最近、俺と雪男とクロとしかいない旧男子寮に、よく入り浸るやつがいる。

 女で、いつも煩くて、ぐーたらしてて、ジャラジャラしたもんいっぱい付けて、志摩とよく馬鹿やってて、俺の料理をうまそうに食べてくれる一人で。
 自他ともに認める大の猫好きだ。



「クーロー!」

 寮の外から、叫びながら走ってくるあいつの声が聞こえると、ベッドで丸くなっていたクロがパッと顔を上げる。

(名前だ!)

 ただでさえまん丸いがさらに大きくなって嬉しそうに窓から外に飛び降りて行ったクロのあとを目で追うと、寮の前で図体のでかくなったクロに抱き着いてじゃれてるあいつ――名前の姿。
 今日もカワイイだとかお嫁にほしいだとかわけわかんねえ盛り上がりをみせる。

 一通り遊ぶと二人――いや一人と一匹? を見下ろす俺に気がついた名前が右手を上げた。


「よっ燐! 今日もお邪魔するよー」
「おう」


 女らしくねえ気さくな雰囲気は学校でも男女ともに人気があり、俺も名前と過ごすのは楽しくて好きだ。
 あとあのカタブツ雪男も名前の前だとタジタジになるのも見ていておもしろい。

 少し待つと、いつものサイズのクロを腕に抱いた名前が俺と雪男の部屋にやって来た。
 さっきと同じような言葉を交わして、無遠慮に俺のベッドにどさっと腰を下ろす。鞄は足元、クロは変わらずその腕の中。


「はあぁ……クロかわいい。ちょうだいよ燐」
「なんでだよ。クロは俺の遣い魔だっつーの」
「燐はいけずだねー」

(りんいけず!)

「クロ……おまえは悪魔なんだから他の生徒もいる名前の部屋には行けねーだろ。なんかあったらどーすんだ」

(だいじょうぶ!)


 クロに頬ずりしている名前がそのまま後ろに倒れてベッドに沈んだ。
 そのまま人の気も知らないでクロとゴロゴロし出すもんだから目のやり場に困る。
 他の女子よりも短いスカート丈についつい目がいってしまうのは仕方ないっつーか、確かに煩くて馬鹿なんだけどこいつもちゃんと女なんだな。

 そのまま眼福にありついているのもいいが、課題が終わっておらず渋々そっちに集中することにする。
 だって雪男が帰ってくるまでに終わらせてねーと今回はおっかなさそうな脅しを置いて行かれたからな。仕方ねえ。


(りんー、名前ねちゃったよう)

「はあ?」


 名前の声とクロの声をBGMに、いつしか珍しく集中してそれすら耳に入ってこなくなっていたころ、クロがそう声を賭けてきて、素っ頓狂な反応を返してから椅子から腰を上げる。
 俺の中で長時間イスに座って机に向かっていたために固まった身体の関節がボキっと音を立てた。


「ばっかだなあ燐」
「のわっ!?」


 ベッドまで近づいて様子を見ようとすると、寝ていたはずの名前が勢いよく起き上がってきた。


「のわっ!? だって、クロ」

(へんなこえだ!)

「うんうん、ばかっぽいねー」
「だあああっ! 名前ほんとはクロの声聞こえてんだろ!?」
「ええ、そうだったらどんなに嬉しいか!」


 当然だが人間の名前にクロの言葉は通じないはずなのに、どうしてか毎度毎度ふしぎなほどに会話が成立している。
 雪男もシュラもしえみも、力があるやつもないやつも関係なくみんなわかんねえっつーのに。


(名前、おれのゆってることわかるの?)

「んー? ごめんねクロ、わかんないや」


 それはクロの問いに対してなのか、単に何を言ってるか理解できないからなのか。
 同時にがっくりする二人――じゃなくて一人と一匹に、なんだか俺がいたたまれなくなる。別に俺が何かしたわけでもないのに。なんだこいつら。


「うん。けど言葉が分からなくたって関係ない。クロ、うちにおいで!」

(! いくいく!)


 両手を広げた名前に飛び込むクロ。
 とんだしばいを見せられてるみたいだ。あいつらの周りだけキラキラしたり花が見える。


「てわけでクロはもらっていきまーす」
「させるかああああ!!」



ペットにやきもち

「兄さんまた名前さんを怒らせたの?」
「……ちげーよ」
「……素直になればいいのに」
「うるせえ!」


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