「はっぴ〜はろい〜ん」
小さな白いうさぎの女の子は魔法の言葉を言いながらパパの手を握っている。
「とりっくおあとりーと!っていったらおかしをくれるの? 」
「そうだよ、みんな優しいからくれるよ」
英雄と呼ばれたミナトと英雄の盾と呼ばれた男、ホルテンの間に生まれた小さな白いうさぎの女の子は彼ら夫婦の娘だ。
ホルテンと同じくヴィエラ族の耳を引き継ぎ、赤い瞳は魔力の高いミナトの血を濃く継いだ。なお人見知りな所と大食いなところもミナトに似ている。
ミナトは今日は長いローブを着た魔女風の格好で、ホルテンは所々に包帯を巻いたミイラ男風の格好をしている。
娘は本人の希望で黒猫になりたいとの事で、黒いローブにほどよい長さの猫のしっぽ、黒い猫耳のカチューシャを付けている。
「きょうはにゃーだよ〜」
「ふふ」
愛らしさに思わず笑みが零れる。人見知りな娘だが、グリダニアの住民たちとは何度も顔を合わせているので、「とりっくおあとりーと! 」と小さなカゴを手に駆け寄り、お菓子をねだった。
「今日も元気だねー!」
弓術士ギルドのレイ・アリアポーだ。屈んで手に持ったカゴにチョコレートを一つ入れた。
隣に立っているシルヴェルは娘を見下ろす。
「シルヴェル、アンタもやりなよ」
「ふん……俺がこんな……」
「とりっくおあとりーと! 」
キラキラと期待の眼差しを向けらればはぁ…とため息をつき、しゃがむと「ちゃんと座って食べるんだぞ」と飴を一つ入れた。
にぱーっと笑い「ありがと! 」と言えばパパとママの元へかけて行った。
「全く……素直じゃないんだから」
「黙れ」
キサラギファミリーはグリダニアを練り歩く。
色んなところで声を掛けられ、その度に娘が合言葉を言うものだから遂にカゴから溢れ、両親がその溢れた分を預かる形になった。
「少しずつ食べるんだよ」
「はーい! 」
「いっぱい食べるとお腹痛くなるからね」
「はーい! 」
元気よく返事をするが、おそらく覚えていないのでどちらにしろ親管理になることは分かっている。二人は顔を見合わせて苦笑した。
グリダニアを1周すると、ミィケットに帰ってくる。
「魔人の隠れ家にお邪魔しようか」
「わーい! 」
まだ元気が有り余っているようだ。パパに抱っこされ、喜んだ。
「お菓子少しなら食べていいよ」
「やったー! 」
休憩がてら3時のおやつを楽しもうと、隠れ家にお邪魔した。
広々とした庭に置かれたテーブル、お菓子や料理が並べられたそこはまるで夢のようだ。空いている席に座り、早速もらったお菓子を食べる。
「今日はこれだけね」
一気に食べてしまわないように調整しながら分け与える。
「いただきます! 」
元気よく挨拶すれば美味しそうに口いっぱいに頬張る。まるでリスのようだ。
ミナトとホルテンも置いてあるお菓子を少し頂いた。
すっかり食べてしまい、暇を持て余した娘は椅子から降りてどこかへ行ってしまった。
「ちょっと! 」
「ミナトさんはここに居て。僕が着いていくよ」
立ち上がり追いかけようとするミナトを制し、ホルテンがその後を追いかける。
意外と足が速く、小さな姿はすぐにくらましてしまった。
流石のホルテンも焦りを覚えた。
すると声が聞こえる。
「……うん、うん! 」
どうやら奥の庭の方にいるようだ。ほっと安心したホルテンは足を緩め、曲がり角を曲がる。
その時見えた光景に目を丸くした。
娘に寄り添う人がいた。
その人物は3人。人とは思えない、幻影のようだった。
1人はホルテンも知っている人だった。
白髪に白い髭を生やし、灰色の着流しを着て刀を携え、しゃがんで真っ直ぐ見つめる老人。
あと2人には見覚えが無かった。
同じく白髪の老人でこちらも刀を携えているが、服は紺色の道着に黒い袴を着ていた。
もう1人は壮年の女性だった。美しい顔は白粉で塗られ、鮮やかな口紅がとても目立つ。
道着を着た老人に寄り添うように娘を優しく見ていた。
悪い人たちではない、そう察したホルテンは娘の名前を呼んだ。
すると4人はホルテンの方を見る。
「パパ! 」
娘がこちらに駆け出してきた。すると3人はホルテンに向かって微笑み、東方風お辞儀をするなり霧のように消えていった。
「しらないおじいちゃんたちからね、おかしとこれもらったよ!ママにわたしてって! 」
小さな手に差し出されたのは雪を象ったモチーフがついた髪留めだった。
「……ママもきっと喜ぶよ」
娘と手を繋いでミナトの元へ帰る。するとミナトは少し怒った様子で「勝手に走って行ったらダメでしょ」と母親らしく叱った。すると娘は目を潤ませ、「だってよばれたんだもん……」と呟いた。
2人の間に入るようにホルテンはミナトの前に立つ。
「これ」
先程受け取ったものをミナトに渡す。
「"おじいちゃん"から」
そう言うと、それを受け取ったミナトは信じられないという顔で見つめた。それからホルテンが知らない老夫婦の特徴を伝えると赤い瞳に涙を貯め、それがこぼれ落ちた。
「みんな、ミナトさんのことをずっと見守ってくれているんだよ」
我慢しきれず泣き出したミナトを優しく抱き締めるホルテンと急に泣き出した母親を宥めるように足に抱きつく。
「ママ、おなかいたいの? 」
「ううん、幸せすぎて泣いてるの」
心配してくれる娘を今度は抱き締めた。
ホルテンの視界の端に優しく見守る3人の幻影が見えた。