「はい、ハッピーヴァレンティオン」
リリエはキョウカに小さい袋を渡す。
今日はヴァレンティオンデー当日。恋人にチョコレートや花束を渡す愛の日である。
キョウカはそれを見ると口角を上げた。
「今年もくれるんですか」
「も、もちろん、これから先ずっと渡すよ! 」
確認をとられ、焦るリリエ。小包を受け取ると直ぐに開く。その様子をドキドキしながら見守る。
「……ふふ、美味しそうです」
中はチョコチップクッキーだった。キョウカは黒手袋を外すと1つ摘んでかじる。
クッキーの香ばしさとチョコレートの甘みが口に広がる。サクサクと音を立てて食べるキョウカに不安そうな顔を浮かべるリリエ。
「どう……? 」
「ええ、もちろん美味しいですよ」
もぐもぐと食べ進めるキョウカの様子に安心したリリエは「お茶もあるからね」とクッキーで口の中の水分を取られることを考え、キョウカの出身であるクガネ由来の緑茶も淹れてきている。
「ありがとうございます」とカップを受け取る。緑茶のいい香りが鼻をぬけた。
今年で3回目のヴァレンティオン。キョウカとリリエが付き合って2年目になる。

それこそ最初はキョウカがリリエを気に入り、ストーカーまがいなことをしていた(音も立てずに背後に立っていたり)が、リリエもキョウカにいつの間にか心奪われていた。
そんな2人を繋いだのがチョコチップクッキーだ。
出会った頃のキョウカはまともに食事をとらなかった。それだというのに、無駄にエネルギーを消費し、行き倒れでいることが何度かあった。
食事自体が好きではない。それも過去に両親から虐待されていたトラウマから来る食欲不振だろう。結果的に両親を手にかけ、自由を得た今。
それでも食べるという生きる事に意味をあまり見いだしていなかった。腹が痛くなるから口に入れるだけ、のようなものだ。
案の定行き倒れていたキョウカを助けたのはリリエだった。自分に付きまとっている相手とは言えど倒れているキョウカを見過ごす訳には行かなかった。
「あ、あの……これ食べて」
その時差し出したのが偶然余っていたチョコチップクッキーだった。
声をかけられ、何とか顔をあげる。1つ摘むと、体が求めていたものを満たされた感覚に陥った。
「おいしい……」
キョウカにとって初めての感覚だった。
リリエの手作りクッキーで久々に、いや初めて口にするものをおいしいと感じたのだ。
それ以降、時折「リリエさんのクッキーが食べたいです」とリクエストするのだ。

「リリエさん」
「ん? 」
「好きです」
キョウカは真っ直ぐ見つめてリリエ愛を囁く。
リリエは真っ赤に頬を染めて目を逸らす。


──この「好き」という感情はあなたが教えてくれました。もう離しませんからね。

キョウカはリリエに口付けた。
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