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『ベクター皇子とあなた』

白い月の浮かび上がる夜、海辺でベクターと共に歩く。戯れる様にベクターの手に絡んできたその手を思わず制すると彼女が悲しい顔をしたので、思わずその手をベクターは自分から取った。驚いて目を丸くして、恥ずかしそうに俯いて、照れた様に黙り込む。初めて見るその仕草が少し意外で、ベクターは僅かに目を丸くした。二人とも、何となく黙り込んでいた。
彼女が繋いだ手をわざと大きく振った。本当は触れてはならない、このやわらかくてやさしいてのひら。今ここにある事がまるで夢の様だと思った。砂を踏む二人の足音だけが静寂に響く。二人とも一切の言葉を口にしなかった。辺りを吹く風は少し冷たい。1,2,3歩と歩いた所で彼女の柔らかなてのひらが自分のてのひらを少しだけきつく握るのをベクターは感じた。何となく、握り返す。それで彼女はますます恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに俯いた。
「ベクター様、どういうおつもりで?」
「?」
「そんな事をされたら誤解してしまいます、私。」
どうにも彼女の言う事は時々理解できない。
ベクターは訝し気な視線を真っ直ぐに彼女に投げかける。彼のあまりにも疎いその表情が逆に恥ずかしくて「そんなに見ないでください」とその頬をぐっと退けた。彼女の考える事は本当によくわからない。ベクターはまた彼女を見つめたが、すぐに目を逸らした。
ベクターのすこし大きな手の平、甘えない様に甘えてみる。ふともう二度と握る事はないかもしれないと思ってしまったから。


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花束