いままでと少しも変わらない顔で、いつもみたいに声を掛けられたけど私はうまく笑えなかった。

「あれ、髪伸びた?」
「うん、しばらく会わなかったもんね」

ほんの少し含ませた皮肉に、銀ちゃんは気づいただろうか。できれば気づいて欲しくないけど、面白くないというのも事実。銀ちゃんは気づかなかったように隣りに座ったから私は間を空けるようにちょっとずれる。

「親父ー、みたらし団子ちょーだい」

私はこし餡の載った串団子をひとつ口に入れた。これで喋らなくて済む。
反物屋に勤める私が銀ちゃんと知り合ったのはこの甘味屋でだった。毎週水曜日にここで遭遇するだけ。世間話とか仕事の話しとか、お団子を食べながらどうでもいいような話しをするだけ。彼が来なかった数週間、私は噂で幾度か彼がどうしているか耳にした。

「なまえちゃんてさァ」
「はい?」
「パフェとか食べないの?」
「…パフェ」
「パフェとかケーキとかプリンとか」

ふたつ残ったお団子を口に入れるタイミングを逃してしまって私は湯呑みに口をつけた。異国の甘味はよく分からない。

「プリンなら頂き物を食べたことがあります」
「えっ、それだけ」
「はい」

それを聞いて銀ちゃんが唸っているうちにまたひとつかぶりつく。またいつもみたいに、色んな話しはしてくれないんだ。しばらく来なかった理由をいつもみたいに面白おかしく話してはくれないんだ。味わうこともせずに、咀嚼だけをして飲み込む。口に残ったあんこをお茶で流した。銀ちゃんはまだうんうん言っている。

「大丈夫なんですか」
「え?」
「怪我、したって聞きましたけど」
「え、あー、ああ、うん、ダイジョブダイジョブ」

そう言いながら湯呑みに口をつけた銀ちゃんは盛大に咽せた。背中をさすると、大丈夫というように上げた手が腕に触れる。生傷は見えなかったけど、白く残った痕は少しだけ見えた。

「銀ちゃんって、すごい人なんですね。私、全然知りませんでした」
「え、いやいや、すごくないすごくない」
「すごいですよ、すごい」

子供みたいにお団子を頬張る姿しか見たことがないから、刀を振るう銀ちゃんを想像できない。ちょっと関わりを持っただけで、全然違う世界に生きてるんだなあって、しみじみ思った。ちょっと交わったくらいで、ちょっと話すようになっただけで。

「なんつーか、嫌われるかなーみたいな」
「…誰が誰をですか」
「…なまえちゃんが、俺を」
「そんなの絶対ありえません」

ひとつ残ったお団子を荒々しく食んだら、銀ちゃんが上の空に返事をする。軽い。私結構、真剣に言ったんだけど。言ったんだけどな。

「うん、そんなことより」
「…そんなことより」
「今度、一緒にパフェでも食べに行きませんか」
「…パフェですか」
「いや、なまえちゃんが食べたいものならなんでもいーです」

低い声が硬度を帯びていて、視線がふらふら泳いでいるのを見たら、なんだか微笑ましいというかなんというか。我慢できずに小さく笑ったら、銀ちゃんは拗ねたように下唇を突き出した。

「私、パフェがいいです」
「お、いつにする? いつがいい?」

私が少し空けた間を埋めるように、銀ちゃんは手をついて身を乗り出した。




銀ちゃんハピバ祭り(希望)