とてつもなく短い





アイツはさ、と彼が云う。

「能く、不思議なことなんか無いって云うけど」

外で飲んでいた。
店内には外国の音楽が流れている。
これがまた、いまの空気に丁度善い。明らかな機械音がきんきんと騒々しく、凄まじい速さでメロディラインを辿っている。
客の騒めきがまるで歌詞のようで、私が酔っているのはアルコールのせいなのか音楽のせいなのか、分からないくらいだ。
私は黙ってその横顔をぼうっと眺める。

「そんなことは無いと思うんだ」

肘をついて手の甲に顎を乗せていた彫刻のような顔がゆったりとこちらを向いた。
それだけで、心臓が早鐘を打つ。
その口が動いて、私の名を呼ぶ。
嗚呼なんて、甘美な響き。

「恋って、不思議なモノだと思わないかい?」

ガンガン鳴り響く。
耳馴染みの無い、異国のメロディが、私の耳を塞ぐ。
それはまるで耳鳴りみたいで、くらくらと眩暈を誘って。

「…ね、なまえ」

はい、と云ったら、後はもう熱に浮かされるだけ。
後はもう酔い痴れる、だけ。