ターニャ:梓沙の子。ロスガル♂ かなりの堅物学者。グリダニアの森の奥でひっそり暮らしてる

シュリ:ちゅうれんの子。うさお。素晴らしい才能の絵描きだが騙されやすい性格なので素寒貧。ターニャの家で居候中

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※ロゼユキの「ローゼとビオラ」のネタバレがあります


「ターニャさん!ローゼちゃんが! 」
いつもは大人しい子が声を張って家主の名を呼んだ。ドタドタと足音をたてて彼は玄関に向かう。ただ事ではないことを察して絵を描いていたシュリも玄関に向かう。
家主、ターニャという愛称で呼ばれる薄青色の肌のロスガル男性の広い背中で見えなかったが、金髪ミコッテ族の少女──ローゼと呼ばれたが顔を真っ青にして気絶しているようだった。
泣きながらローゼに呼びかけるアウラの少女、コユキは白い服を真っ赤に染めていた。
「シュリ、風呂を湧かせ」
「わ、分かりました」
恐らく血で汚れてしまったコユキへの配慮だろう。ターニャはローゼを抱えると寝室へ向かい、治療し始める。
「このバカタレが……」
怪我をして飛び込んでくることは多々ある。
「ターニャ怪我した! 」と抜けた声で一人で来たり、コユキと共に来たりする。だがそれはかすり傷や転んだくらいの軽いものだった。
ターニャは懸念していたのだろう。いつかこうなる事を。
「お風呂、湧いたよ」
泣きじゃくるコユキに優しく声をかけて、女物では無いため少し大きいかもしれないが血にまみれた服でいるよりもマシだろうと、着替えの服も準備した。
「ありがとう……」と一礼して風呂に消えていったコユキがドアを閉めると、シュリは寝室に向かう。

ターニャは学者で回復─ヒール─を得意としている。今も懸命に治癒していた。
「シュリ」
「はい! 」
振り向くことなく急に声をかけられびっくりしすぎて声が裏返ってしまった。そんな事も気にせずターニャは続ける。
「今日の晩飯は多めに頼んだぞ」
と、言ったのだ。
はぁ……と抜けた返事をしてしまったがしばらくしてから回復魔法は体力がいると前聞いたことを思い出した。フェアリーも通しているが、相当悪いのだろう。
なら、ガッツリ肉料理にしよう!と意気込むシュリであったが、量が多すぎて後々怒られることを知るわけもなかった。

◇◇◇

夜もだいぶ更け、深夜を回った頃シュリは何かあった時のために一応絵を描いてどうにか起きていたが、ローゼの状態が気になった為、部屋に向かう。
部屋の外からは何も聞こえない。軽くノックして隙間から覗き込む。
ローゼは相変わらず寝ているがだいぶ顔色が良くなった。心配でそばにいさせて欲しいとお願いしてきたコユキもそばで小さな寝息をたててスヤスヤと寝ていた。
ターニャはというと、腕を組んで椅子に腰掛けたまま寝ていた。
「あっ……」
シュリは思わず声が出てしまった。
そこにいるのはロスガル男性ではなく、浅く肌の焼けたガタイのいいヒューラン男性だった。
シュリはそれを確認すると、そっと起こさぬように近付いた。


ターニャはかつて帝国に囚われていた。妹を人質にとられて。回復魔法に優れたターニャはその能力を買い取られ、軍に属していたという。
半分洗脳だったと言った。大事な妹がいる以上下手なことは出来ない。表向きは軍に従順なフリをしていたという。だが軍はターニャを簡単に裏切った。
妹に手をかけたのだ。実験のモルモットとして。
それを知らずしてターニャは妹を間接的に殺した。
その事実を知った時、ターニャは発狂した。
守っていた存在を、守るべき存在を、大事な家族をこの手にかけた。
まるでライオンの咆哮のように泣き叫び、暴れた。
鎮静剤をうたれたターニャは捕獲され、囚われた。目を覚ましたターニャは絶望の渦の中、逃げ出すことを考えていた。
脱走まで約半年、じっくりと隙を見つける。ほんの1秒の誤差で下手をすれば死ぬ。その覚悟をもって、忍び持っていた変化薬(エオルゼアでは幻想薬として流通している)を飲み、今のロスガルになったという。
そして、獲得した鋭い牙と爪。長年囚われていた実験施設の構造を理解している知識を元に、命からがら脱走に成功した。
外は雪だったが、毛皮の厚いロスガルに幻想したのは正解だったようだ。ただひたすらに走り抜けた。どこへたどり着くか分からずとも、ガレマルドから逃げるために、走って走って走って──……

