小鳥が歌うように、花が綻ぶように、私はあなたに恋をした。
「おっ、今日も精が出るなあ!」
「あ、お早う御座います」
「おはよウ!」
私に向けられた言葉は小鳥の歌より軽やかで、微笑むあなたは花より美しくて、私もついつい頬が緩む。そしてあなたがその大きく色素の薄い目を眇めて、私の胸は満たされる。舞い上がった風が、花びらで空中を満たすように。長い手足を持て余し気味に近づくあなたに聞こえてしまわないか心配なほど高鳴る鼓動は、確かにあなたに恋をしていると口ずさむ。
「今日は何時に上がるんだい?」
「五時です。私、いつも八時から五時までなんです」
「そうか! では帰りにうちに寄っていきたまえ。土産にプディングを沢山貰ったんだ。一緒に食べよう」
「よろしいのですか?」
「勿論だとも!」
朝日を吸い込んで、さらに薄茶に輝く髪があなたの神々しさを引き立てる。屈託なく笑う、そのあどけなさは精悍な顔つきを優しく包む。出入口の掃き掃除をしている時間をいつも待ちわびている。あなたが声をかけてくれるから。
「では五時過ぎにお伺いします」
「早く五時にならないかなあ」
「まだ八時半を回ったばかりですよ」
くすくす笑うと、あなたの大きな手のひらが髪を撫でる。触られているだけで、私の心臓は寿命を急速に消費していくというのに。どうしてこんなに幸せなのでしょう。どうしてこんなに満たされるのでしょう。私は酷く穏やかに緩やかに自然に、あなたへの気持ちを募らせていく。どうしてこんなに、優しい気持ちになれるのでしょう。
「それは僕が」
神だからだ。さっぱりしたその口調が嫌味でないことを教えてくれる。
「私もそう思います」
そうかそうか、と嬉しそうにあなたの手は私の髪を乱す。そして慈しむような視線を向けて整える。私の思い上がりかもしれないけれど。
「違うぞ」
「え?」
「それは違う」
どうしてあなたは私の考えてることが分かるのかいつも不思議に思う。けれど不思議なことは無いのだと、あなたの友人が言っていたと聞いたとき、ああやっぱりそれは必然なんだと気付いた。この優しい手に甘えていたい。
「おお、あんまり引き留めるのも良くないな」
「そんなことありません」
「なまえちゃんは優しいからなあ」
それじゃあ仕事が終わったら間違いなく来なさい、と言ってあなたは扉に吸い込まれていく。約束。自然と頬が緩む。早く五時にならないかなあ、と多分あなたと同じことを考えた。