真夜中に魘されるこの人の姿を知っているのは、おそらくわたしだけ。


「や、やめてくれ!!!」


 誰も、悪夢に怯えるこの人の姿など想像したこともないだろう。
 政府の介入できない煌びやかなこの船の主で、天竜人とのパイプを持ち、新世界の怪物と恐れられ、ステージでは観客を魅了するエンターテイナーであるこの人が背負う過去を――右の背に在るものの意味を、誰も知らない。


「テゾーロ様」
「ッ……あ、あァ……」


 飛び起きた彼の目の焦点は合っておらず、荒い呼吸のまま困惑していたが、呼びかければようやくわたしの気配に気づき、この状況を理解したようだった。


「喉、渇きませんか?」


 水を差し出せば気だるげに喉を鳴らして飲み干した。
 普段はしっかりとオールバックにかき上げている髪も、今は垂れ下がり、悪夢によってかいた汗で湿り気をおびてその表情を半分ほど隠してしまっている。
 魘されていた中で乱れてしまった髪をゆっくりと指で梳いていれば、落ち着いてきたようだった。


「……お前は、なにも聞かないな」
「あら、何か聞いてほしいことでもおありで? わたしの睡眠時間があるのか心配ですね」


 彼は喉で押し殺したような笑い声を出した。それは彼が所有物≠ノ手を下すときの笑い声とは違って、背筋を這う異様さはない。


「お前は本当に……いい女だよ、ナマエ」
「お褒めに与かり光栄ですわ」


 かたくて大きな手に引かれて、その広い腕の中に抱きしめられる。
 この国を支配する彼が悪夢に怯える夜に、少しでも安らぎを与えることができるのであれば……わたしはずっと、この人と共にある。



枯渇する夜に添う/160916
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