリリエがサポートしているのだが。良くて寿命、悪ければ殺される。どちらにしろ先に死ぬ可能性があるのはリクの方だった。
「それ、は……」
リリエはリクにゾッコンだった。最初こそリクがリリエに一目惚れし、猛アタック。今では両者共々愛し合っている。
リリエは考えたくもなかった。
愛するリクが先に星海に還ってしまう事を。
泣き出しそうなリリエにリクは、体を起こすと優しく抱きしめ「ごめん」と謝る。リクも本当は泣かせたくなかったのだが、どうしても聞きたかったのだという。
この幸せがいつまで続くのか、リクは今を噛み締めながら恐怖と戦っている。それを伝えることは一切ないのだが。
ポロポロと涙を零すリリエにリクは「泣かせるつもりはなかったんだ」と伝えればリリエは小さく首を振り、「分かってるよ」とリクの肩を濡らす。
「……もしリリエが先に死ぬ事があるならば腹を切ってでも後を追う」
物騒な発言だが、リクの目は真剣なものだった。
リリエのエメラルドの瞳と再び視線を交わす。リリエは眉根を下げながら「痛い思いをして欲しくないよ……」と心配の声を上げる。リクは「痛みには強いから平気」と笑ってごまかした。その根底にあるのはもし、リリエを守れなかった時はその痛みくらい耐えられるだろうという確信があったからだ。
泣き止んだリリエはリクに抱きつく。それに応えるように優しく抱きしめ返した。リクはしばらく考え事をしていた。

◇◇◇

後日、リクは帰宅すると真っ先にリリエの元へ訪れる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
今か今かと待っていたリリエはぱぁっと明るい笑みを浮かべ、出迎えた。そっとただいまのハグを交わすとリクは「リリエ、おいで」と一言かけ、共に部屋に向かう。
夫婦の部屋に入るとリリエを座らせ、リクはその対面に座る。そして懐から桐箱を取り出し、それをリリエの前に差し出す。
「気に入ってくれるといいんだが」
リリエは「開けてみていいの? 」と尋ねれば、もちろんと返答がくる。リリエはそっと桐箱の蓋を開けるとそこにはピンクゴールドの液体が入った透明なカプセルネックレスがあった。
「綺麗……」
それを手に取り、見つめる。リクは「気に入ってくれたようで何よりだ」と安心する。
「前に聞いただろう、俺が先に死んだ時はどうするかって」
「……うん」
「俺はリリエが先に死んだら後を追う。お前が寂しくないように」
リクはリリエに近づき、頬を撫でる。大好きなリクに触られ、「んっ」と小さな声が思わず漏れ出て、耳がぺたーんとなる。
「もし、俺が先に死んだ時はその薬を飲めば眠るように死ねる」
「うん、分かった」
リリエは微笑み、リクは口付けた。そしてカプセルペンダントを手に取り、リリエの首につける。
「俺たち夫婦の約束だ」とリクの言葉に頷いた。


◇◇◇

「リクくん……リクくん……」
数年後、争いに巻き込まれた2人もまた被害を受けた。
リリエを庇い、血を流し地面に倒れたリクと視界がぼんやりと霞んで見えるリリエ。足が折れているのか立ち上がれず這ってリクの元へ行く。
リクの手を握れば冷たくなっていた。
「リクくん……」
ぼんやりとした視界で手探りでリクの顔を探す。
輪郭を探り当てればそのまま首に手で触れる。脈はだいぶ弱まっていた。
微かな声でリクはリリエの名前を呼ぶ。リリエは手を握り、「ここにいるよ」と応えた。すると、「あれは、あるか……」と息絶え絶えに問いかける。リリエは首元に触れ、ペンダントがあることを確認する。「あるよ、大丈夫」と答える。血をゴボっと吐き出したリクは虚ろな目で「いたい、おもいは、もうし……」と途中で力尽きた。
動かなくなったリクにリリエは大声で何度も呼びかけたが、それ以降返事はかえってくることはなかった。
リリエは大粒の涙を零しながら、ペンダントを外し、蓋を開ける。
「リクくん、今すぐいくね」
冷たく青ざめていくリクの唇に口付けたあと中の液を一気に飲み干した。するとふわふわと眠気が襲って来る。体が端から冷えていく、そんな感覚を覚えた。息苦しさを少し覚えたが、それ以上に眠くて眠くて仕方なかった。
「……おやすみ」
リリエはリクの胸元に倒れるとそのまま眠るように息を引き取った。

寄り添う男女の遺体が発見されたのは随分後の事である。
左薬指にお揃いの指輪をはめた2人は幸せそうな顔で眠るように死んでいた、との事だった。
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