幼い頃からの従者であり、現リテイナーのハルカがユウヒに郵便受けに入っていた手紙を渡してくれる。
「ありが……!? 」
ユウヒはそれを快く受け取り、思わず目を見開いた。宛名の文字の書き方に見覚えがあった。思わず送り主を確認すると、完全に青ざめる。
そして、急いで雑に封を破り、中の手紙に目を通す。
「ハルカ!キルシュくん今どこ!? 」
「えっと……確かウルダハの方へ」
ウルダハという単語を聞くなり、ユウヒは刀を携え飛び出していった。
慌てていったユウヒの背中を見送ると、ユウヒの落とした手紙を拾い上げ、そんなに慌てるものが書いてあったのだろうか、と少しだけ読んだ
(※人の手紙は勝手に見てはいけません)
「……」
その内容を見たハルカも顔を青ざめ、頭を抱えた。「キルシュさん、何事も無ければいいのだけれど」と呟き、不在のキルシュの安否を祈った。
一方、キルシュはウルダハに出向き、ユウヒに贈るためのアクセサリーを彫金師ギルドに注文しており、その間にマーケットで暇を潰していた。
「高いな……」
んー…と品定めをしていると、背後から「君はキルシュくんかな」と声を掛けられた。思わず自分の名を呼ばれ、「はい、そうですが……」と返答をするのもつかの間、視界がぐるっと回った。
「へぁっ」
体が宙に浮いたかと思えば、豪速球で投げられたのだ。不覚にも間抜けな声が出てしまったが、次の瞬間、体に衝撃と痛みが走った。
派手な音をたてて、硬い壁に体が打ち付けられる。幸い、体が丈夫なことが取り柄だったため、意識は失わずに済んだ。ひっくり返った体を痛みに耐えながら何とか起こす。
急になんなんだ、と投げ飛ばしてきた男を睨みつける。が、その男の圧に思わず怖気そうになる。
自分より背が高く、180後半はあるだろう巨体に、血のように赤い瞳、漆黒の髪、キルシュはどこか見覚えがあった。
──リク、さん……!?
ユウヒの双子の弟であるリクにとても似ていた。だが彼は170無い小柄な身長かつ、ユウヒと同じ若々しい顔立ちだが、この男は50近い渋い顔をしていた。それこそリクが壮年期になった時のような……
「まさか……」
息を整え、近づく男。何とか立ち上がったキルシュは自分のメイン武器である斧を構えた。必死に自分に言い聞かせる。ここで怯んではダメだ、と。
ジリジリと近づく、赤い羽織を着た黒い着流しの男。刀を携えたその男はそっと柄に手をかけようとしたその時だ。
「お父さん! 」
聞きなれた声が聞こえ、思わず振り向く。男もまたそちらを見た。
「ゆ、ユウヒさん……! 」
走ってくる紫の着物に黒い袴。まさにユウヒだった。
「おや、久しぶりだね」
男はにちゃっと不気味な笑みを浮かべる。ユウヒはこちらに近づくなり、キルシュの前に立ち、手を広げてキルシュを守ろうとする。
「何をしていらっしゃるんですか……! 」
ユウヒは父と呼んだその相手を睨みつける。肩で息を切らしながら「大丈夫? 」と小声でキルシュの安否を確認する。
「俺は平気です」投げられたけど、とはあえて言わなかったが、無事であることを返答すると、男は笑った。
「上等。ここで逃げたらすぐに斬っていたよ」
「……ご冗談はやめてください」
「冗談じゃないさ、うちの可愛い可愛い大事な娘を預ける男がひ弱じゃ話にならん」
そう言って再びキルシュに視線を移す。じっとりとした赤い瞳が射抜く。蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。
(なんだ、この圧は……! )
実父は只者では無い、とユウヒから聞いていたが
こんなに圧を感じさせる男だとは思わず、手が震える。
男は扇子を取り出し、口元に当てると、「俺が言うことじゃないが、ここで立ち話もなんだし、お前らの家に行っていいかね」とクククッと笑いながら尋ねるが、もはや拒否権はない。
「……これ以上騒ぎはたてたくありません。遥香に茶を入れるよう連絡します」
というとユウヒはリンクパールでハルカに連絡を入れたあと「案内します」と男を連れていく。キルシュも納刀すると、その後をついていった。
キルシュとユウヒが住まいにしているアパートだが、内装はユウヒの故郷、ひんがしの国をイメージした和装となっている。タタミを敷き、基本裸足で過ごす。最初は慣れなかったが、ユウヒと共に過ごしていくうちに、ひんがしの国のスタイルにも馴染めてきた。
ハルカは「お久しゅうございます」と三つ指をついて3人を出迎える。
「お嬢、キルシュさんおかえりなさいませ」とも。
「遥香久しぶり〜元気してた〜? 」
「ええ、お嬢のおかげでこちらにも随分馴染めました」
「そりゃ良かった〜」
