愚かだわ。


「誰の許可を得て笑っている?」
「テ、テゾーロ様! お許しください!!」


 遠目からでもわかるほどに顔を青白くした男の、切羽詰った声を聞くのは何度目だろう。


「私より先に笑うな」


 彼の所有物だったモノが、今宵も一つ出来上がった。恐怖に染まり切った表情のまま、黄金に固まる男。

 それを手を叩いて面白いと笑う彼。笑え、と言うその姿に、この場にいる者たちは恐怖を覚え、再度理解しただろう。
 自分たちは、この新世界の怪物≠ナある男に支配されているのだと。
 この黄金帝から逃れる術はないのだと。

 黄金とはいえ、死体が出来上がるまでを見ていてこのまま酒の続きが飲めるほど気持ちのいいものじゃない。笑う彼の神経が理解できないわたしは静かに席を立った。


「戻るのか」
「ええ。気分が悪いわ」


 数人の息を呑む気配がする。
 何が彼の逆鱗に触れるか分からないのに、馬鹿なことを、とでもいったところか。


「貴方は、貴方の最も恨む奴らと同じね」
「なに……」
「気づいていないのか、気づかないフリをしているのか……わたしからすると愚かなのは貴方も同じよ」


 聞き耳を立てていた者たちが我関せずと各々の輪に戻っていく。けれど怯えているのだろう、いつ何が起きても逃げ出せるように皆出入り口の近くへと寄って行っている。


「口の聞き方には気をつけろ。お前でもおれの気分を害せばわかるだろう」
「そうね。悪いとは思うわ。だってわたしはそんな愚かでどうしようもない貴方が愛おしくて仕方ないんだから……その手で殺されるなら本望、ってところかしらね」


 ああでも、黄金で窒息死はなんだか間抜けすぎて気が乗らないわ。

 冗談とも本気とも取れる言葉を溢して、自慢のヒールを履いても埋まらない身長差に下品にも舌打ちして、頬に手を伸ばした。
 不機嫌というよりも、本当に逆鱗に触れる一歩手前の表情をしている。何か一つでも間違えれば、わたしはあの世だ。

 ほんの数秒、触れた唇ですべてが伝わればいい。


「でも、死体を見て気分が萎えたのは本当だから。今度は貴方がわたしの機嫌取りをしてくれる?」


 無言で降ってきた、呼吸を食べ尽くすようなキスに溺れてしねるならどんなにいいかしら。



この海に命を預けているということ/160918
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