ぱちぱち、弾けては火花は消えていく。膨れ上がる火の玉は、やがてぽとりと落ちた。

「あ、落ちちゃった」

そう言って、銀ちゃんが持つ線香花火を眺めた。黒に近い濃紺の中で、それは赤く輝く。疾っては消える火花は少しずつ弱まって、やっぱり火の玉は落ちた。

「なーんか、寂しいね」
「なにが」

膝に肘をついて手のひらに顎を載せている私を覗き込むように銀ちゃんは首を曲げた。その間にも、彼は私の買ってきた缶ビールを飲もうとプルタブに指をかける。

「もう夏も終わっちゃうんだなーって」
「来年も来るだろ」
「それはそうだけど」

少しずつ少しずつ、秋は近づいてきて、まるで置いていかれるような置いていくような、そんな気がして寂しかった。どの季節よりも、あっという間に過ぎ去ってしまう錯覚。ビールを呷る銀ちゃんと目が合う。

「もう夏もやりつくしたけどなー」
「今年、全然夏らしいことしてないや」
「俺あ、神楽と新八にせがまれて海行ったしー、祭りも行ったし」
「いいなあ」

銀ちゃんに倣って、温くなった缶ビールを取る。少しだけ伸ばした爪では開けづらい。

「あ」
「ん?」
「ちょっと待ってろ」

天を仰ぐように、缶の底に残った一滴までを飲んで、銀ちゃんは腰を上げる。そのまま、足取りは確かに階段を上がっていく。ちょっとだけ背中を目で追って、寂しい気持ちのまま、線香花火に火をつけた。苦いビールを流し込みながら、ぱちぱちぱちぱち零れる火花を見ていた。真っ赤な火の玉は、音もなく落ちて消える。がらっと音がして、階段を下りてくる足音が聞こえた。かんかんと規則正しい音。

「この前の余り、やっちまおーぜ」

膝を抱えていた私の脇にすっと差し出されたそれは、半分以上なくなった花火のセットだった。銀ちゃんは隣りに腰を下ろす。適当に取ったのを私に渡して、自分の持った派手な色の紙縒の先に火をつけた。数秒置いて、色とりどりの火花が地面に降り注ぐ。白い煙はもうもうと上がり、線香花火とは比べものにならないくらいの音が絶え間なく弾けている。

「なまえ」

紙縒を持つ銀ちゃんの手が近づく。持たされた紙縒の先を弾け飛ぶ火花の中に差し込んだ。熱を感じていたら、銀ちゃんのとは違う色の火花が地面に向かって弧を描く。真っ暗な夜に、すぐ手の先から溢れ出す夏の色彩。

「あ、銀ちゃんの消えそう」

ふたりの間に置かれた花火のパックから紙縒の色が違うものを何本か取り出す。それを銀ちゃんに押し付けて、私も新しい花火に火をつける。火薬の匂いまで夏を連想させて、私は両手首をぐるぐる回した。金色の火花が、円を描くように残像を残す。

「けっこー楽しいだろ」
「うん、かなり楽しい」

さっきまでの寂寥感なんてすっかり忘れて、私は目の前の手持ち花火に見入っていた。忘れかけていた夏の匂い。夏の色。隣には大好きな銀ちゃんがいる。

「来年は、一緒に海行こ!」
「仕方ねーな」

付き合ってやっか、と笑う銀ちゃんがなんだか格好良く見えて私は慌てて目を逸らした。