淡く色付くその花は、毎年短い期間に咲き誇っては人々を魅了する。


「今年もお花見できてよかったねえ」
「オレはランボの暴走のせいで疲れたけど……」


 週明けの登校時間、珍しく二人で並んでゆっくりと学校へ向かっている。
 となりの幼馴じみを慕う銀髪の獄寺くんも、野球部の山本くんもいない。家の塀を伝ってついて来るリボーンくんも、今日はいなかった。

 中学一年のとある時期から幼馴じみの周りは随分と賑やかになって、こうしてわたしと二人でいる時間は久しくなかった。

 昨日の休日だって、沢田家の居候含め彼を取り巻く人たちとお花見をしたけれど、賑やかという一言で表すのもどうかと思うほど騒がしかった。
 わたしはとっても楽しかったけれど、あのボケ大所帯をほぼ一人で捌かなければならない幼馴じみの苦労は計り知れない。
 本人も思い出しているのかとなりでゲッソリとしている。


「ビアンキのポイズンクッキングのせいで胃はいたいしリボーンのせいで打撲だらけだし桜の記憶がない……」


 がっくり項垂れる幼馴じみの頬には、昨日ランボくんの暴走でできた傷がある。
 カバンから絆創膏を取り出してえいっと貼り付けてあげると目があった。


「え、なに?」
「バンソーコ」
「ありがとう」


 ふにゃりと笑った顔に、かわいいライオンの絵柄の絆創膏はなんとまあ似合うこと。


「よし、ツナ行くよ」
「あ、うん。って名前? そっち学校の道じゃないって!」
「あはは、知ってる」
「はあ!?」


 久しぶりに繋いだ幼馴じみの手は記憶にあるよりも大きくてゴツゴツして、知らない人の手みたいだ。
 背だっていつの間にかわたしよりも何センチも伸びていて、短い短いとからかわれていた脚もスラリと長くなっている。

 力だってきっと、ぜんぜん違うんだろうなあ。
 昔よくしていた腕相撲、今なら瞬殺でわたしが負けそう。

 それでも急に手を繋いで学校とは違う道を行くわたしに連れられてくれるんだから、優しいのは変わらない。


「はい、到着」
「河原……?」


 いつかの日に、幼馴じみがドッボーンと落ちて風邪を引いてしまった河原。少し進めばそこは桜の並木道になっている。
 めったに通らないそこを手を繋いだまま歩いて行く。


「あちゃー、やっぱ葉が出てきてるね」
「そりゃそうだろ」


 桜の見頃は春休み期間にピークを迎えたから、新学期の始まった今では少し時期を過ぎてしまった。
 それでも風が吹くとひらひらと舞う淡い花びらはまるで、わたしたちを迎え入れているように見えて世界がここだけ切り離されたようだ。


「特等席ってやつじゃない? 二人占めだよ」
「無茶苦茶だな」
「ツナってばロマンがないよねえ」
「うっうるさいな」


 軽口を叩きながらも視線は常に上を向いていて、視界に広がる淡色を楽しんでいる。
 ジョギングしてる人も、犬の散歩をしてる人も、学校や会社を目指している人も通らない、二人だけの道。
 みんなではしゃいで騒いで賑やかなお花見もとっても楽しくて好きだけれど、そんな日常と一歩差をつけてこの幼馴じみと二人で見る桜は心底安心する。


「今年の桜、記憶に残ったでしょ?」
「…うん。きれいだ」


 きっと同じことを感じているはず。だから屈託のない穏やかな表情を向けてくれるのだ。
 幼馴じみのこの顔を見ることができるのはきっとわたし一人だけ。
 繋いだ手に一瞬力が込められて、それが緩んだかと思うと指と指を絡ませて再びつながった。


「……名前、ありがとう」
「いーえ?」


 いつもウブなのに珍しいなあと思いながらも、嬉しくてその腕に寄り添ってみたら案の定それには恥ずかしいのか離されてしまった。
 けれど並木道の終わりから再び引き返す際には諦めたのか好きにさせてくれた。
 粘り勝ちってやつね。

 ついでにゆっくりしすぎて、学校に遅刻しそうなのはまだ黙っておこうかな。



花の世界でふたりきり

180403
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