「では、開けさせていただきます」
「おー」
 ジャジャーン、と自前の効果音を口にして、わたしは品の良い白い箱を開いた。
 相手に報告も連絡も相談もせずにケーキを用意するのはすっかり恒例となっていた。ホールケーキを半分個して、時には明日に持ち越したりしながら、二人で平らげるのだ。わたしが主役の本日も、ちょっといいレストランで食事をしたあと、荒北くんのお家でついにその瞬間を迎えたのだった。
「タルトだ!」
 まっさらな箱の中、まっかな苺たちがぎゅうぎゅうに身を寄せあって、つやつやのおべべに包まれていた。きゅう、と頬の奥が痛む。
「おいしそう!」
「切るから待っとけ」
「はい!」
 なんで美味いモンの前だとアホっぽくなんだヨ、と呆れた笑いも、褒め言葉にしか聞こえない。
 まっぷたつになったタルトをそれぞれ大きいお皿に乗せて、荒北くんの大きい一口を見届けてから、わたしも口いっぱいに頬張った。
 実感が湧く。あれから一年、経ったんだな〜ってありきたりなことを、丁寧に思う。
「おいしいね」
「当たりだったな」
「ありがとうゴザイマス」
 照れくさくてちょっぴりふざけて、だけど、伝わってほしいなと思う。
 今日がこんなに嬉しい理由とか、荒北くんからもらったぜんぶのこと。
「おめでとーゴザイマス」
 ぺこ、と互いに小さく頭を下げたあと、目を見合わせてだらしなく笑った。
「あのね」
「ん」
「これからもよろしくね」
 伝えたいことはたくさんあるのに、結局わたしから出る言葉はなんの飾りも特別もなく。
「おー」
 パチ、と一瞬目を見開いたあと、素っ気なく返された言葉も。
 だけど、それが妙にくすぐったかった。特別は、大袈裟ではなくなったけれど身近になって、永く、在ってほしいと願う。
 わたしは祈るようにまばたきをして、彼の分よりすこし大きめに切られたケーキの不平等を愛しく頬張った。