フードを被り、見つからないようリムサ・ロミンサに着いたターニャは新しい魔法を獲得すべく巴術士ギルドを訪れた。
それからしばらくしてグリダニアへ移住し、ひっそりと一人で暮らすようになった。

──ここまでがシュリの聞いた過去の話だ。
目の前にいるハイランダーの男性は恐らく幻想薬を飲む前のターニャであろう。
至近距離まで近づいても気付かないほどターニャはぐっすりと寝ていた。

シュリはターニャに好意を寄せていた。
それを前に伝えたことがある。ターニャは目を丸くして驚いた後、シュリの頭を優しく撫でた。
「ワシ以外にいい人がいる」
嫌悪ではないその言葉に安心したが、納得しなかった。
「僕は本気でターニャさんのことが──……」
「シュリ」
ターニャは優しく撫で続ける。
「おぬしの気持ちは分かった。だが、ワシには無理な事だ」と言い、続ける。
──ワシには鋭い牙がある。
「それでも構いません。長い牙も素敵です」
──それに鋭い爪もある。
「痛くされても文句は言いません。それがあなたを守るものであるのなら」
真剣な眼差しで返答するシュリにターニャは困ったように笑いかけ、ならばと最後の問いかけをする。

──人を殺しておいてもか

シュリは言葉を詰まらせた。だが「はい」と言おうとすると、ターニャは
「ワシの手は、牙は、血にまみれておる」
「……そんなこと」
「……生きるために人殺しをしたのだ、そんな輩が幸せになるべきではなかろう」
「それでもあなたは……」
「ワシは一人で死ぬ予定だ。おぬしが幸せになった後にな」
その言葉にシュリはそんな、と今にも泣きそうな顔でターニャの顔を見上げる。だがターニャも困ったように笑い、
「来世、また会えたらその時は──……」


「ん……」
そんなことをぼんやり思い出していると、目の前の男──否、ロスガルの姿に戻ったターニャは首を痛そうに目を覚ました。
「大丈夫ですか」
「ぬ……」
あー…と、首を鳴らし、声をかけてきたシュリの方を見る。どうやら寝ている間は元の姿に戻っていることは気付いてないようだ。
「寝落ちてしまった……」
「あれでしたら僕のベッド使っていいですよ」
「いや、様態が変化した時が困る」
と、ローゼの様子をすぐに観察する。
何故ターニャがこんなに懸命にローゼを気にかけるのか。
ヒーラーだから?ローゼがお転婆だから?それとも彼女が懐いているから?
どれも理由としては当てはまるのだろうけど、1番はローゼは妹に似ているからであろう。
書斎に掛けられているモノクロの少女の自画像は可愛らしい女の子であった。ローゼは活発で明るい子だが、絵の中の少女は落ち着いた雰囲気を漂わせていた。顔立ちは似ていないこともないが、きっと彼にとって世話のやけるじゃじゃ馬娘のローゼは妹のように感じるのだろう。時々広い背中に飛びつく彼女が羨ましくて仕方なかった。
シュリは「食器片付けておきますね」と誤魔化すと部屋を出た。


それから3日後──……

「ローゼちゃん! 」
やっと目を覚ました。ずっと付き添っていたターニャ、コユキだけでなくシュリも安心した。
「たーにゃ……? こゆきちゃん……? 」
まだ意識が朦朧とする中、2人を認知したようだ。コユキは嬉しさと不安からの解放で珍しくわんわん泣いている。ターニャも一安心したのか疲労のため息をついた。
改めて彼女の存在についてこの家には大きいと実感させられた。
ローゼがいると家が明るくなる。賑やかさを取り戻したターニャの家はみんなで食事を囲んだ。

◇◇◇

あれから数日。ローゼとコユキは家の方に戻り、再び二人だけの空間(正しくはシュリは居候の立場だが)になった。静かな空間が訪れる。またどうせ遊びに来るであろう。
晴天の下で洗濯物を干し、家事を済ませたシュリは再び借りている自室に戻り絵を描き始めた。
「そうだな……」
何を描こうかしばらく悩んでいたが、あっと閃き絵の具を筆に乗せて絵を描いていった。

出来上がったその絵は花畑に佇む金髪の少女だった。
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