※リストカット表現あり


保健室でサボってたら聞いてしまった。彼女が養護教諭と話しているところ。ガーゼを切る音、ポアテープを千切る音、包帯がしゅるしゅる擦れて、多分彼女は泣いていた。出て行く空気じゃあなさそうで、ベッドに座ったままぼんやり聞き耳を立てる。少し話して、足音が近づいて、カーテンが開閉されて。

「どーしたの」

音をたてないようにベッドからのそりと起き出す。目を上げた養護教諭に小さな声で聞いた。ひとつカーテンで閉められた空間を目配せされる。ベッド脇には靴ひもを替えた、見たことのある指定の上履き。スリッパって音するな、と思いながら近づいてカーテンから中を覗いた。真っ白のベッドに、散らばっている長い黒髪。その隙間から見えた耳には銀色のピアスが埋まっている。
いつも長袖のセーラー服を着ている彼女が左袖をまくっていた。手首から肘にかけて、巻かれた白。ああ、そっか。そして彼女と目が合った。

「せんせい」

黒い目に射抜かれて、ただただ立ち尽くしていた。彼女ははっきりとした口調でそう呼ぶ。
先生、ではなかったけど、せんせえでもせんせーでもなかった。それは、せんせい、という音だった。入っていいか分からずに、カーテンだけを少し開ける。

「せんせい」
「…ん、」
「ばれちゃった?」
「…悪い」
「いいよ」

笑った顔に生気が感じられなくて、どこか疲労していて、初めて見た表情だった。寂しい顔だった。

「…だいじょーぶなんか」
「大丈夫だよ」

その包帯の下に彼女は傷を隠して、その表情の下に彼女は痛みを隠しているのだろうか。いつも笑っていて誰とでも仲良くできて、成績も優秀で授業態度も良い彼女の、影。

「…おやすみ、ゆっくり休めよ」

それしか言えずにカーテンを閉めた。