男、ユウヒの父親はハルカにも声をかける。ニコニコと明るく振る舞うが、ハルカを見ると微かに震えていた。
東雲(しののめ)家は裏社会に属する一家である、と昔ユウヒに話を聞いていた。現在のトップがこの父親であり、後々ユウヒの双子の弟であるリクが跡継ぎとなる、らしい。
双子の姉であり、女児であるユウヒも一応は東雲と縁が切れた訳ではなく、時折本家から司令があるという。あくまでユウヒとリクは世界の広さを知り、修行をし、成長することが目標であるとの事であり、それを達するためにひんがしの国からエオルゼアへ渡ってきたという。
ユウヒ曰く、父親はずっとこんな感じらしい。フランクを装っているが、だいぶ人を見定め、自分より弱い存在を見下している。圧が凄いのもずっと昔からそうだったとのこと。とても厳しく畏怖を抱いているユウヒとハルカは父と話す時、思わず震えるという。
現にキルシュも畏怖から震えそうになるが、弱さを見せた瞬間に斬られる、と言われていたため、心を強く持っている。
何より、ユウヒの旦那となった今、彼女の横にたてる男になる為に努力したのだ。キルシュは拳を握り、耐える。
床の間に3人座り、ハルカの煎れた緑茶を啜る。
ハルカはお茶を煎れるなりすぐ退室した。
どちらにしろようがあるのは2人にだろうから気にする素振りもなかったが。
「さっきはごめんね、キルシュくん」
しばらく沈黙が流れていたが、それを破ったのは父の方だった。改めて名を呼ばれ声が裏返った。
「あ、優緋、煙吸っていい? 」
「申し訳ありませんが禁煙になっています」
「ならしゃーねーか」
チェっと子供のように拗ねると懐から取り出そうとしていたものをしまう。茶をずずっと啜り終えると、再び話し出した。
「いやぁ、まさかユウヒが嫁にいくとは思わなくてさぁ。ユウヒったら連絡くれても手紙だけだし、急に嫁になりますって連絡来た時は驚きすぎてしばらく眠れなかったよ〜」
ケラケラと笑いながら一方的に話す父に愛想笑いするキルシュと、無言を貫くユウヒ。
「でさ、ユウヒの旦那になるっていうからどんな男か気になってさぁ、てっきりガタイのいい男かと思えば……」
そこまで言うと目を細めてキルシュの方を見つめる。思わず萎縮してしまった。自分がヘタレである自覚はしていた。故に次に出るであろう言葉は覚悟していた。
「まさかこんな、子犬みたいなやつとはねぇ……」
「彼は精神的にまだ未熟ですが、いざとなれば強いですよ」
父親のディスりにフォローするユウヒ。ユウヒは静かに父を睨む。しばらくまた沈黙が流れたが、父親は笑った。「まあ確かに投げ飛ばして気絶されてたらお前を守れねえもんな」と。 先程の出来事を思い出してキルシュは思わず苦笑する。
「ちなみに……」と父は続ける。
「まさかうちの名を名乗っていねえよな」
うちの名、つまり東雲を名乗っているかどうかという話だ。
「は……」
「いえ、それは違います」
はい、と返答しようとしたのをユウヒが遮る。キルシュは思わずユウヒの方を見ると、「お前は黙っていろ」と言わんばかりにこちらを睨みつけていた。
「そっかそっか、ならいい」
うんうん、と父は満足そうに頷く。それに満足したのか「また今度邪魔するわ」と立ち上がる。
「次は事前に早めの手紙をください」
「思い立ったが吉日ってやつだから、"手紙出すと同時"に船に乗っちまったからな」
悪ぃ悪ぃと笑ってごまかされた。ユウヒは浮かない顔をしながら玄関から2人で正座して見送りしばらくした後、ユウヒはため息をついた。
「一難去ったわね……」
どっと疲れた表情で立ち上がり、床の間に戻る。
すると、忘れ物であろうか。小刀が置いてあった。
「……あれ、お義父さんの忘れ物ですかね」
キルシュがユウヒに小刀を指さして問いかける。ユウヒはそれを見るなり顔を青ざめた。
「……キルシュくん」
「はい」
「……あの人、かなり怒ってるわよ」
思わず「ええっ」と大声を出ししまった。再び大きなため息をついた。
「簡単に言えば「お前の首なんか簡単にとれる」、つまり「いつでもお前を殺せる」ってこと……」
「ひっ……」
「……そうね、リクくらい強くなれば認めてくれるはずよ」
キルシュはダラダラと滝汗が止まらなかった。表だけ愛想が良いとは思っていたが、すごく物騒な人だとは……。改めて義父の恐ろしさを感じた。
「大丈夫、あなたは強くなった。それは私がみとめるもの」
「ユウヒさん……」
「でも、次来た時は、本当に覚悟しないといけないからね」
本気の手合わせを挑まれるだろうから、と恐ろしい一言にキルシュは思わず気絶しそうになった。
ユウヒと夫婦になった今、キルシュは改めて自分の置かれた立場に目眩がした。だが、ユウヒのことを本気で愛しているからこそ、強くなろうと決心するのであった。