ぼんやりと目が覚めた。寝返りを打ちたくて、体を動かしたら固いものに当たった。頭が覚醒してくるにつれて、枕の感触とか掛け布団の匂いとかに違和感を覚える。
うちじゃない。そう思って隣を見た。そこにいたのは銀髪の男だった。私が絶句している隣で、すやすや寝ている。よく見れば私が枕にしているのは男の逞しい腕だった。布団を少しだけ上げてみて確認する。互いに下着しか身につけていない。昨日、と記憶を探るとそれは案外するりと思い出せた。
飲み屋で会った男だ。彼氏の浮気を責めて別れを告げたその足で、ふらふらと飲み屋に入った。自棄になって黙々と酒を飲んでいた私の隣に座ったこの男が話しかけてきたものだから、先ほどの苛々を吐き出したのだ。すっかり酔っ払った私が帰りたくない、と駄々をこねたから家に連れてきてくれて。酔った勢いで何をしてるんだ、と頭を抱えたくなる。確か銀さん、と言った。寝顔を見つめる。顔は悪くない。というか、タイプだ。良いひとそうだが、どうして会ったその日のうちに事に及んでしまったのだろう。
「…そんなに見られたら穴開いちゃうんだけど」
片目をうっすら開けた銀さんとばっちり目があってしまう。この後どうするかを考えてなかった私は硬直した。
「えっ、ああ、すみません」
「なに、そんなに銀さんイケメンだった?」
「…まあ」
それにしても、どうして銀さんはこんなに普通にできるのか。茶化したような質問に正直に答えたら、返事が来なかった。視線を上げてみたら前髪をぐしゃぐしゃと乱される。
「わ、」
太い手首を掴んで動きを封じる。きっと私の力ごときで動けなくなることなんてないだろうが、その手は止まった。
「なにするんですか…あ」
耳、真っ赤。そう言ったら銀さんはちょっとだけのバツの悪そうな顔をして、私の前髪を乱したその手でがしがし天パを掻き毟った。なんだこの空気は。ゆきずりの一晩を過ごしてしまった翌朝の空気じゃ、ない。
「ていうか、あの、昨日、やっぱり…」
どう聞くべきかも分からず、私は下を向いた。胸板が視界を満たして、そのまま視線を横へやった。返事はまたもや返って来ない。恐る恐る顔を上げてみたら、銀さんは怪訝そうな顔で私を見ていた。
「…昨日のこと覚えてる?」
「…なんとなくは」
そういえば、ここに着く辺りの記憶が不確かだ。私の表情を見てか、銀さんは不敵に笑った。
「銀さんが彼氏だったら良かったのにー」
「…え」
「って言ったの覚えてる?」
まごつく私に構わず、銀さんは続ける。
「じゃあ彼氏にする?」
銀さんのかっこいい顔が、記憶の中のそれに重なる。昨日の夜みたいに、頬に熱が集まる。けれど、いまのそれはアルコールのせいじゃない。
「って言ったんだけど、覚えてる?」
「…私、」
「銀さんの彼女になりたーいって」
すべてをすっかり思い出した私は、羞恥から悲鳴を上げてその言葉を遮った。昨日の自分を殴りたい。あんなに酔っ払った自分を殴りたい。
「思い出した?」
「…思い出した」
額に唇が掠める。そんな馴れ初めで良いものかと思う一方で、結果オーライかもしれないと思い始めた。そんなに大胆な言動なんて、素面じゃあとてもできない。
「一応言っとくけど、酔ってたからとか、誰でも良かったとか、そーいうんじゃないからな。俺は」
強調された、俺はという言葉。銀さんは私の返事を待っている。からかうような表情をやめた銀さんを、多分、昨日も見た。その差に、私はもう。
「私、も、そんなんじゃないよ。ちょっと…口が滑っただけ」
「そら良かった」
目を細めて笑う顔を見たら、どうしてこんなに満たされたような気持ちになるのでしょう。好きだよ、と呟いたら、また耳が少し赤く染まっていた。