※モブに名前あり
※紅蓮の某NPCと同じ名前が出ますが別人です。
「若はリリエ様のことをたいそう愛していらっしゃるのですね」
「は? 」
生まれた時からの世話係である女中──しず子に突然そう言われて思わず抜けた声が出た。ニコニコと笑いながら洗濯物を干す傍らで俺は煙管で煙を吸っていた。洗濯物に煙がつきます、と言われても無視し続けた結果、ついに何も言われなくなった。
「いえ、若様がすごく愛おしそうにリリエ様を見つめていますので」
「あー…まあな。俺が惚れた女だし」
まあ、と若い娘の恋話のようにはしゃぐしず子はそれなりにいい歳を食っている、それこそ母親といってもいい年代。リリエさんいわく「女はいつまでも女だから」と言われたのを少し思い出す。つまり、いつまでも女は恋する乙女、らしい。
「他の女中たちにも聞かせて欲しいですわね」
「気が向いたらな。つか、リリエさんから俺の好きなところ聞いた方がいいに決まってるだろ」
「ふふ、若も男の子ですね。女の子は相手の気持ちを知りたいものですよ。若も多くは語られない性格ですから、リリエ様も不安があります。自分でいいのか、釣り合わないのではないか、と」
確かに昔──出会った頃はそう聞いていた。「私じゃリクくんに釣り合わない」と。それを何度も説得して付き合ったのも事実。愛を毎日伝えて、体を重ねて、俺だけしか見えないようにして……それでも。
「でも、リリエ様は最近とても自信を持たれるようになりました。私も頑張らないと、の意味が前向きになったようで」
「ふーん」
「私はリリエ様のことを好き、と言ったら失礼ですが、まるで娘のように大切にしたいですね。あのような純粋な方は、守りたくなる」
「それは俺の役目だ、とるな」
「はいはい」
洗濯物を干し終えたのかしず子はよいしょと籠を持ってこちらを向いた。
「ですが……若様を守りたい気持ちは私にもありたすよ。生まれた時からお世話させてもらって……まるで息子のように大事に思っています。故に、リク様も幸せになってくださって嬉しいんです」
実の母親がいない俺ら双子にとって、母親代わりだった。ふっと鼻で笑えば、煙管を灰皿に置いて「体壊すなよ」と一言投げてごろりと背を向けて横になった。その後ろから「ふふ、ありがとうございます。リク様も無茶はなさらぬよう」と声が聞こえた。
夕飯時、昼過ぎに出かけていたリリエさんもようやく帰宅した。
「リクくんただいま」
「おかえり、何を買ってきたんだ? 」
「ふふ、内緒」
重そうな袋を抱えている。そんな大変なら俺もつれていけばいいのに。思わずその荷物を取った。
「あ、リクくん」
「どこに運べばいい? 部屋? 」
ひょいと持ち上げたことにあっけらかんとしているリリエさんの顔も可愛い。だけど、荷物持ちは男の仕事だ。私の部屋に、とお願いされた為、一緒にリリエさんの部屋へと入り……。
「あ、リクくん! 」
「可愛いのが悪い」
我慢できなくなったので、夕飯前だけど、少しつまみ食いさせてもらった。
つまみ食いなので、少し可愛がったくらいで終える。リリエさんの匂いはすごく落ち着く。あと柔らかい感覚。いつ抱きしめても心地いい。それでも真っ赤になりながら俺の横で飯を食うリリエさんは可愛かった。俺より年上だが、時に年下を思わせる愛らしさにまた惚れる。あぁ、好きだなぁ。
「女中と仲いいらしいじゃないか」
「ん!?う、うん……とても良くしてもらってるよ」
突然の言葉にびっくりしたらしい。そういう抜けてるところも可愛い。ご飯を詰まらせたのか胸をトントン叩くリリエさん。
「約束は守ってるよな? 」
「もちろんだよ、お料理以外、しない約束だったもんね、ちゃんと守ってる」
「ならいい」
