「ねえ神威」
「ん?」
「神威はどうして、人を殺すの?」


 その質問に微かにだが珍しく目を見開いてしまったのは、彼女のそれがやはり珍しいものであったからに他ならない。
 彼女は稀に、その穢れを知らない無垢で純粋な瞳で俺を見据えながら、とても答えにくい疑問をぶつけてくる。


「あれ、名前は俺の意思をわかってるんじゃなかった?」
「うん。知ってるよ」


 すんなりと返された肯定にあれれと首をかしげてしまったのは仕方ないだろう。
 うーん……さすがの俺でも困るときは困るんだよなあ。


「強い人と戦いたいんでしょ? でもね、戦うことが殺すことに繋がるのはどうして?」


 戦いの勝負はなにも生死だけじゃ決まらないと思うんだよね。そう言った彼女はやはり無垢で純粋で――とても甘い。

 完全な勝敗は生きるか死ぬかによって決まる。弱いやつが生きてたって邪魔なだけなんだ。俺は強いやつと戦いたい。そいつの血を浴びればこの渇きは一時的とはいえ少し満たされるし、そいつの心の臓を止めればその場に立っている俺が強いと明確になる。
 これは俺の楽しみで、本能で、核だ。


「戦うことが? それとも殺し合が?」
「どっちも。というか、名前のいう戦いだとどのみち殺し合だろう?」
「え?」
「その戦いって、いくさって書くだろう? いくさはつまり、殺し合じゃないか」
「あ、そっか。地球の言葉ってどうしてこんなにもややこしいのかな」
「さあね。地球産の名前がわからないんなら、俺はもっとわからないよ」


 もういいかい、と話を終わらせようとすれば、彼女の口から続きがもれた。


「じゃあ、神威はどうしてわたしを殺さないの?」


 今日は質問日和なのか、その攻めはやまない。
 けれどさすがに今の問い掛けには、即答できなかった。


「神威は弱いやつが嫌いでしょ? なのに生きていても邪魔な存在の弱者――わたしを殺さずこうして側に置いておくのは、どうして?」


 俺の瞳を覗き込む彼女はただ純粋に不思議がっているようだった。

 どうして、か。そういえば考えたこともなかったな。
 細くて少し力の方向を加えるだけで簡単に折れてしまいそうな身体も、鈴のように細やかな声も、俺を映すガラス玉のように濡れた瞳も、全てが弱者を表すような存在の名前。

 弱者は生きてる価値もない。けど名前は生きている。
 弱いやつに興味はない。けど名前には興味がある。


「俺は名前を殺さない。それでいいじゃないか」


――それとも、俺に殺されたいのかい?


 いつかの侍の国で出会った少年に教えたように、笑顔を向ける。
 笑顔は俺の殺しの作法。冗談だと告げたけれど、冗談ではなかったりするのだ。だからこれは、ほんの脅しで、牽制で、弱い彼女に対する俺の僅かな甘さ。


「うん。神威に殺されたいのかも」
「……ははっ、相変わらずおかしいね」


 だからどうか、奥底に閉じ込めてないものとしたそれに、気づかせないでくれ。


星の残骸に願う

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