ふと目が覚めると、ホルテンは隣に寝ているはずの恋人を探す。そしてその次に「コタ」
と可愛い小さな友人の名を呼んだ。だが返事はなかった。いつもなら名を呼べば息を切らして真っ先に飛んでくるというのに。
(散歩に行ったのか……)
まだ起き上がることが出来ず、しかも二度寝をしそうなくらい眠気が襲ってくる。重い瞼が閉じればリアリティある夢を見せる。
恋人のエイトとコタが帰ってきた。ラフな格好をした恋人はベッドに近づき、「ただいま」と声をかけたのだ。眠たいホルテンは「おかえりなさい」と口も回らないが、本人はハッキリ言ったつもりだった。むにゃむにゃと寝ぼけながら夢と現実を往復している。
ふと苦い煙の臭いが鼻に抜ける。ホルテンはようやく夢から醒めた。あれは現実だった。そう確信するとまだ開かない片目だが、フラフラとベランダに向かう。
カーテン越しに見えるしゃがんだ影。ベランダにいるその後ろ姿を見ると安心したのだ。
背後からくちゃくちゃと音を立てて朝ごはんを食べるコタの音を聴きながら窓を開けた。
朝の涼しい空気とエイトの吸う煙草の煙が部屋に入ってくる。煙を吸ってしまい少々むせ込むホルテンにエイトは少し驚いてこちらを向く。
「おはよう」
「おはよう……ございます」
ホルテンはコタに害が及ぶといけないとばかりにベランダに出た。
煙草を嗜む恋人の隣に座る。その頃にはやっと両目が開いていた。
「どうした」
エイトはまだ残っているというのに煙草を灰皿に押し付ける。
そして無意識に擦り寄る可愛い恋人を優しく撫でた。
その手に擦り寄るように甘えた声で「好きです」と小さく呟いた。
いつもはツンツンなホルテンの貴重なデレだ。からかったりして機嫌を損ねればまたツンツンになってしまうだろう。エイトは取り扱いを間違えないように自分の胸に抱き寄せる。
「可愛い」
そう呟けば「うるさいです」と反抗する声が聞こえるが、まだ上機嫌なようで。
「ホルテン」
愛しく名を呼べば顔を上げたホルテンに口付けた。
先程まで煙草を吸っていたため、エイトの口の中はとても苦い。だが、それがまた病みつきになるのだ。
(エイトの匂い……)
大好きな匂いに包まれ、耳が垂れていく。リップ音をたてて数回口付ける。
(甘い……)
対してエイトは非喫煙者のホルテンの口の中は甘く感じた。ずっと舐めまわしていたいとさえ思うほどに。
背後からトントンと音が聞こえる。振り向くと朝ごはんを食べ終えたコタが前足で必死にガラスを引っ掻いていたのだ。ホルテンが少し窓を開けるとしっぽをブンブン振りながらベランダに飛び出してきては2人の間に入り喜びを表す。
「なんだ、俺も入れろってか? 」
「コタは可愛い」
「コタはってなんだよ、コタはって!? 」
要らぬ言葉にショックを受けるエイトだが「僕は何も間違ったことを言ってません」と真顔で貫き通したのだ。
だが、内心はエイトはかっこいいんですとベタ惚れのデレデレだったが、素直に言えるはずもなく、心の中に留めておくのであった。
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