頭の中が、ぐらりと揺れた。あ、と思ったときにはもう、慣れた体が無意識にしゃがみこんでいる。床に手をついた。冷たい。抱えた資料やノートを落とさないように片腕に力を込める。目を閉じて黙っていれば、いずれ立ち眩みも止む。けれどなかなか気持ち悪さは抜けない。しゃがんだまま立ち上がれずにいたら足音が聞こえた。こちらに近づいてくる。
覚えているのは、顔を上げようとしたところまでだ。













自然に瞼が持ち上がった。ゆるゆると視界が開けていく中で、それを満たすのは清潔な白だった。鼻を掠めるのは消毒液の匂い。

「…ここは、」
「保健室」

起こそうとした上体を、やんわり押されて私はまた横になった。声の主は、シュタインで、湯気を上げるマグカップをふたつ、デスクに置いてこちらにやってくる。やっちゃった、と私は額を押さえたくなった。

「栄養失調と睡眠不足で風邪気味、それから過労ってとこかな」
「…ごめんなさい」
「働きすぎ」

長い指先が、額を弾いた。ベッド脇の椅子に座った彼は、私の顔を覗き込んだから、私は顔を逸らした。

「痩せただろ」
「…最近計ってなかったから」
「ここまで運ぶとき、何度も落としたかと思った」
「…ごめん」
「幾ら人手が足りないからと言って、ナマエがこんなに穴埋めをする必要はないだろう」
「…うん」

手のひらが、くしゃくしゃと前髪をかき回す。大きな、温かい手が睡魔をつれてくる。

「…ナマエ」
「…なに?」
「次の講義は?」

重たくなっていた瞼が一瞬で持ち上がる。十分後に私の受け持つ講義が始まる。肘をついて上体を起こそうとしたら、またシュタインに肩を押された。

「俺が代わりに行ってくるから、ナマエは休んでなさい。ノートはこれ?」
「でも、」
「いいから」

ぽん、と手のひらが額に触れる。少し下がったな、とシュタインが呟いた。彼は口を閉じたままふわりと笑う。

「こんなときくらい、俺を頼りなさい」

手のひらがいなくなったと思ったら、かさついた唇が額に触れた。

「…フランケン、」
「これ、ナマエの好きなホットミルク。温かいうちに飲んで」
「…うん」
「講義終わったら迎えに来るから寝てなさい」
「…うん、ありがとう」

シュタインは満足げに微笑んで、私の持っていた資料やらノートやらを持って保健室を出て行った。私はゆっくり上体を起こしてマグカップを取る。ぬるくなったミルクを一口飲んだ。甘くて、喉が痛まない。子供の頃、シュタインがよく作ってくれたホットミルクと同じ味。全部飲み干して、私はベッドに潜り込んだ。






確かこれも二番煎じ