わたしは雲雀くんが嫌い。
せっかく中学生最後のクラス替えで同じクラスになれて、しかも今はとなりの席だっていうのに、群れるのは嫌いだとかなんとか言ってこれまでと変わらずぜんぜんまったく、これっぽっちも教室に来ないし。
風紀委員の仕事がたまってるだとかなんとか、休み時間も応接室にひきこもって、たまに出てきたと思ってもわたしのところへは来ないで、屋上で昼寝するか好物の群れを咬み殺しに出向くだけ。
しかもちゃっかり黄色い鳥――ヒバードはついてくの。
酷いと思わない? 彼女であるわたしよりも、何処そこから勝手に懐いてきた鳥のほうが雲雀くんの傍にいるなんて。
気が向いた彼に取り付けてやっとのこと迎えてデートの日にもいるのよ。
まったく、図々しいったらありゃしない。
ああ、デートって言えばまともにそんなことしたことないわ。
この前は待ち合わせに20分近くもなんの連絡もなしに遅れてきてね、その理由が途中でうまそうな群れを見つけて咬み殺してたから、だったの。
そう、笑っちゃうくらい彼らしいでしょ?
でもね、よく考えてみて。わたしは鳥にも群れにも負けたっていうことよ? 冗談じゃないわ。
しかも返り血の所為で服が汚れて不愉快だ、なんとか不機嫌になってデートは中止。わたしも血だらけの人のとなりを歩いて平然とデートを楽しむド天然でもないから。
――それで、本題なんだけど、雲雀くんにとってわたしってなんなわけ?
「ねえどー思う? ツナくん」
「ど、どうと言われましても……ってゆーかなんで先輩がオレの部屋に?」
「リボーンくんがお茶に呼んでくれたの」
「マフィアは女を大事にするもんだぞ」
「だからってなあ!」
「そんなことよりツナくん、答えてよ」
何度かお邪魔したことのあるツナくんの部屋は、今日も中学生男子らしい散らかり具合。
年頃の男の子、という言葉が当てはまるツナくんはわたしのかわいい後輩だ。
そんなツナくんと小さなテーブルに向かい合って座っていたのをズイズイととなりへ移動して、その制服の襟元を掴んで揺さぶってみる。
かわいい後輩のこれまたかわいい家庭教師にお誘いされて、甘えてグチってしまうほど参っていたりするのだ。
けれど襟をつかんで聞いても、ツナくんは戸惑ったようにやめてくださいと言うだけで答えてくれない。
「今日なんてね、応接室に行ったら邪魔だから静かにしててよ、って目も合わせずに言い切ったのよ! わたしがあの漢字だらけで目の痛くなる書類に負けるなんて! 雲雀くんはわたしよりも書類が好きなんだって。だからわたし、雲雀くんが嫌い!」
「いでっ!」
あの万年群れアレルギーで咬み殺すことしか考えてない戦闘マニアの朴念仁め!
怒りで勢いがつきすぎてツナくんの襟元を放してしまった。
「……えーっと。じゃあどうして先輩は雲雀さんの傍にいるんで、すか……?」
どてんと頭からひっくり返ってしまったツナくんに慌てて謝り引っ張り起こすと、少し控え目に放たれた問い。
それに思わずきょとんとしたが、笑ってやった。
「そんなの、決まってるじゃない」
「――名前」
突然ツナくんの部屋のドアが開いて、そこには相変わらず仏頂面でわたしを呼んだ雲雀くんが立っていた。
今日最後にみた学ラン姿のまま……と言っても、大抵が学ラン姿なのだけれど。応接室でわたしより書類を選んだ彼だ。
廊下からこの部屋へ現れたということは、珍しく窓からでなく玄関からお邪魔したらしい。
「ちゃおっス雲雀」
「やあ赤ん坊。名前が世話になったね」
「そんなこともねーぞ」
先程までほとんどわたしとツナくんのやり取りを傍観していたリボーンくんと言葉を交わす雲雀くん。
お気に入りのリボーンくんと話してるときはいつだって機嫌がよさそうに見える。
「名前、帰るよ」
「わっ!」
間抜け顔でそれを聞いていたわたしの腕を掴み部屋を出ようとする。
そのまま引きずられるも、さっきのツナくんの問いに答えていないのを思い出して振り返った。
「ツナくん! さっきのね、それでも最後にはわたしのところに来てくれるから大好き、それだけだよっ!」
「…………」
雲雀くんにしては珍しく、わたしが言い終えるまで進まず立ち止まっていてくれた。
ほら、なんだかんだいって大切にされてるでしょう? わたし。
嫌い、
だから大好き
(……結局なにしに来たの先輩って)(惚気にだな)
090505/180322
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