「ルーナさん、まだ持てますので、遠慮しないでくださいね」
ルーナはルーナなりに気を使ってくれているのだろうと、ファイは男を見せたい気持ちもありつつ声を掛ける。だがルーナは微笑み、「ありがとうございます、でも本当に欲しいのはこれだけですので」と言ったのだ。
ルーナも女性だ。どちらが似合う?と気になる2着を手に持ち、ファイに問いかける。ファイはファイなりにアドバイスをする。ファイは両方とも似合うから買っても大丈夫と伝えたのだが、結局どちらか1つにしてしまう。
「散財のし過ぎはいけませんわ」
そう言って、彼女の目で選別し、本当に欲しいものだけを購入していく。
ルーナは第七霊災に遭うまではイシュガルドの名家のお嬢様だったそうだ。だが霊災で家と家族を亡くし、幼馴染であるレックスと共に苦労をしてきたという。幸いなことに教養があったからこそ、生き延びる術を身につけており苦難を乗り越えたという。
傲慢にならず誠実に生きてきたルーナの心はとても美しいものだ。もちろん見た目もだがそんな中身の美しさにファイは一目惚れし、元ホストから抜け出して釣り合う男にまで成長した。
婚約にまで至った2人は後に夫婦になる。
ルーナが立ち止まった。
ファイはそれに気付き、「気になるものでもありましたか? 」と問かければ、反応せずしばらく一点を見つめていた。
反応しないことに対し珍しく思い、ルーナの視線の先を見る。
そこには赤いヒールの靴があった。
綺麗なルーナにとても似合うだろう、そう思い買いましょうかと声をかけようとしたがこちらに気付いたルーナは困ったように笑って「行きましょう」と立ち去ってしまった。
買わないの?と困惑するファイを置いていくようにルーナは早足で進む。ファイは置いていかれないように走った。
家に着き、普段通りに過ごす2人。だが時々ルーナが何か考え事をしているように見えた。
ファイはその思い詰めている原因がすぐに分かった。
──きっとあの靴だ
赤いエナメルのハイヒール。男のファイから見ても素敵なものだった。
だが普段のルーナはパンプスなど、ヒールが低いものしか履いていない。
それが気になったファイはルーナに問いかけた。
「ルーナさんって、低い靴しか履かないですよね」
「……ええ、疲れにくいからというのもあるのですが……」
ルーナが珍しく口ごもる。何か言いにくそうだが、ファイは急かすことなく、彼女が口を開くのを待った。
「以前、男性に"お前はただでさえエレゼン族で背が高いというのに、それ以上高くなる靴を履くな。男を蔑ろにするな"と言われたことがありまして……」
なんだその理由と眉間にシワを寄せる。ルーナは困ったように笑って、「すみません……」と背を向けてしまった。
ファイは尚更あの靴を買おう、そう誓ったのだ。
──2日後
ファイはルーナへの贈り物として箱を渡した。
「もうプレゼントはたくさん貰いましたわよ」と言う彼女に「これは俺がしたくてやってるので気にしないでください」と言い、箱を開けてもらった。
すると中にはルーナが見ていた赤いエナメルのハイヒールがあったのだ。
「……どう、して……」
「ルーナさん」
困惑し、目を見開きハイヒールから目を離せないルーナの手を優しく握る。
「俺の隣では好きなものを着てください。過去の男など関係ありません。今あなたの恋人は俺です。俺のワガママです。ルーナさんが幸せになれることを何より願ってます。ですから自分の好きな服と靴を履いてください」
真剣な眼差しで見つめ、ルーナはその気持ちに思わず涙を浮かべ、ホロホロとこぼした。
「ありがとうございます……っ」
声を詰まらせるルーナ。靴を手に取り、ファイは赤いエナメルのハイヒールを履かせた。
「とても似合っていますよ」
そう微笑むと、履かせてもらった靴を見つめて、「嬉しいです」と微笑んでみせた。
それからデートの時は贈られたハイヒールを履くようになった。
ハイヒールの分、どうしてもファイの背を抜いてしまうが、ファイは一切気にせず、自分のように喜んだ。
「お似合いです、ルーナさん」
その言葉に心から笑みを浮かべるルーナであった。