結婚する際、つまりうちに嫁入りする時に約束してもらった。家事はせず女中に任せること、出かける時は直接俺に伝えること。必要とあらば護衛を連れていくこと。リリエさんは真面目だからきちんと守ってくれている。
尚、家事の中で唯一台所に立つことだけは許している。なぜなら手料理が食べたいから。
今日の料理は女中たちが作ってくれた料理だがまた振舞ってくれるのが楽しみだ。
2人きりの空間で食事を楽しんでいると、慌ただしい足音が近づいてくる。
「若、失礼します! 」
「なんだ、飯時だが」
「申し訳ありません、襲撃がありまして。親分が若を呼んでこい、と」
俺の補佐であるアサヒが障子越しに伝える。その言葉に2人して驚いた。
「リリエさんはここにいて」
「でも! 」
「リリエ」
その声でびくっと体が跳ねたのは分かる。いい子だから待ってろと頭を撫でて、アサヒと共に部屋を出た。
庭に出れば若衆たちが応戦していた。相手は知っているが知名度は低い。だがなぜこの時間に。
「まあいいか、一振かましてやるよ」
刀を抜き、力強く地面を蹴り、奴らに斬りかかった。
──一方、その頃。待てと言われたリリエはソワソワしながらその場から動かなかった。リクくんなら大丈夫……だけど……。不安から昔の癖、胸の前で手を組む動作をする。まるで祈りを捧げるように。
「リリエ様!ご無事ですか! 」
「し、しず子さん」
薙刀を片手にたすき掛けをしたしず子が部屋に駆けてきた。外の様子は騒がしい。リクくんは大丈夫だろうか……と心配になる。
「こちらに敵が参ります、どうかあちらに」
リリエの手を引いて立たせて、しず子は廊下に出た。が、
「いたぞ」
隠れていた敵に見つかってしまった。どうしよう、と焦るリリエに対し、しず子は薙刀を構えた。そして小声で「左手に行くと壁があります。そこの右隅に小さな隠し扉がありますので、どうかそちらに」と伝えた。
「で、でも……! 」
「ここは食い止めます。どうか、お行きください」
リリエは戸惑ったが、背中を向け言われた通りに走ろうとした瞬間──
パァン──
と1つの銃声が酷く大きく響いた。
思わず後ろを振り向く。そこには倒れていくしず子の姿があった。
「しず子さん!! 」
*
同時刻、銃声が聞こえた方に顔を向けた。
あっちは──リリエさんがいる方だ。
「アサヒ! 」
「はっ! 」
敵を蹴り飛ばし、床に倒れたところを首にとどめを刺す。
「ここは任せる」
「承知! 」
嫌な予感がする……。ザワつく胸と焦りが足を早めた。
無事でいてくれ、と祈りながら廊下を走る。すると「ぐあっ! 」などと男の声が時々聞こえるのだ。
「リリエ! 」
角を曲がれば彼女がいるはず。すると目の前に広がっていたのは、床に倒れている複数の男たちと血を流して倒れているしず子、そして……弓矢を手に怒りに震え、息を切らして佇んでいたリリエの姿だった。
「リリエさん……」
「リクくん……」
俺の姿を見て安堵したのか膝から崩れ落ちる彼女を抱きとめた。
「しず子さんが……」
「……急いで運ぶ、大丈夫だから、な」
しがないフィジクだが何もしないよりはマシだろう。しず子を抱えて、リリエさんの手を握り隠れた。
数時間もすればこちらが優勢になり、終わった。
どうやらうちの土地が欲しかったようだ。
そして、しず子も回復した。
「ご心配おかけしました」
「しばらく休んでろ」
俺はしず子に感謝した。リリエさんを守ってくれたこと。そしてリリエさんにもあの場で応戦してくれたことに。
「俺が惚れた理由だよ」
「え、なにが……? 」
百合の話のように美しいだけじゃくて芯が通っていて強いところ。
「愛してる、リリエ」
と言ってみればすぐ真っ赤にして顔を背けた。
そういう所が可愛いんだよな。