受け継がれる力
デュエルアカデミアの廊下は、放課後の静けさに包まれていた。
青い制服のスカートが軽く揺らしながら●●は、足早に職員室の前へと向かっていた。●●の表情はどこか緊張していた。手に握られた小さなメモには「質問したいこと」と書かれている。
●●はデュエルではまだまだ初心者だが、負けず嫌いな性格で、どんな小さな挑戦にも本気で挑むタイプである。今日、彼女がここに来た理由は、佐藤先生に直接質問するためだ。授業中、佐藤が話していた「デッキ構築の心理戦」について、どうしても理解したかった。
職員室のドアの前で、●●は深呼吸する。「よし、怖がってる場合じゃない! デュエリストなら、どんな局面でも突き進むんだから!」と自分を励ます。●●はドアを軽くノックし、勇気を振り絞って声を上げた。
「佐藤浩二先生! いらっしゃいますか?」
しばらく沈黙が続いた後、ドアがゆっくり開く。現れたのは、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の佐藤だった。いつも授業で見る影を帯びながらも穏やかな笑顔がそこにある。
「ん? 君は。●●君、だね。何か用かな?」
佐藤の声は柔らかく、どこか●●を安心させる響きがあった。しかしすぐに緊張が●●を襲い、一瞬たじろいだ。軽く頭を振り、●●はすぐに気を取り直す。
「あの、先生! 今日の授業で話してた『デッキ構築の時点で心理戦は始まっている』ってどういうことですか? 詳しく教えてください! 」
佐藤は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに「ほう」と感心したように笑った。
「熱心ですね。じゃあ廊下で軽く話しましょうか。職員室の中はちょっと散らかってるからね。」
二人はドアの前の廊下に立ち、夕陽の光の中で話を始めた。●●はメモを取りながら、先生の言葉を一言一句聞き逃さないように集中する。
「まずは、相手の『癖』を見抜くことから始まります。例えば、君がいつも同じコンボを使ってくるなら、相手はそれを逆手に取ってくるかもしれない。逆に、相手が守備重視のデッキだと感じたら、こっちは速攻で攻めるカードを増やす、とかね。」
●●は目を輝かせて頷く。
「なるほど! じゃあ、相手のデッキを観察して、柔軟に戦略を変えるってことですか?」
「その通り。デュエルはカードだけの戦いじゃない。心の読み合いなんだよ。」
佐藤はそう言うと、ポケットから一枚のカードを取り出した。それは《受け継がれる力》という魔法カードだった。「このカード。シンプルだけど、タイミング次第で相手の計算を狂わせる。こういう小さな一手が、心理戦の鍵になる。」
●●はカードを見つめ、感嘆の声を上げた。
「わあ、購買部に売ってるかな。」
「あげるよ。」
佐藤の思わぬ提案に●●は目を丸くして、首を振る。
「受け取れません、そんな。」
「いいんだ、私のデッキにはすでに入っている。」
そう言うと佐藤はデッキホルダーから自身のデッキを取り出し、数枚捲り同じカードを●●に見せた。
「…いいんですか?」
「もちろん。ただし、使うタイミングは自分で考えなさい。それがデュエリストの第一歩だよ。」
「はい!ありがとうございます!!」
●●は佐藤からカード受け取った。たった一枚のカードが●●には宝物のようにきらきらと輝いて見える。夕陽に翳し、眺めていると遠くから友人の声が聞こえてきた。
「●●! 寮でデュエルの練習するって言ったじゃん! 早く来なよ!」
●●はハッとして時計を見た。
「うわ、もうこんな時間! 先生、ありがとうございました! また質問しに来ます!」
●●は慌ててカードを自身のデッキホルダーに仕舞い、廊下を駆けていく。佐藤は●●の背中を見送りながら、静かに笑った。
夕陽が廊下を赤く染める中、●●の足音だけが軽やかに響いていた。●●の心には、新しいデュエルのヒントと、ちょっとした自信が芽生えていた。走った廊下の先、曲がるところでふと佐藤を確認するといまだに手を振っていた。●●も手を振り返す。ふと佐藤が何か言った気がした。
「頑張りたまえ、●●君。」