全てはあの日に放った自分の言葉が始まりだった。
「桃中将、わたしも連れて行ってください」
平時から色気のある瞳がわたしを見つめる。本当にわたしを同行させても平気かどうか見定めている目だった。
すぐに許可が下りなかったことから、もしかすると中将は危惧していたのかもしれない。
こう≠ネることが分かっていて、それでもわたしの無理を聞いてくれたのだ。
「どうした、考え事か」
「は、あっ、いえ……っ」
大きな手が身体を這う。
触れるか触れないか、こそばゆいような気持ちいいような感覚を生み出すその動きに攻められてどれほどの時間が過ぎただろう。
わたしの思考は溶け始めていた。
「海賊の手に堕ちる海兵とは滑稽だな」
「んっ」
「この文字は何の為に掲げられているのやら……」
「言わ、ないで、くださっ」
耳元で低い声と共に空気が揺れて、反論の言葉も出なくなる。
この人はわたしの背徳感を弄るのがとことん好きらしい。
敵対する者の手に穢されるこの身体をいやにどろどろに溶かすくせに、わたしに現実を思い出せと『正義』の羽織をチラつかせる。
肌けた身体にあかい花を散らせて歪んだ表情を見せるこの人の、驚くほど浅い罠にかかったわたしが喰われたのは簡単だった。
けれどこの人は罠にかかった餌をかじっては放す。餌は永遠に逃げることができるはずなのに、ノコノコとまた喰われにやって来るのだ。
この人の言う通り、なんと滑稽なことだろうか。
それでも何度でも罠にかかりに来てしまうわたしは――。
望んだ檻/160916
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